その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は成長を希望する ④

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一方アーウェンは義兄と従者候補が話す内容が隠喩だったり断片的過ぎて、よくわかっていない。
もちろんロフェナも補足する気がないため、ますます疎外感を感じてしまう。
「いいんですよ。今はちょっと大人な会話なんです。アーウェン様も大きくなられましたら、きっとお判りになりますよ」
「ほんとう?」
「ええ、そうですとも」
そう請け負うロフェナの顔はとてつもなく嬉しそうだが、それが自分の変化のせいだとはアーウェンは気がつかなかった。

伯爵家に来た当初のアーウェンは、自分は下男としてここに連れてこられ、一週間かそこらで帰れるものだと──幼子を年齢相応に扱うことなく虐待されていたというのに、けなげに親子としての情を捨てなかったあのひどい男爵家に──そう思い、義妹になったエレノアどころか家令以下の使用人に対しても低姿勢を崩さなかった。
まるでそれは洗脳されているかのように、その場では「違う」と否定されても、目が覚めた数十分の間はどんよりと目が死に、「戻らなくては」と言い出すのを宥めるのがどんなに苦しかったことか。
そんな精神状態が明るい方へと改善されたのは、カラが自分の首に巻き付いていた糸のような黒い痣がすっかり消えたため、迷惑をかけてしまったお詫びにと作ったアーウェンのための食事である。
それがカラの能力なのか、木のヘラで混ぜるスープの中に無意識に自分の魔力をわずかずつ馴染ませてしまったのだが、それがアーウェンの体内でちょうどいい具合に魔力回路を広げると共に流れを調整していることに気がついた魔術師たちの狂喜は凄まじかった。
「なんと!この魔力の流し方が解明できれば、魔力過多になった者たちの職場ができる!」
「魔力が枯渇した者たちにも分け与えられるのでは?」
「伯爵!ぜひこの少年を預けてください!」
ラウドが止めねばほとんどその場でカラを引っ攫うのではないかと思われるほどの熱量で、本邸の真裏にある調理場のすぐ近くに急ごしらえで研究棟が建てられ、カラの調理の仕方を見ながらの魔力添付の研究が始められてしまった。
王宮ではターランド伯爵家からの魔術師派遣から日にちが経っても帰ってこないことから、早急に戻すようにと伝達が来たが、逆に彼らは『帰りたくない』と返書してしまい、一時は謀反を疑われてしまったのだが──余剰とされていた人間の雇用場所が増える新事業の開発とわかると、逆に資金提供を申し出された。
アーウェンもカラも、自分たちがそんなことに関わってしまったとは思ってもいまい。
この新たな試みから上がる収益はふたりにそれぞれ身分相応な分配がされるようにと、伯爵は書類を揃えているところだ。
「……じゃあ、オレも早く大きくなりたいなぁ」
ロフェナが思いに耽っていると、アーウェンがそう呟く。
それはロフェナが暗に言った精神年齢的な『成長』ではなく、明らかに『身体が大きくなりたい』という願望だと気づく。
だが、もちろんそれも伯爵家にいる誰もが願うことだ──特に義父となったラウドが。

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