その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は慕われる ①

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通常の使用人生活では、沐浴などそう頻繁に行われるものではない。
常に清潔であるようにと毎日濡れた手拭いを宛がわれるが、湯を使って全身を洗えるのは週に一度あればいい方──たいていは十五日に一度というのが一般的である。
しかし夫人の命によりアーウェンと倒れた少年は一日おき、交互に沐浴を使わされることとなり、その介添えには特に解毒を得意とする治癒魔法士が就くこととなった。

「アーウェン様のお肌が、以前より白くなりました」
「下働きの少年ですが、黒い血の塊を吐きました」
「背中に黒い紋が現れましたが、描き取る前に消えました」
「喉の糸状の跡がさらに濃くなりました」
「た、大変です!アーウェン様のおぐしが!一瞬ですが、黒くなってからまた元のお色に戻られました!」
「あ…あの子……あの子の髪が……白髪に……」

次々に届く報は快方に向かうと信じられるものばかりだったが、日が経つほどにアーウェンと少年にそんなことを仕掛けた犯人の影はスルスルと逃げていくようだった。
「……どうやら、すべての解毒は済んだようだが……『操りの術』が切れる前の記憶は戻らないままか?」
「はい。本人もいつ『糸』を巻かれたのかわからないらしく……おかしな術です。王城の所蔵にも見当たらない呪法のようでございます」
「アーウェン様のお身体に現れた紋も、おそらくは『印紋』かと思われますが、かなり微かで書に似たものもございませんでした」
「王城にすら……」
ラウドは呆然とした。

体内に残っていた物はやはり薬だったらしく、それらが血の塊や黒い水となるほど肌から滲み出て、使う湯がすっかり綺麗になる頃には、ふたりとも肌色が明るくなった。
アーウェンの髪色はやや明るめの茶色になり、少年の髪はやや黄色味がかった白色になったのを見て、治癒魔術師はそれぞれに魔法回路を開く術を施してみる。
「……これは」
アーウェンはやはり魔力の詰まりがあり、それを通した途端に倒れ苦しみだした。
「アーウェン!!」
見守っていた伯爵が驚いて抱きしめようとしたが、バラットに引き留められ、魔術師はその流れを緩くしようとまた詰まりを作る。
「も、申し訳ございません……おそらく、本来流れているべき魔力が突然あるべき量として流れてしまったため、アーウェン様のお身体にご負担をかけてしまったようでございます」
「あ……あぁ………」
一方、少年の方は成人を迎えるまではあったが、十四歳という年齢でもあったためか、魔力が突然流れる悪寒に耐え、その髪色はさらに色が抜けて綺麗な銀髪となった。
「驚きました。あの少年はかなり豊潤な魔力持ちでございます。平民に置いておくのはもったいないほどの……適性としてはどの系統かはわかりませんが、お預けいただければ必ずや伯爵家のお役に立つ者として育て上げますが……?」
「それはいずれ考えよう。もしかして、このような『害ある者』として使われてしまったのも、その才のせいか……?」
「はい、考えられます」
主人であるラウドと執事長、そして魔術師といった面々に見つめられた少年は何も言わず、自分の手のひらを見つめ続けた。
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