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第一章 アーウェン幼少期
少年は混乱する ③
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改めて伯爵夫人とその令嬢たちと対峙したアーウェンはニコリとも笑わず、まるでいっぱしの騎士のように姿勢を正してテーブルに着く三人にお辞儀した。
「はじめまして、アーウェン。私はターラント伯爵の妻、ヴィーシャムですよ。エレノアは先ほどご挨拶したわね?」
伯爵夫人と名乗った女性はとてもエレガントで、優しい顔つきではあるが実の息子であるアーウェンとちゃんと関わろうとしない母と似ているようで似ていない──実の姉妹ではないのだから当然だが、『母』という存在は誰でも同じようだと思っていたのに、実母や通いの家政婦とはあまりに違うことに混乱する。
何が違うのかと考えてみれば、母はいつも何かに怯えているような悲しそうな顔をしるし、家政婦のおばさんは何かとても怒ったように眉間に皺を寄せているのに、ターランド伯爵夫人はとてもゆったりとした雰囲気で笑っているせいかもしれない。
「先ほどはご挨拶できなくてごめんなさいね?あなたに会うのにおめかししなくちゃって思ったら、支度が間に合わなくって……」
「あ、あの……と、とてもきれいです……おく、さま……」
「まぁ…ふふ……素敵な賛辞ね。これからたくさんお勉強して言葉を覚えれば、これからさらに我が伯爵家にふさわしい騎士となるでしょう」
やや声を震わせながらたどたどしく言葉を紡ぐアーウェンにわずかに眉を寄せたが、ヴィーシャム・ディ・ターラント伯爵夫人はすぐににこやかな表情で鷹揚に頷く。
エレノアは母親とアーウェンが会話するのを黙って見比べてから、横に座っていたお姉さんに断ることなくスルリと椅子を滑り落ち、ふわふわとした芝生の上をまだ危うげな足取りでゆらゆらと身体を揺らしながらアーウェンに向かって歩き出した。
「おにいしゃま?あたちとおはなちちて!」
手を広げて転げるように近づいた女児にアーウェンが慌てて救うように抱きとめると、パァッと花開くような笑みを浮かべて抱き返す小さな手。
「お、おにぃ……?あ…ぼ、く……おにいさまじゃない……『アーウェン』です……あ、の…お、おじょう…さま?」
「……あー?」
「あ、あの……アーウェン、です……」
「あー…うぇん……?」
「うん……え、あ、は、はい……おじょうさま」
「……?おかあしゃま?あーうぇんは…おにいしゃま?」
実はエレノアにはきちんと「もうすぐ新しいお義兄様がいらっしゃって、エレノアと一緒に暮らします」と伝えられていた。
だがその『おにいさま』は「違う」と否定するため、『あたらしいおにいさま』を待ち焦がれていたエレノアの小さな頭は混乱してしまった。
ホホホ…と柔らかく笑いながら子供同士のやり取りを見ていた夫人は、チラリと従僕の方に視線を飛ばす。
「……旦那様とお話させていただかなくてはいけないのかしら?呼んでいただける?」
「畏まりました。旦那様は執務室にいらっしゃいますので、ディナーの前にお時間をいただけるようにとお伝えいたします」
伯爵をここに呼ぶことはできないとアーウェンを連れてきた男の人が頭を下げ、ターランド伯爵夫人は溜息をつきつつも納得したように頷いた。
「はじめまして、アーウェン。私はターラント伯爵の妻、ヴィーシャムですよ。エレノアは先ほどご挨拶したわね?」
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「あ、あの……と、とてもきれいです……おく、さま……」
「まぁ…ふふ……素敵な賛辞ね。これからたくさんお勉強して言葉を覚えれば、これからさらに我が伯爵家にふさわしい騎士となるでしょう」
やや声を震わせながらたどたどしく言葉を紡ぐアーウェンにわずかに眉を寄せたが、ヴィーシャム・ディ・ターラント伯爵夫人はすぐににこやかな表情で鷹揚に頷く。
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「おにいしゃま?あたちとおはなちちて!」
手を広げて転げるように近づいた女児にアーウェンが慌てて救うように抱きとめると、パァッと花開くような笑みを浮かべて抱き返す小さな手。
「お、おにぃ……?あ…ぼ、く……おにいさまじゃない……『アーウェン』です……あ、の…お、おじょう…さま?」
「……あー?」
「あ、あの……アーウェン、です……」
「あー…うぇん……?」
「うん……え、あ、は、はい……おじょうさま」
「……?おかあしゃま?あーうぇんは…おにいしゃま?」
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だがその『おにいさま』は「違う」と否定するため、『あたらしいおにいさま』を待ち焦がれていたエレノアの小さな頭は混乱してしまった。
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「……旦那様とお話させていただかなくてはいけないのかしら?呼んでいただける?」
「畏まりました。旦那様は執務室にいらっしゃいますので、ディナーの前にお時間をいただけるようにとお伝えいたします」
伯爵をここに呼ぶことはできないとアーウェンを連れてきた男の人が頭を下げ、ターランド伯爵夫人は溜息をつきつつも納得したように頷いた。
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