11 / 411
第一章 アーウェン幼少期
少年は混乱する ③
しおりを挟む
改めて伯爵夫人とその令嬢たちと対峙したアーウェンはニコリとも笑わず、まるでいっぱしの騎士のように姿勢を正してテーブルに着く三人にお辞儀した。
「はじめまして、アーウェン。私はターラント伯爵の妻、ヴィーシャムですよ。エレノアは先ほどご挨拶したわね?」
伯爵夫人と名乗った女性はとてもエレガントで、優しい顔つきではあるが実の息子であるアーウェンとちゃんと関わろうとしない母と似ているようで似ていない──実の姉妹ではないのだから当然だが、『母』という存在は誰でも同じようだと思っていたのに、実母や通いの家政婦とはあまりに違うことに混乱する。
何が違うのかと考えてみれば、母はいつも何かに怯えているような悲しそうな顔をしるし、家政婦のおばさんは何かとても怒ったように眉間に皺を寄せているのに、ターランド伯爵夫人はとてもゆったりとした雰囲気で笑っているせいかもしれない。
「先ほどはご挨拶できなくてごめんなさいね?あなたに会うのにおめかししなくちゃって思ったら、支度が間に合わなくって……」
「あ、あの……と、とてもきれいです……おく、さま……」
「まぁ…ふふ……素敵な賛辞ね。これからたくさんお勉強して言葉を覚えれば、これからさらに我が伯爵家にふさわしい騎士となるでしょう」
やや声を震わせながらたどたどしく言葉を紡ぐアーウェンにわずかに眉を寄せたが、ヴィーシャム・ディ・ターラント伯爵夫人はすぐににこやかな表情で鷹揚に頷く。
エレノアは母親とアーウェンが会話するのを黙って見比べてから、横に座っていたお姉さんに断ることなくスルリと椅子を滑り落ち、ふわふわとした芝生の上をまだ危うげな足取りでゆらゆらと身体を揺らしながらアーウェンに向かって歩き出した。
「おにいしゃま?あたちとおはなちちて!」
手を広げて転げるように近づいた女児にアーウェンが慌てて救うように抱きとめると、パァッと花開くような笑みを浮かべて抱き返す小さな手。
「お、おにぃ……?あ…ぼ、く……おにいさまじゃない……『アーウェン』です……あ、の…お、おじょう…さま?」
「……あー?」
「あ、あの……アーウェン、です……」
「あー…うぇん……?」
「うん……え、あ、は、はい……おじょうさま」
「……?おかあしゃま?あーうぇんは…おにいしゃま?」
実はエレノアにはきちんと「もうすぐ新しいお義兄様がいらっしゃって、エレノアと一緒に暮らします」と伝えられていた。
だがその『おにいさま』は「違う」と否定するため、『あたらしいおにいさま』を待ち焦がれていたエレノアの小さな頭は混乱してしまった。
ホホホ…と柔らかく笑いながら子供同士のやり取りを見ていた夫人は、チラリと従僕の方に視線を飛ばす。
「……旦那様とお話させていただかなくてはいけないのかしら?呼んでいただける?」
「畏まりました。旦那様は執務室にいらっしゃいますので、ディナーの前にお時間をいただけるようにとお伝えいたします」
伯爵をここに呼ぶことはできないとアーウェンを連れてきた男の人が頭を下げ、ターランド伯爵夫人は溜息をつきつつも納得したように頷いた。
「はじめまして、アーウェン。私はターラント伯爵の妻、ヴィーシャムですよ。エレノアは先ほどご挨拶したわね?」
伯爵夫人と名乗った女性はとてもエレガントで、優しい顔つきではあるが実の息子であるアーウェンとちゃんと関わろうとしない母と似ているようで似ていない──実の姉妹ではないのだから当然だが、『母』という存在は誰でも同じようだと思っていたのに、実母や通いの家政婦とはあまりに違うことに混乱する。
何が違うのかと考えてみれば、母はいつも何かに怯えているような悲しそうな顔をしるし、家政婦のおばさんは何かとても怒ったように眉間に皺を寄せているのに、ターランド伯爵夫人はとてもゆったりとした雰囲気で笑っているせいかもしれない。
「先ほどはご挨拶できなくてごめんなさいね?あなたに会うのにおめかししなくちゃって思ったら、支度が間に合わなくって……」
「あ、あの……と、とてもきれいです……おく、さま……」
「まぁ…ふふ……素敵な賛辞ね。これからたくさんお勉強して言葉を覚えれば、これからさらに我が伯爵家にふさわしい騎士となるでしょう」
やや声を震わせながらたどたどしく言葉を紡ぐアーウェンにわずかに眉を寄せたが、ヴィーシャム・ディ・ターラント伯爵夫人はすぐににこやかな表情で鷹揚に頷く。
エレノアは母親とアーウェンが会話するのを黙って見比べてから、横に座っていたお姉さんに断ることなくスルリと椅子を滑り落ち、ふわふわとした芝生の上をまだ危うげな足取りでゆらゆらと身体を揺らしながらアーウェンに向かって歩き出した。
「おにいしゃま?あたちとおはなちちて!」
手を広げて転げるように近づいた女児にアーウェンが慌てて救うように抱きとめると、パァッと花開くような笑みを浮かべて抱き返す小さな手。
「お、おにぃ……?あ…ぼ、く……おにいさまじゃない……『アーウェン』です……あ、の…お、おじょう…さま?」
「……あー?」
「あ、あの……アーウェン、です……」
「あー…うぇん……?」
「うん……え、あ、は、はい……おじょうさま」
「……?おかあしゃま?あーうぇんは…おにいしゃま?」
実はエレノアにはきちんと「もうすぐ新しいお義兄様がいらっしゃって、エレノアと一緒に暮らします」と伝えられていた。
だがその『おにいさま』は「違う」と否定するため、『あたらしいおにいさま』を待ち焦がれていたエレノアの小さな頭は混乱してしまった。
ホホホ…と柔らかく笑いながら子供同士のやり取りを見ていた夫人は、チラリと従僕の方に視線を飛ばす。
「……旦那様とお話させていただかなくてはいけないのかしら?呼んでいただける?」
「畏まりました。旦那様は執務室にいらっしゃいますので、ディナーの前にお時間をいただけるようにとお伝えいたします」
伯爵をここに呼ぶことはできないとアーウェンを連れてきた男の人が頭を下げ、ターランド伯爵夫人は溜息をつきつつも納得したように頷いた。
15
お気に入りに追加
784
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる