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お客様名 加瀬七海様

受付・3

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そのまま突然翼はブンブンと音がしそうな勢いで七海の腕を上げ下げしたが、その衝撃がふっと軽くなった。
「うぇ?」
男の子はふわっと煙のように消え、代わりに現れた銀髪の妖精王が手を伸ばして、七海が抱き締める光の妖精をピンッと弾く。
「うひゃぁっ!!なっ、何するんですかぁ!!思念体と言えど、痛覚はあるのですよ?!」
「わかってる。だからやったに決まってるじゃないか」
「ふひぇぇぇ~……社長がキビッすぃい~……」
「しゃちょー?」
七海がコテンと首を傾げる。
「よーせいさんはかいしゃなの?」
かいしゃ…会社……会社?
なぜ自分がそんな言葉を知っているのかと不思議に思うが、そういえば暗闇の中でそんな言葉を聞いたなと思い当たり、ふぅんと納得する。

きっとようせいさんもおしごとをするんだね!

「……たぶん勘違いされているみたいだが、私の姿がこうである以上、この方の認識では我々は架空の……例えば、童話の中の存在のようなものなのだろうな」
「そうですね。ちなみに私は『ティンカー・ベル』です」
「あぁ~…なるほど……いや、いいんじゃないか?」
「何か含みがありませんか?!」
「あっ!」
スルリと光の妖精は七海の腕の中から逃れて、妖精王へとピュンッと飛んで行ってしまった。
あの小さな身体はふわりと温かく、何故か安心していたのだと、身体の芯から冷え始めた七海は不安そうな表情になって二人を見つめた。
「おっ、いかん…少し不安定になってしまった。私はどうも受け入れられないらしい……仕方ない。今日のところは君ひとりで対処したまえ」
「うぇぇぇぇっ?!そっ、そんなぁ!!私まだ研修中も研修中、下っ端どころか見習いの端っこですよ?!」
「翼はもう戻せん。残り十分だ」
「うへぇい……」
七海には理解できない会話を交わしていた二人のうち、妖精王だけが男の子みたいにスゥッと消えていった。
そして髪の毛一本も残さず消え去った瞬間──七海はまるで息を止められていたかのように大きく深呼吸をした。
「ぷっはぁぁぁ───っ!!」
「うわわっ!七海さ…ちゃん!だ、大丈夫?!」
光の妖精はすいすいと七海の周りを飛びながら心配してくれたが、何だかそれがすごく嬉しくて、つい自分と妖精の体格差などかまわずにギュッと抱き締める。
「だっ………」
大丈夫。
そう言おうとして、七海はまたトプンと意識を途切らせた。


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