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無自覚モード

第3話 息を止めてガブっ!

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 次の授業は体育だ。
 もちろん体操服に着替えるのだが……男女着替えるところは教室と一緒。

「お、俺っ、トイレで着替えてくる!」

 女子生徒の視線に耐えきれなかった田中が逃げようとしたが、委員長の七崎さんに捕まり、羽交い絞めにされた。

「ギブギブ! ギブ~!」

 何がギブだ田中よ。
 お前のことは仲間だと思ったのに。

 美少女に羽交い締めにされるとはなんとも羨ましい。

 しばらくした後、解放された。

「ほら、さっさと着替えなさいよ」

「う、うぅ……」

「それともまた股に挟んでほしいの?」

 今度は僕が挟んでほしい!!
 なんて懇願できず、指を加えてみるだけ。

 こんなイチャイチャ見ていたら嫉妬でどうにかなりそうだと思い、さっさと着替えて出ることに。

 シャツを脱ぎ、上半身裸になったところ七崎さんが眉をひそめた言った。

「ちょ、ちょっと日浦くん……!」

 明らかに不満げな様子。
 
 若干頬が赤いのは気のせいだろうか。

「え、なに?」

「いや、その……」

 何が言いたそうな目。
 口をモゴモゴと……

「あっ、僕らもさっさと着替えろってことだよね。分かってるよ。ほら高橋、早く着替えよう」

「お、おう……」

 高橋も1人だと恥ずかしいが、僕と一緒なら少しは平気らしく、テキパキと2人して体操服に着替えた。

「それじゃお先~」

「お、おい日浦!」

「ん? ナンデスカ田中君?」

「た、助けてくれよ……!」

「んー…」

「ん、んー?」

「くたばれ、童貞がッ!!」

「日浦ぁぁぁぁぁーー!!」

 裏切り者のことは知らんっ。
 


「さて全員そろったけれど……田中君だけ何故そんなにげっそりしてるんだい?」

 ダランと猫背で疲れている様子の田中。

 まさか本当に童貞を捨てたのか……。
 あとで尋問するとしよう。

「じゃあ準備体操と柔軟運動を二人組でも作ってやってくれ」

 そう言われ、田中のところに向かおうとした時、ポンポンっと七崎さんに肩を叩かれた。

「日浦くん、私と組もう」

「いいけど……」

 周りをキョロキョロ。
 他の女子は誰も近寄ってこない——僕だけは。

「田中は私と組むの!!」
「はぁ? アタシとだしー!」

 右を向けば田中を巡って取り合いが起こり。

 チッ、と舌打ち。

「ちょっと高橋くんの腕離しなさいよっ!」
「はぁー? アンタこそ離しなさいよ!」

 左を向けば高橋が腕を引っ張られていた。

 チッチッと2回連続で舌打ち。

 そして僕は誰にも取り合いされない。

 チッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッ——

「日浦くん?」

「ううん。なんでもないよ」

 おかしい。
 おかしいじゃないか、僕だけ取り合いが起こらないなんて。

 あーそっか。男子は平等じゃないのか。

 あっはっはっ……はぁ、悲しい。

 遠回しに「お前には興味がない」って言われてるみたい。

 なんか急に死にたくなってきた。

「……あっちに行こう、七崎さん」

「う、うん……」

 騒がしい場所から離れ、軽く準備運動。それから柔軟運動。

「どっちからする?」

「七崎さんからどうぞ」

「分かった」

 まずは前屈。
 後ろから七崎さんを押す。

「ん、んふぅ、んん」

 ……ん?

 僕はけしていやらしいマッサージとかをしているわけではない。
 
 これは前屈だ。

「ん、いたっ、いたいいたい……」

「つぅ……」
 
 手を止めて深呼吸して……ガブッ!!
 
「どうしたの日浦くん……って、血が出てる!?」

 僕のエチチコンロが強火になりそうだったので思わず下唇を噛んだ。

 鉄の味が口に広がる。

 これが青春の味か……。

「あー気にしないで七崎さん。こんなの舐めとけば治るから」

「……な、舐めとけば」

「うん、舐めとけば」

「私が舐めればいいの?」

 んー? どうしてそうなった?

「七崎さんが舐めてくれるの?」

 んー、僕もなんでそう言った?

 訂正しようとしたが、思いの外七崎さんは乗る気で……。

「私、初めてだから優しくするね?」

 それをこの場面で言わないで欲しかった。
 今度は下の方のコンロの火が全開になりそう。

「血なんて汚いからやめておこう」

「でも……」

「やめておこうね?」

「は、はい……」

 圧のかかった言葉と眼力でどうにかなった。

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