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序章

4話 会って5秒で旦那様呼び 

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【今回の学習】
花咲桜果はやべー奴。
————————————————————
「ん?どうやら娘が帰ってきたようだね」

 しばらく話し込んでいる内に、どうやら夕方になってしまったようだ。

「俺たち、帰った方がいいですか?」

 家族水入らずの時間を邪魔するわけにはいかないし。

「いや、娘たちも碧月くんに会えるのを心待ちにしていたから、居てくれないかな?」

「まぁ、花織さんがそう言うなら……」

 恩人だから断われない…っ!

 そして、リビングに入ってきた花織さんの娘さん。
 容姿は今紫色のセミロングに茜色の瞳。頭には桜をモチーフとしたアクセサリーを付けていて、和風美人という言葉が似合う女の子だ。

「お母さん、ただいま戻りましたーー……って、あら?」

 娘さんは俺を見るなり固まった。
 やっぱり男ってそんなに珍しいのか?それとも家に知らない人が居るからか?

桜果おうかちゃん、みてみて~」

 母さんに肩を掴まれ、そのまま美少女さんもとい桜果さんの前へ出される。
 近くで見るとますます可愛いな……。

「私の息子のあっくんでーす♪」

「どうも、碧月です……」

「あ、つ、き……?」

 見つめられることおよそ5秒。

「………旦那様っ!」

 そう言い、桜果さんは俺の胸に勢いよく抱きついてきた。
 その瞬間、たゆんっとした柔らかいものが当たり、なんとも言えない感じになる。

(女の子に抱きつかれるとか初めてされた……。これが痩せたことによる効果なのか……っ!)

「ぎゅううぅぅ~~~……っ」

 俺の腰に腕を回し、満面の笑みで抱きついてくる桜果さん。
 そんな幸せそうな表情に申し訳なさを感じつつ恐る恐る声を掛けてみることにした。

「えーと……桜果さん?」

「違います」

「えっ?」

「奥様ですっ♪」

 俺はいつの間に結婚したのだろうか?

「いやいやいやっ!? なに言ってるのっ!?」

 そう返すと、桜果さんは頬をムスッと膨らませた。
 上目遣いプラス拗ね顔とは最高の組み合わせである。

「むぅー忘れたのですか? また再会したその時にはわたくしを妻として貰ってくれると約束しましたのに……」

「えっ、嘘っ!?」

「嘘ですっ♪」

 満面の笑顔で嘘つけるとか怖っ!?

「でも私はこの日を待ちに待っていました……」

  すると、桜果さんの抱きしめる力が強くなった。そしてその豊満な胸も押し付けられることになり……。

「この桜の簪をくれたあの日から……。いえ、ずっと前から私は貴方のことが……」

「コグリっ……」

「———あいたっ!」

 何か重要なことを伝えようとしている桜果さんの次の言葉は『あいたっ!』という間抜けな声だった。
 それもそのはず。花織さんにチョップを喰らったからだ。

「桜果、碧月くんと再会したことが嬉しいことは分かるけどそこまで」

「むぅ……せっかく私のお気持ちを伝えるチャンスでしたのに……」
 
「えーと、そもそもの話していい?」

「はい?」

「君、誰?」

 そう聞くと、顔面蒼白になった桜果さん。どうやら俺は地雷を踏んでしまったようだ。

「だ、旦那っ……?」

 うっ……そんなウルウルした目で見つめられたら罪悪感が半端ない……。

「ひ、人違いとかじゃないの?」

「いえっ、この首にかけた三日月型のアクセサリーが旦那様という何よりの証拠です!」
 
 このアクセサリーを何故知っている?
 あの日、彼女から貰ってすぐ修行に行ったから知っている人間は限られているのに……。

「桜果、これ以上はキリがないからとりあえず着替えてきなさい」

「……分かりました。 では旦那様、また後で。あっ、よろしければ私の着替えを覗いてもいいんですよ?」

「覗かないよ!?」

「あら、残念。では」

 そして桜果さんは着替えるためにリビングから去っていった。
 
 花咲桜果さんか。中々、積極的な人だな……。

 ◆           ◆             ◆

「ああ、旦那様……♡」

 トロンとした瞳、高揚した頬、震えている全身。桜果は今、人生最大級の悦に浸っていた。

「桜果はこの日をどれほどお待ちしていたか……♡」

 桜果は服を一枚一枚脱ぎバンガーに掛けると、下着姿のままクローゼットを開いた。
 服をかき分けると、そこには幼少期、つまりデブで不細工だった頃の碧月の写真がずらりと貼られていた。

「あぁ、ぽっちゃりとした旦那様も素敵ですが、痩せられた旦那はもっと素敵です……♡これではまたコレクションが増えてしまいます♡」

 写真をなぞるように触り、うっとりした表情で見ている桜果。

「しかし、私のことを覚えていないとは旦那様も酷いです。でも……」

 桜果は人差し指を自分の唇に持っていき、舌舐めずりをした。

「ふふっ、これからはたーぷりと愛してあげますよ、旦那様。いえ、八神碧月様っ……♡」

十全十美じゅうぜんじゅうび
 
 それが彼女につけられている称号だ。
 しかし、今の彼女は乱れに乱れまくっている。
 
 もうお分かりだろう。
 
 花咲桜果は八神碧月のことが大大大好きなのである。
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