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序章
1話 帰ってきて母親に最初にしたことは土下座だった
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【今回の学習】
自分の努力が他人を不幸にすることもある。
————————————————————
「久々の我が家っ…!」
山を降りて五時間後。
今はお昼くらいだろうか。爺ちゃんにお礼を言って5年ぶりの我が家に着いた。
そういえば爺ちゃんが『不用意に裸と笑顔を見せるなよ?』と忠告していたな。なんでだろう?まあいっか!
当然だが家の外観は変わっていない。白を基調としたデザインの二階建。庭には母さんが大事に育てている植物たちが綺麗に咲いていた。
「母さんも梨月も元気にしてるかなー?」
八神美月姫、梨月。俺の母さんと妹の名前だ。父親は俺たちが小さい頃に他界した。
「親父、俺、立派になったよ」
雲一つない青空に向かってそう呟く。きっと「よくやった」って言ってくれている。
そして久々会う家族に胸を躍らせながらインターフォンを押した。
———ピンポーン
押すとすぐさまインターフォンのカメラ部分を手で覆い、自分の顔が見えないようにする。
「宅急便でーす」
そしてわざと女声を出し、俺だと悟らせないようにする。
これでドッキリは完璧だ。折角久々に会うんだ。ちょっとくらいは驚かせたい。
『はーい。今行きまーす』
インターフォンから返ってきた声の主は女性の声。もちろん母さんだ。
母さん、こんなに簡単に引っかかるとか大丈夫なのか?これじゃあ変な男に喰われてしまうぞ?まぁこれからは俺が守るからいっか。
そして数秒後に出てきたのは、胡桃色のゆるふわのサイドテールにピンクの瞳。抜群のプロポーションで変わらず綺麗な母さんの姿だった。
「母さん久しぶりっ!」
久々に会う母さんを俺は満面の笑みで迎えた。
しかし……
「えーと……?」
母さんは困惑した表情を浮かべていた。
(ふふ、驚いてる驚いてる。きっと俺が痩せ過ぎて驚いているんだ)
このまま気づいてもらえないのも悲しいので、自分からネタバラシをする事にした。
「母さん、俺だよっ!碧月だよ。あ・つ・き」
「あ、つ、き……?」
名前を言ってもなお、俺のことを覚えてなさそうな反応。
5年も会わない間に息子がいることを忘れたとか?
「ちょっといいかな?」
すると、母さんは俺の顔をジーとガン見し始めた。
見つめられること数秒。ようやく気がついたような反応をし始めた。
「あ、あぁ、あ、ああ」
故障したロボットのようになる母さん。
俺はすぐさま、両手を広げて母さんが飛びつけるように準備する。
「あっくーーーん!!」
「おっと」
母さんは懐かしい呼び名、『あっくん』と言い、俺に勢いよく抱きついてきた。
「ただいま、母さん」
◇ ◇ ◇
「ぐずっ……5年も会えなくてお母さん、寂しかったよ~」
「ごめん、ごめん」
対面に座っている母さんは未だ号泣している。
ちなみに今日は平日。妹の梨月は学校である。
「ぐずっ……連絡くらいくれても良かったのに~…」
「しは……じゃなくて、爺ちゃんから禁止されてだんだよ」
爺ちゃんの家では携帯どころか、ゲーム機、遊び道具に規制がかかっていた。
ただ一つ。小説ならOKだった。なんでも本を読むのは大切だとか。
「ぐずっ……お母さんね……ずっとみんなに信じてもらえなかったの……」
急にそんな事を言い出す母さん。
「ん?何を?」
「お母さんに息子がいること……」
「えっ?」
何を言ってるか正直、分からなかったがとりあえず対応する。
「そういうのは戸籍とか見せれば納得するものじゃないの?」
「見せたけどみんな、信じてくれないの……」
ん?どういうこと?
「みんな酷いことばっかり言ってくるの……」
「なんて言うの?」
「『男なんてそう居る訳ないじゃん。夢見るのもいい加減にしろ』って……」
「ごめん、もう一回言って」
「ふぇ?えっと……男なんてそう居る訳———」
「ストップ。本当にどういうこと?」
男なんてそう居る訳ない?
男なんて歩けば数秒で会えるものだろ?
「ぐずっ……。信じられないならテレビを観ればいいよ……」
そう言い、母さんはテレビのスイッチを入れた。
すると女性のニュースキャスターがちょうど報道しているところだった。
『次のニュースです。国内で男の赤ちゃんが産まれました!』
なんで男の赤ちゃんが産まれただけでニュースになるんだ?
その後もおかしなニュースは続いた。
『男が道案内した』とか。
『男が交番にお金を届けた』とか。
ニュースの半分は男関係のことだった。
次々と流れるニュースの中で特に気になるものがあった。
『近年、家庭に男がいると嘘の供述をし、不正にお金を騙し取る被害が多発しています』
あっ、これじゃね?母さんが言ってるのこれじゃね?間違いないわ。これだわ。
じゃあ俺がいなかった5年間、母さんはひたすら犯罪者呼ばわりだったってことか……?
「あっくん……?」
俺は無言で立ち上がり、母さんの目の前まで行った。そして両膝を床につけ、両手でハの字を作り、おでこを地面のスレスレまで持っていきこう叫んだ。
「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」
と。
俺が帰って最初に母親にしたことは全身全霊を込めた土下座であった。
自分の努力が他人を不幸にすることもある。
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「久々の我が家っ…!」
山を降りて五時間後。
今はお昼くらいだろうか。爺ちゃんにお礼を言って5年ぶりの我が家に着いた。
そういえば爺ちゃんが『不用意に裸と笑顔を見せるなよ?』と忠告していたな。なんでだろう?まあいっか!
当然だが家の外観は変わっていない。白を基調としたデザインの二階建。庭には母さんが大事に育てている植物たちが綺麗に咲いていた。
「母さんも梨月も元気にしてるかなー?」
八神美月姫、梨月。俺の母さんと妹の名前だ。父親は俺たちが小さい頃に他界した。
「親父、俺、立派になったよ」
雲一つない青空に向かってそう呟く。きっと「よくやった」って言ってくれている。
そして久々会う家族に胸を躍らせながらインターフォンを押した。
———ピンポーン
押すとすぐさまインターフォンのカメラ部分を手で覆い、自分の顔が見えないようにする。
「宅急便でーす」
そしてわざと女声を出し、俺だと悟らせないようにする。
これでドッキリは完璧だ。折角久々に会うんだ。ちょっとくらいは驚かせたい。
『はーい。今行きまーす』
インターフォンから返ってきた声の主は女性の声。もちろん母さんだ。
母さん、こんなに簡単に引っかかるとか大丈夫なのか?これじゃあ変な男に喰われてしまうぞ?まぁこれからは俺が守るからいっか。
そして数秒後に出てきたのは、胡桃色のゆるふわのサイドテールにピンクの瞳。抜群のプロポーションで変わらず綺麗な母さんの姿だった。
「母さん久しぶりっ!」
久々に会う母さんを俺は満面の笑みで迎えた。
しかし……
「えーと……?」
母さんは困惑した表情を浮かべていた。
(ふふ、驚いてる驚いてる。きっと俺が痩せ過ぎて驚いているんだ)
このまま気づいてもらえないのも悲しいので、自分からネタバラシをする事にした。
「母さん、俺だよっ!碧月だよ。あ・つ・き」
「あ、つ、き……?」
名前を言ってもなお、俺のことを覚えてなさそうな反応。
5年も会わない間に息子がいることを忘れたとか?
「ちょっといいかな?」
すると、母さんは俺の顔をジーとガン見し始めた。
見つめられること数秒。ようやく気がついたような反応をし始めた。
「あ、あぁ、あ、ああ」
故障したロボットのようになる母さん。
俺はすぐさま、両手を広げて母さんが飛びつけるように準備する。
「あっくーーーん!!」
「おっと」
母さんは懐かしい呼び名、『あっくん』と言い、俺に勢いよく抱きついてきた。
「ただいま、母さん」
◇ ◇ ◇
「ぐずっ……5年も会えなくてお母さん、寂しかったよ~」
「ごめん、ごめん」
対面に座っている母さんは未だ号泣している。
ちなみに今日は平日。妹の梨月は学校である。
「ぐずっ……連絡くらいくれても良かったのに~…」
「しは……じゃなくて、爺ちゃんから禁止されてだんだよ」
爺ちゃんの家では携帯どころか、ゲーム機、遊び道具に規制がかかっていた。
ただ一つ。小説ならOKだった。なんでも本を読むのは大切だとか。
「ぐずっ……お母さんね……ずっとみんなに信じてもらえなかったの……」
急にそんな事を言い出す母さん。
「ん?何を?」
「お母さんに息子がいること……」
「えっ?」
何を言ってるか正直、分からなかったがとりあえず対応する。
「そういうのは戸籍とか見せれば納得するものじゃないの?」
「見せたけどみんな、信じてくれないの……」
ん?どういうこと?
「みんな酷いことばっかり言ってくるの……」
「なんて言うの?」
「『男なんてそう居る訳ないじゃん。夢見るのもいい加減にしろ』って……」
「ごめん、もう一回言って」
「ふぇ?えっと……男なんてそう居る訳———」
「ストップ。本当にどういうこと?」
男なんてそう居る訳ない?
男なんて歩けば数秒で会えるものだろ?
「ぐずっ……。信じられないならテレビを観ればいいよ……」
そう言い、母さんはテレビのスイッチを入れた。
すると女性のニュースキャスターがちょうど報道しているところだった。
『次のニュースです。国内で男の赤ちゃんが産まれました!』
なんで男の赤ちゃんが産まれただけでニュースになるんだ?
その後もおかしなニュースは続いた。
『男が道案内した』とか。
『男が交番にお金を届けた』とか。
ニュースの半分は男関係のことだった。
次々と流れるニュースの中で特に気になるものがあった。
『近年、家庭に男がいると嘘の供述をし、不正にお金を騙し取る被害が多発しています』
あっ、これじゃね?母さんが言ってるのこれじゃね?間違いないわ。これだわ。
じゃあ俺がいなかった5年間、母さんはひたすら犯罪者呼ばわりだったってことか……?
「あっくん……?」
俺は無言で立ち上がり、母さんの目の前まで行った。そして両膝を床につけ、両手でハの字を作り、おでこを地面のスレスレまで持っていきこう叫んだ。
「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」
と。
俺が帰って最初に母親にしたことは全身全霊を込めた土下座であった。
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