上 下
16 / 22

第16話 獲得率の低いトロフィー

しおりを挟む
「この先に、ボスが待ってんのか……!」

 ゲームにおけるボスのあり方は色々とある。

 ストーリー上、主人公たちの壁となるべく登場し、物語の転換点となる。ボスを攻略していくこととストーリーがイコールであり、それ自体に意味がある物だ。

 それ以外にも、最近流行りのオープンワールドでは、倒すことに意味がないただの強者というパターンもあれば、倒さなくてもクリアはできるが、倒すことでより世界が深みを増すというものもある。

 つい先日俺がクリアしたファントムダークなんかは、どちらかといえば倒すことでより世界が深みを増すタイプだ。それぞれにバックボーンがあり、メインのストーリーには関係してこないが世界観を語る上で欠かせないキャラクターとなっている。

 世界や国を旅したり救ったりという場合は、そうやって世界観やストーリーと紐づくボスが現れる。だが一方で、純粋な戦闘だけに特化したものもある。それこそ、ローグライク系のゲームはそのたぐいだろう。各ステージ、階層にボスが配置され、倒すことで更に奥へ、更に強い装備の獲得へと繋がっていく。

 ダンジョンに潜り始めてまだ2日だが、俺が受けるこのダンジョンの印象としてはまさにローグライク系が近い。ストーリーは俺たち探索者がそれぞれ抱えている訳で、ダンジョン自体にはストーリー性というものは存在しない。

 だがそうなってくると不思議なのは……王の存在。
 彼らは””を持った存在だ。明らかに、このダンジョンに意図を感じるあり方をしている。

「おーい、どうした少年」
「いや、ちょっと考察の真似事を」
「ほほう、ボスを前に余裕だな。さすがは隠された不思議なスキルを手に入れただけはあるねえ」

 ジートは相変わらず楽しそうにニヤニヤとしている。

「そんなんじゃないっすよ。けど、まあ確かに今はそれよりもボスとの戦いが楽しみで仕方ないっす……!」
「そりゃいいね。期待しているよ」
「言われなくても!」

 俺はそっと扉に触れる。
 すると、まるで自動ドアのように一人でに開く。

 中はかなり開けた空間となっており、さっきまで通ってきた洞窟よりも明るさはかなり増している。

 時に、ダンジョン協会の統計によると。
 新しくライセンスを取得した新人探索者の中で、一層をボス部屋まで踏破できた割合は約23%。そして、一層のボスを討伐し二層へと進むことができたのは12%に留まるという。

 つまり、一体目のボスから超高難易度!!

 大抵の探索者が仲間内でパーティを組んで戦うのを考えると(さっきの女の子も大学の仲間だったように)、ソロでの難易度は桁違いだろう。

 なぜそんなに討伐割合が低いのか。それは、ひとえに戦闘経験の少なさが原因だろう。ユキが言っていたように、初心者は動いて迫ってくるモンスターに対して、正面から攻撃することに慣れていない。

 だが、俺は違う。
 すでにダンジョンの王という、おそらくはこのダンジョンのエンドコンテンツに一足先に挑んでるってわけだ。今更どんな動きをするモンスターが現れたって、あれ以上の速度、攻撃はねえだろ!

 それに、ボス討伐は散々ゲームでやってきた。戦闘の中での情報収集とパターンへの対応、そして勝負感は誰にも負けねえ。

「うっし! んじゃあ、探索初心者が心折れてコントローラーを投げ捨てる激ムズゲームの、獲得率が引く最初のトロフィーでもゲットするとするか!」
「もしかしてだけど、君ちょっとゲーム脳すぎない?」
「ゲーマーなもんで!」

 俺の言葉にははっとジートは笑うと、「まあそれくらいイカれてないと探索者はやってられないわな」と肩をすくめる。

 ジートは辺りをキョロキョロと見回すと、手頃な高い岩の上へと移動する。

「あれ、どしたのおじさん」
「いやあ、なに。君は勝ち方にもこだわるタイプだろう? 年老いたおじさんは邪魔しないように後ろで眺めてるよ」
「わかってんじゃん」

 なんでまだ後ろに居るんだと言いたいところだけど、まあいいや。
 スキルの使い方を教えてもらったわけだし、それくらいは許容しねえとな。

 なんだかジートもそこまで胡散臭い感じじゃなくて、ただの教えたがりの上級者って感じしてきたし、まあなるようになるだろ。

「んじゃ、行くか」

 俺は剣を引き抜くと、ゆっくりと広場の中央へと歩いていく。

 静まり返った空間。美しく輝く洞窟の壁が、より異界感を覚えさせる。

「――来たか」

 ガラガラ――……と、小石が転がる音が聞こえる。
 遅れて、ズシンズシンと、地鳴りのようなものが聞こえてくる。

 それは、正面の暗くなった岩の切れ目からだ。

 その音は徐々に大きくなり、そしてガシッと巨大な手がその岩の切れ目を掴む。

「グオオオオオオオオオオアアアア!!!!!」
「!!」

 空気が震えるほどの巨大な咆哮。
 地面に転がる小石がガタガタと震えている。

 そして、その暗闇から這い出るようにその声の主は姿を表す。

 それは、巨大な岩だった。

「ゴーレム……!」

 さっきのジェネラルオークは大体3メートルちょいくらいだった。

 だが、目の前に現れたボスは、優に4メートルは越えようという巨体だ。二回のベランダを見上げるような形で、俺は首を傾ける。

 ゴーレムはところどころ赤紫色に染められており、いくつかの岩が連なって体を作っているような形をしていた。 

 こいつが、さしずめ第一層の門番ってわけだ。
 相手にとって不足なしだぜ!

「――キャーヴドゴーレムか。そういえば一層のボスはそんなんだったか」

 後ろでジートがそうつぶやく。

 舞台は整った。さあ、攻略を始めよう――!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎町に住んでいたロボット好きの宮本荒人は、交通事故に巻き込まれたことにより異世界に転生する。 転生した先は、古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団……クランに所属する夫婦の子供、アラン。 ただし、アランには武器や魔法の才能はほとんどなく、努力に努力を重ねてもどうにか平均に届くかどうかといった程度でしかなかった。 だがそんな中、古代魔法文明の遺跡に潜った時に強制的に転移させられた先にあったのは、心核。 使用者の根源とも言うべきものをその身に纏うマジックアイテム。 この世界においては稀少で、同時に極めて強力な武器の一つとして知られているそれを、アランは生き延びるために使う。……だが、何故か身に纏ったのはファンタジー世界なのにロボット!? 剣と魔法のファンタジー世界において、何故か全高十八メートルもある人型機動兵器を手に入れた主人公。 当然そのような特別な存在が放っておかれるはずもなく……? 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

賢者の兄にありふれた魔術師と呼ばれ宮廷を追放されたけど、禁忌の冴眼を手に入れたので最強の冒険者となります

遥 かずら
ファンタジー
ルカスはバルディン帝国の宮廷魔術師として地方で魔物を討伐する日々を送っていた。   ある日討伐任務を終え城に戻ったルカスに対し、賢者である兄リュクルゴスはわざと怒らせることを言い放つ。リュクルゴスは皇帝直属の自分に反抗するのは皇帝への反逆だとして、ルカスに呪いの宝石を渡し宮廷から追放してしまう。 しかし呪いの宝石は、実は万能の力を得られる冴眼だった。 ――冴眼の力を手にしたルカスはその力を以て、世界最強の冒険者を目指すのだった。

落ちこぼれの半龍娘

乃南羽緒
ファンタジー
龍神の父と人間の母をもついまどきの女の子、天沢水緒。 古の世に倣い、15歳を成人とする龍神の掟にしたがって、水緒は龍のはみ出しもの──野良龍にならぬよう、修行をすることに。 動物眷属のウサギ、オオカミ、サル、タヌキ、使役龍の阿龍吽龍とともに、水緒が龍として、人として成長していく青春物語。 そのなかで蠢く何者かの思惑に、水緒は翻弄されていく。 和風現代ファンタジー×ラブコメ物語。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

ダンジョンブレイクお爺ちゃんズ★

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
人類がリアルから撤退して40年。 リアルを生きてきた第一世代は定年を迎えてVR世代との共存の道を歩んでいた。 笹井裕次郎(62)も、退職を皮切りに末娘の世話になりながら暮らすお爺ちゃん。 そんな裕次郎が、腐れ縁の寺井欽治(64)と共に向かったパターゴルフ場で、奇妙な縦穴──ダンジョンを発見する。 ダンジョンクリアと同時に世界に響き渡る天からの声。 そこで世界はダンジョンに適応するための肉体を与えられたことを知るのだった。 今までVR世界にこもっていた第二世代以降の若者達は、リアルに資源開拓に、新たに舵を取るのであった。 そんな若者の見えないところで暗躍する第一世代の姿があった。 【破壊? 開拓? 未知との遭遇。従えるは神獣、そして得物は鈍色に輝くゴルフクラブ!? お騒がせお爺ちゃん笹井裕次郎の冒険譚第二部、開幕!】

二周目だけどディストピアはやっぱり予測不能…って怪物ルート!?マジですか…。

ヤマタカコク
ファンタジー
二周目チートではありません。モンスター転生でもありません。無双でモテてバズってお金稼いで順風満帆にはなりません。  前世の後悔を繰り返さないためなら……悪戦苦闘?それで普通。死闘?常在でしょ。予測不能?全部踏み越える。薙ぎ倒す。吹き飛ばす。  二周目知識でも禁断とされるモンスター食だって無茶苦茶トレーニングだって絶体絶命ソロ攻略だって辞さない!死んでも、怪物になってでもやりとげる。  スキル、ステータス、内政、クラフト、てんこ盛り。それでやっとが実際のディストピア。 ようこそ。

処理中です...