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第6話 起死回生の一手と闖入者

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「<闇火球《ダークフレア》>」

 首なし騎士の翳した手から、紫色に禍々しく光る球が放たれる。

 ヒュンヒュンヒュン! と甲高い音をたて、それは三連続で俺に迫る。

「速え——!!」

 俺は周囲を旋回しながら、着弾の瞬間にステップで切り返し、ギリギリのところで球を躱わす。地面には野球ボール大の穴が空き、そこから紫色の炎が揺らめく。

 やっぱり実際に攻撃されると避けるのも一苦労だな……!
 緩やかな追尾がうぜえ! ギリギリまで引きつけないとうまく地面に誘導できねえ……!

 すると首なし騎士は体を僅かに捻り、右手を引く動作を視認する。

 この予備動作は、さっきの弾幕攻撃! 

 俺はすぐさま姿勢を低くし、弾幕を掻い潜る用意をする。

「——<闇の幕ダークカーテン>」
「ですよね! もうわかってんだよ、その流れは!」

 首なし騎士は引いた右手を横一線に薙ぐ。
 すると、<闇火球《ダークフレア》>をさらに細かく砕いたような極小の弾が、散弾のように扇状に展開される。<闇火球《ダークフレア》>とは違い、追尾性のない前方への単純掃射だ。

 予備動作からそれを読んでいた俺は、そのままスライディングして弾丸の弾幕の下を掻い潜る。

 攻撃パターンは読めてきた。”ファントムダーク”やら何やら様々なゲームで鍛えた洞察力は生半可なものじゃないぜ!

 それに、ゲーム画面で見るときはあくまで相手のエフェクトや攻撃モーションでしか判断できる材料というものはなかったが、現実世界ではそれに加えて筋肉の動き具合や空気の揺れ、放つ雰囲気……そういったものまでが判断材料となりえる。

 つまり、モニター越しに見るよりも、俺にとっては判断しやすいというわけだ。しかも、身体能力がそれなりに強化されているから、普段よりもイメージ通りの動きができるのもでかい。

「おもしれえ……! これこれ、こういう戦いを待ってたんだよ!」

 ここまで俺は、ひたすらに観察することに注力していた。
 普段の、それこそ”ファントムダーク”のような死にゲーなら、相手の行動パターンを見切るまで何度か死ぬことは普通だ。死んで覚えていくのが正道だからな。

 けど、ダンジョンには”デッドライン”というものがある以上、長く遊ぶためには死なないことが大事だ。せっかく残機があるのに、様子見で死んでいたらすぐに限界が来てしまう。だったら、初見から注意深く戦い、戦闘の中で対応していくしかねえ。こんなチュートリアルボスで貴重な一回を消費するわけにはいかないしな。

「とはいえ、攻撃に転じないと勝てねえからな。そろそろ動きもだいぶ見切れてきたし、こっからは俺も攻めさせてもらうとするか」

 しかし、そんな俺の覚悟などおかまになしに首なし騎士は手に持った剣を掲げる。

 来た、奴の汎用スキルその1、<ソニックブレード>……! 出会い頭に撃たれたやつだ。あらゆるコンボルートの始点になる基本の型!

「――<ソニックブレード>」

 首なし騎士は剣を振り下ろす。
 すると、衝撃波を伴った垂直の飛ぶ斬撃が真っ直ぐに俺の方へと迫ってくる。

 俺はすぐさまその攻撃を横ステップで避ける。

 すると、首なし騎士は横ステップした俺の行動を読んでいたかのように、俺の体勢が整う前に一気に詰め寄ってくる。

「その動きはお見通しだっつーの!」

 俺はすぐさま剣を前に出し、首なし騎士の剣を受け止める。
 そこで、俺と騎士の剣は交わる。

 剣が震え、俺の手がビリビリと痺れる。
 明らかなSTR差が……! 流石に力じゃ押し勝てねえ!

 だが、支給品の剣でも何とか一撃目を受け止めることができた。これで、ようやく近距離戦に持ち込むことができる。

 首なし騎士は、<ソニックブレード>や闇系の魔法を使っての遠距離攻撃が多い。つまり、近距離戦に持ち込ませず、遠距離に追いやって戦うのが基本スタイルというわけだ。

 だからこそ、逆をつく! 相手のペースのままじゃジリ貧だからな。

「まだ近距離戦でなら攻撃手段があるけど、遠距離での攻撃手段は皆無だからな。この状況からちまちま削ってやる」

 初心者の練習用ボスかもしれねえけど、もしかしたら一発ノーダメクリアしたらなんかしら報酬とかあるかも知れねえ。ゲーマーとしてはそれは逃せねえよな!

「ほっ……! よっと……!」

 俺は騎士の攻撃を紙一重で避けていく。大剣故に、その予備動作は比較的わかりやすい。そして、空振りからもわかる一撃の重さ。一発一発で、周囲に風が巻き起こる。

 基本は回避で、避けきれない攻撃は何とか剣でいなしてるけど……まともに受ければすぐにでも剣ごと持っていかれるだろうな。ギリギリで剣の軌道を見極めて、最小限の接触でこいつの剣を受け流す! 剣に耐久値があるかは分からねえけど、多分全力の一撃を正面から受け止めたら絶対に剣が持たねえ!

 そこからしばらく、スキルを使用しない打ち合いが続く。

「……ちっ、やっぱり……手強いな! 全然こっちが攻撃する隙がねえ!」

 すると、首なし騎士は手に持っていた剣を逆さまにし、地面に突き刺す。

 明らかな隙……いや、絶対に誘いだ! 乗ったら負け、何をしてくる!?

「——<サークル・オブ・ソード>」
「!」

 初めて見るスキル! 近距離戦闘になってから攻撃パターンが変化するタイプか! 観察しろ、俺! 見極めるんだ攻撃を……!

 瞬間、俺の足元の地面がカッ! と光る。
 俺は慌てて後方へと飛び退く。すると、首なし騎士を中心に、円形に地面から大量の禍々しい剣が飛び出してくる。

「うぉ!? BB(ブラッド×ブラッド)の血界鋭山かよ! 攻防一体の範囲攻撃! すげえスキルだなマジで! どこから出してんだよその剣、倒したらくれよそのスキル!」

 何とか剣の範囲からノーダメで脱出するこたできた。だがしかし、結局はまた距離を引き離された。全く、用意周到すぎるぜこのチュートリアルボス!

 だが、この戦いの手応えはさっきまでのコボルドでは味わえなかった、紛れもなくギリギリの戦いだ。一手でも読み間違えれば、俺の少ないHPは一気に持っていかれて死んでしまうだろう。しかし、そんなギリギリの状況にも関わらず俺は自然と口角を上げる。

 俺はこういう難易度を求めていたんだ……! 自分の体を使い、見たこともない敵とギリギリの戦いを繰り広げる。日常では味わえないスリルと興奮。武器とスキルを使った、命を削る戦い。

「最高だぜ、ダンジョン!」

 とはいえ、ピンチなのには変わりない。

 遠距離では飛ぶ斬撃に闇魔法、近距離はレベル差を押し付けた剣戟に範囲攻撃スキルによる突き放し。

 おいおい、隙がねえな! 普通にどっかの階層のボス張れるレベルじゃねえの!? それとも、チュートリアルでこの難しさってことは、もっと上がいるのかよ。

 こんなチュートリアルボスを簡単に屠れる探索者って、思ってたより強いのか、すげえな……!

「<ダーク・ボルテックス>」
「!」

 しかし、敵は待ってくれるわけがなく。
 首なし騎士の前に闇の渦が発生し俺の体が引き寄せられていく。

「くっ……! 急にポンポン新しいスキル出してきたな、フェーズ2ってか! そんなのもあんのかよ!」

 俺の体は、あっという間に首なし騎士の射程距離内に入る。
 そして、剣で俺の足を狙うように横なぎに払う。

 俺は咄嗟にそれをジャンプで回避する。
 
 ——が、すぐさま俺はその行動が悪手だったことを直感する。
 
 まずい、空中では攻撃を避けようがねえ……!!
 こいつ、NPCとは違う……考えてやがる!!

「<ソニックブレード>」

 首なし騎士のスキルが発動する。
 さっきまでとは違う、縦ではなく横の斬撃。

 空中で動けない俺の体を、下半身と上半身に分けようとするかのような無慈悲の一撃。

 どうする……どうする!?
 空中じゃ動けねえ、流石にこの攻撃は貰っちまう! 
 耐えられるか? 否、真っ二つ不可避! ぜってえ一撃で終わる……!

 何とか回避する手段を……スキルか何か——……!!

 刹那、俺の脳裏に一つの案が思い浮かぶ。
 そうだ、これしかねえ! 検証してる間も代替案を考えている時間もない。ぶっつけ本番、これでいく……!

 俺は何とか首を動かし、地面を向く。そして。

「<突撃>——!」

 瞬間、俺の体はスキル発動特有の光に包まれ、視線の先、地面へと向けて突進する。グオンと体が引き寄せられ、俺は高速で地面に叩きつけられる。

「グエッ!」

 頭上では、俺が真っ二つにされるはずだった飛ぶ斬撃が空を切っていた。

「あっぶねえ……! <突撃>での緊急回避!! 我ながら天才か!?」

 できるかもと思っていたけど、ここまで上手くいくとは。
 スキルはこういう使い方が出来る訳ね……ゲームより自由度が高え!

 俺はすぐさま立ち上がると、スキル発動後の僅かな硬直を残した首なし騎士に、一撃をお見舞いする。

 俺の剣は首なし騎士の胴に綺麗にヒットする。
 僅かに、首なし騎士の表情が険しくなった気がした(顔ないからわかんないけど)。

 硬直明けの一撃で俺の剣を振り払い、そしてすぐさま反撃の一撃を繰り出す。
 俺はまたそれを器用に避け、受け流しながら何とか剣戟についていく。

「もう近距離スキルも一度見れたし、攻撃の捌き方も理解できてきた。この調子で捌いていけば、勝機はある……!」

 傍目から見ればさっき同じ振り出しに戻ったように見えるかも知れないが、さっきまでの攻撃手段や回避手段が浮かんでない状態と比べると、今は俺に<突撃>というスキルの新たな使い方が浮かんでいる分、状況は劇的に変わったと言っていい。

 これをうまく使えば、こいつに一矢報いることができるはずだ。

 すると、首なし騎士の首の穴から、禍々しいオーラが放たれ始める。そのオーラは首なし騎士の体を包み込み始めると、幻想的な光景を作り出す。

 そのプレッシャーは、明らかに今までとは違う。ここからが本番というわけだ。

「さあ、まだまだ勝負を続け————」

「<アイシクルレイ>!!」

 瞬間、俺と首なし騎士の間に、ものすごい速さで何かが突き刺さる。

「ぐああ、んだいきなり!? まさかもう一体ボスが!?」

 煙が晴れると、それは氷の塊だった。
 まさか氷魔法か!? かっけえ! けど、一体何が……。

「助けに来たわ……! あなた、大丈夫!?」

 俺の前に現れたのは、どこかで見たことがあるような銀色の髪をした美少女だった。

 可憐な立ち姿と、腰に下げたレイピア。服装は俺のようにジャージではなく、しっかりとしたファンタジー装備だ。
 
 しかし、俺の開口一番の言葉は。

「——急に何……獲物を横取りっすか!?」
「えぇ!?」
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