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第7話 死神の鎌

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「詳しく聞かせろ」

 アカネは完全に観念しており、すらすらと事情を説明する。

「冒険者試験に受かったはいいけど、実力が足りずパーティを組めない冒険者は多いわ。薬草集めだったり、簡単な手伝いクエストだけを受けて生活する人たちね。――そこに目をつけたのが"死神の鎌デスサイズ"。彼らを駒として動かし始めたのよ」
「どういうことだ?」
「F、E級の低ランク帯のクエストはD以上のランクのパーティは受けられないようになってるのは知ってる?」
「あぁ」
「低ランクにも仕事を与えるためと、上位には上位の仕事をしてもらうためね。そして、低ランクのクエストと言えど、お客さんの依頼料と冒険者が得る報酬の間には乖離がある」

 乖離……。

「ギルド側の手数料か」

 アカネは頷く。

「そう、ギルドの取り分ね。それがないとギルドも運営できないから。あとはまあ冒険者の年会費なんかもあるけど、それは置いておくわ」
「なるほど、見えてきた。あんたが低ランク帯のクエストを"死神の鎌"の連中に横流ししているわけか。そして奴らはそれをソロでうだつの上がらない連中にやらせて、あんたを通して手数料の抜かれる前の報酬を頂き、その手数料分は"死神の鎌"がいただく。……あんたはギルドに払うはずの手数料のうちの幾分かを報酬で貰ってるって訳か」

 ずるがしこい奴が居たもんだ。
 確かにギルドを通さず直接依頼を受ければ依頼料は丸々受け取れる。力自慢のパーティのようだし、低ランクのソロ冒険者は逆らえないんだろう。それに、アカネの存在でクエストが貼り出される前に横流しして貰えば、その存在はバレない。

 仮にギルドを通さず依頼を募集したとしても、信用が足りない。
 みんな冒険者ギルドという実績のある機関だからこそ、依頼をするのだ。

 まったく、小賢しい連中だ。そんな小銭の為に。

「まあそんなところよ。でも私を抑えたところでそこまで意味ないわ。私からの横流しルートが制限されれば、今度は別の誰かが取り込まれるだけ」
「……だろうな」

 まったく、遠回りなやり方で金儲けを企みやがる。お陰でリリィの昇格に支障が出るじゃねえか。

 正規ルートじゃないのは昇格条件を達成させないためにっていうのも理由のうちだろうな。低ランク冒険者の実績にされて昇格されてしまうと養分として不味くなってしまう。飼い殺しだな。

 ランクは上がらないが、生活のために依頼を受注している……あるいは、そもそもギルドと提携していると嘘をついて、本人たちはギルドで受けるのと何ら変わらないと思い込んでしまっているのかもしれない。

 とにかく、直接叩くべきは"死神の鎌デスサイズ"……さてどうしたものか。

 銀の角シルバーホーンの時のように露骨に手を出せば、低ランク帯の冒険者も大勢関わっている手前面倒なことになりそうだ。"死神の鎌デスサイズ"を壊滅させつつ、リリィの得……つまり昇格につなげられる方法……。

 とその時、ピンと俺の中に名案が浮かぶ。

 その二つ、まとめて出来るかもしれない。モンスターを利用すれば。

 俺はサッと魔法剣を仕舞うと、身を翻す。
 アカネは緊張がほどけ、ガクッと膝から座り込む。

「ど、どこへいくの?」
「ちょっとな。これからバルジの森でオークどもを刺激してくる」
「なっ……D級モンスターよ!? 正気!?」

 アカネは声を張り上げる。

「他愛ない。明日、"死神の鎌デスサイズ"の連中にバルジの森南西部から北西部近辺にかけてギルドからの依頼の体で異常事態の調査へ行かせろ。ギルドの受付嬢なら、調査依頼くらい簡単に作れるだろ?」
「そ、そうだけど……異常って……」
「名案を思いついたんだ。お前は無事でいたかったら俺の言う通りにしろ。これで"死神の鎌デスサイズ"を壊滅させる」
「あ、あいつらを倒すつもり!? いくら自信があるからって……一体どうやって――」

 と、アカネが言い終える間もなく、俺は冒険者ギルドを後にする。

 アカネはきっと俺の言う通りやるだろう。自分の首が惜しいだろうからな。
 さて、作戦開始と行くか。

◇ ◇ ◇

 俺はバルジの森の奥地へと足を運ぶ。
 
 バルジの森北西にはD級モンスターであるオークが生息する地域がある。しかし、彼らは自分達の生息域から出て来ない為、普段は脅威ではない。

 だが、もし生息域を荒らす者が現れたら……。
 ――例えば最強の冒険者とか。

「ウゴオアアアアアア!!!」
「ガアアアアアアア!!」

 俺の魔法剣が、闇夜に輝き、光の弧を描く。

 俺はオークたちの生息域で暴れ、ねぐらを荒らして回る。
 数匹のオークを魔法剣で瞬殺し、その首を晒す。

 圧倒的力量差。
 オークはそのレベルの差に逃げるようにして南下していく。本来の生息域である北西を出て、南西部に向けて。

 本来はオークなんてD級モンスターが出現しないエリアに、オークの群れが大移動してくる。これこそが異常事態。

 さあ舞台は整った。後は、明日の奴らとの対面次第だ。

 すべてはリリィの為に。

◇ ◇ ◇

 翌日、俺は昨夜こっそりと森で狩ってきたオークの部位を使い、香を作成する。メスとオス両方のフェロモンを利用したこの香は、燃やして使うことで同種のモンスターを呼び集める効果がある。南に追いやられパニック状態に近い奴らの生息域で上手く使えば、かなりの数が集まるはずだ。

「アルト、何作ってるの?」

 リリィは、首をかしげて俺の方を見てくる。
 俺は袋に入れ縛った香を鞄にしまい込む。

「いや、ちょっとモンスター避けをね。強敵に出くわしても怖いし」
「へえ、凄い知識だね! 前に住んでたところで覚えたの?」
「そんなところ。田舎だったからな」

 まあ前世の記憶なんだけど。

「すごいなあ。……で、クエストの話だけど、仲介してくれる人が居るって本当?」
「ああ。"死神の鎌デスサイズ"っていうパーティらしいんだけど、困っている低ランクパーティの為にF、E級のクエストを紹介してくれるらしいんだ」
「へえ! 凄い親切なパーティもいるんだねえ」

 全く疑っていない。完全に慈善事業としていいことをしてくれていると思ってるんだろうな。

 ……なんか信頼を裏切っているようで少し心が痛い。
 だがこれはリリィの為なんだ。これは必要な嘘だ。


 すると、リリィは俺の頭をなでなでしてくる。

「な、なんだよ!」
「え? いやあ、さすがアルトだと思って……」
「そんなことはないけど……」
「そんなことあるよ! アルトのおかげで夢に近づけそうだし、私がんばるよ!」

 そう言って、リリィは胸を張る。

「はは、リリィの夢は俺の夢だからな。……じゃあいこうか」
「うん!」

 俺は昨日のうちに把握しておいた死神の鎌デスサイズの根城としている邸宅へと向かう。

 メインストリートからは少しそれた場所にある大きめの屋敷。
 B級パーティだけあってなかなか金は儲けてるみたいだな。

「すいませーん」

 と門の前で声を張ると、しばらくして中から一人の金髪の女性が現れる。

「……どちら様」
「えっと、低ランクのクエストを仲介して貰えると聞いてきて……」

 そう言うと、その女性は俺とリリィを交互に見る。
 そして、「あぁ」っと何かを納得した様子で頷く。

「中に入んな」
「お邪魔します」

 中に入ると、応接室に通される。
 そこには、モンスターの毛皮から作られた鎧を着たワイルドな風貌の男が座っていた。手には籠手を着けている。格闘家か。

「リリィ・ソーティア。やっぱり来たか」

 男はニヤリと笑いながら言う。

「えっと、やっぱり?」
「がっはっは、まあいいさ。苦しいときはお互い様だ。ギブアンドテイクで楽しもうじゃねえか。俺は死神の鎌デスサイズのリーダー、ゲイン・ノーチス。ゲインって呼んでくれや」
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