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実技試験開始

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「試験官の怠慢か? それとも、平民を通過させるノルマでもあるのか、この学院には」
 
 ヴィクティムは苛立たし気にそう零し、鋭い視線を俺に投げつける。
 エステルは何が起こっているか分からず、不安そうに俺達を見つめている。

「さあ。ただ、ここは最高峰の学院です。疑うような発言は控えた方がいいんじゃないですかね」
「私に指図するな。……まあいい。私は心が広い。貴様のような無能でも、空気を吸う許可だけは与えてやる」
「それはどうも、何てお優しい」
「ただ、絶対に私達の足を引っ張るなよ? グループと言えど敵同士。もしそんなことがあれば、すぐさま貴様を粉々にしてやるからな」

 そう言って、ヴィクティムはものすごい剣幕で俺を睨みつけ、ふんとその場を去っていく。

「ど、どういう関係なんですか……?」

 ヴィクティムが去った後、怖そうに身を縮めながらエステルが訪ねてくる。

「まあ何というか……。天才と血統が好きな貴族のボンボンって感じかな」
「あぁ……。私達とは正反対の存在という事ですね」

 察しました、とエステルは目を瞑る。

「まあ、俺もリーゼの家で暮らしてるし、似たようなもんだけどな」
「そんなことないですよ! レクスさんは優しいですし、話しやすいですし……」

 と、エステルは慌てたように弁明してくれる。

「あはは、ありがとう」

「さて、試験の概要を説明させてもらおう」

 試験官の髭面の男性は、グループがまとまったのを見てそう切り出す。

 受験生たちは静まり返り、じっと男性の方を見て次の言葉を待つ。

「試験は捕獲任務だ。我々が指定したものを捕獲し、届ける。それだけだ」

「それだけ……?」
「意外と拍子抜け?」

 ざわざわと、空気が緩和していく。
 緊張して損したと。

「ただし、森の中にはお前たちを襲う小型の魔物が潜んでいる。くれぐれも気を付けてくれ」
「「「!?」」」
「何を驚いている? ここは魔術学院……戦闘のエキスパートである、魔術師を育てる機関だぞ? もちろん、そちらも選考要素として加点されるから手を抜くなよ」

 緊迫した空気の中、試験官は続ける。

「主に今回の試験のポイントは、捕獲任務の成功と、道中の魔物への対処だ。そして、何故グループかと言えば、魔術師の中にはサポートに特化した連中もいるからだ。そこら辺は、上手くメンバーをサポートしてアピールしてくれ」
「アピールって……先生が見ててくれるんですか?」
「良い質問だ。もちろん、お前達グループ一つ一つに、監督官を付ける。彼らはお前たちの手助けはしないが、何をして、何を提言し、何を成したかをすべて記録する。試験に合格したかったら、積極的に行動することだ」

 監督官によるチェックが入るのか。
 ただ捕獲任務を達成すればいいだけじゃないということか。

 エステル何かは白魔術師だし、生成系ではそこまで戦闘に特化は出来ないだろうから、その辺りを見られるということか。

「――では、今回のメインである捕獲任務だが、我々学院側がこの森に放したピクシーを捕まえてこい」
「ピクシー?」
「妖精だよ。小さいから、捕まえるのは難しいかも知れない」
「その通り。だが、もちろんそんな単純じゃない。奴らは妖精マスターの先生によって厳選・育成された特別製だ。彼らの生態や行動パターンを現地で直接把握し、適切な行動をもって捕獲するように」

 なるほど……実際の魔術戦の勘所も必要になるということか。
 これは、なかなかハードになりそうだ。

 そうして一通りの説明が終わり、俺達はそれぞれ森を囲むように全体に広がる。
 同じ場所からスタートすると、いろいろと余計な面倒が増えるからだろう。

『では、準備はいいか?』

 試験官の声が、拡声魔術に乗って聞こえる。

 静まり返る森からは、風で揺れる木の葉と、何とも言えない森の息吹が聞こえてくる。

「私について来い。それだけだ」
「…………」

『では――はじめ。検討を祈る』

 こうして、二日目の実技試験が始まった。
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