機械の神と救世主

ローランシア

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第二章 始まりとやり直し

015 ソフィアと婚約

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 警備強化提案の後粛々とパーティの準備が行われ、
 夕方になる頃には城の庭等に、見た事がない令嬢や貴族と思われる人たちが見られた

 パーティが会しされる前俺にはパーティ用の服が用意されそれに着替える事になった

 夕方を過ぎ、日が落ち切る頃、パーティは開始された

 進行役の執事さんが
「本日は我が国の至宝ソフィア様と救世主であらせられるエルト国の英雄、東条司様の婚約パーティにお集まりいただきありがとうございます!
 それでは……。本日の主役のお二人にご登場いただきましょう! どうぞ! 皆様盛大な拍手でお二人をお出迎えしましょう」

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 その合図とともに俺とソフィアが腕を組みパーティ会場に入場し、壇上の上に立つ

「エルト国 第八九代国王 ゾディアック・エルトが東条司、ソフィア・エルト。二人の婚約を認める物とする。
 私が見届け人となり認めるものとする! これはエルト国・国王としての宣言である!」

「では、婚約の誓いの口づけをお願いします」

「「……っ」」

 ソフィアと口づけをした後お互い見つめあう

「司様……私幸せですわ…………」
「……ソフィア、大切にするよ」

 口づけが終わり体を離すと盛大な拍手が贈られる

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 陛下が立ち上がり
「それでは、皆グラスは行き届いているな……?

 陛下がグラスを掲げ────

「若者二人の輝かしい未来に……乾杯!」

 陛下の合図の元各々がワイングラスを掲げる

 俺とソフィアはパーティ会場の上座に座り、来賓の貴族たちからお祝いの言葉をいただきながら挨拶していた

「うふふ……司様…………私。幸せですわ。私、司様の事が初めてお会いした時から、ずっと気になっていましたの……。
 今思えばもうその時から恋に落ちてしまっていたのでしょうね」

 ソフィアが上機嫌で腕を組んでくる

「あぁ。それは俺もだよ。俺ソフィアと初めて会った時、綺麗過ぎてめちゃくちゃ緊張してたからね……」
「もう、司様ったら褒め過ぎですわ。うふふっ……」

「いやあ、お熱い! お似合いのお二人ですな、陛下!」
「ほっほっほ! ウェルサム卿もそう思うかね……?」
「もちろんです!」

 そんな和やかな空気の中パーティが進行していった
 このまま和やかな空気のままパーティが終わり、一日が終わると思っていた時だった

「おい! どこだ!? その救世主とかいうインチキ野郎がいるのは!」

 和やかなパーティ会場に相応しくない、怒気の籠った声が響いた

「お待ちくださいっ!? 陛下の御前ですぞっ!」

 怒声をあげながらバンと扉を乱暴に開け放ち、
 ズカズカとパーティ会場へ入ってくる小太りで一重瞼の目つきが悪いニキビが顔中にできている男

「ランデル王子……」

 ソフィアの表情が先ほどまでの上機嫌な表情が消え、表情を曇らせる

「なっ!? これはランデル王子……! 何事ですか!?」
「何事だと……!? 許嫁を一方的に破棄されて黙っていられるか!」
「……おい。ちゃんと、説明をしたのか…………?」

 陛下が傍仕えの人に確認をとろうと聞くと

「陛下、申し訳ございません。その、どこをどう説明しても結局
「救世主様とソフィア様が恋仲になった」という点だけはどう伝えようが……はい」

 チッと陛下が舌打ちを小さくし、面倒臭そうな表情を一瞬見せるが、
 俺の視線に気が付くといつものニコニコとした表情に戻る

 さすが一国の王だな。腹はなかなか見せないらしい

「ランデル……」
「っ! ソフィア!? ……その、男だな!? その男が君を騙した男だな!?」

 はぁ……

 と深いため息をつき、顔を上げるソフィア

「私は騙されて等いません。自分の意志でこの方に惹かれたのです……」

 少々呆れ気味の声でソフィアが返す

「なっ!? なんだよ!? それ……!? …………その男か……お前……が……お前がソフィアを……!」

 男がフルフルと肩を震わせる

 あっ、ダメだ……
 そろそろ殴りかかってくるわ

 このまま席に座っていたらソフィアに危ない目に遭わせるな……

 マキナ?
≪はい。マスター≫
 ソフィアの傍にいて守ってやってくれ
≪はい≫

 俺は言いながら席を立ち、テーブルの前へ歩き出す

 シュン……!
 姿を隠していたマキナがソフィアの横に出現し立つ

「あ……。マキナ様…………」
≪マスターからのご命令です。私がソフィアさんをお守りします≫
「あ、ありがとうございます……≫
「……元婚約者の方、ですか?」
「そうだっ! ソフィアは僕の許嫁で! 婚約者だ!」

 あー……。そういう事か。なるほど、そりゃ納得できんわ…………
 後からきた男に婚約者横取りされたら腹も立つだろう。愛していたなら、なおさら……

 ん? でも、そうなるとおかしいぞ
 ソフィアは婚約者がいるのに俺に告白して、キスまでしたって事になるぞ?
 どういうことだ……?

 ソフィアの方を向くとソフィアが顔を上げ口を開く

「子供の頃に数回遊んだ時「大人になったら結婚しようね」と交わした口約束では婚約にはならないでしょう」

 あっ、はい。それは、そうですね……。ならないですね

「そ! そんな!? !」
「まぁ、お父様が裏で色々と画策してたみたいですけどね……?」

 ソフィアが陛下へ視線を送りながら言う

「うおっほん……ん!」

 陛下が居心地悪そうに咳をし、ごまかす

「ソフィア!? 僕の何が気に入らないんだ!?」
「……こうして公の場で子供のように喚き散らして、恥を恥とも思わない所かしら」
「なっ!?」
「あなたと婚約? 冗談じゃないわ。私はあなたなんて大嫌いよ……!」
「こんな男のどこがそんなにいいんだ!? 貴族ですらないだろう!? 見た事ないぞ!? こんな男!」

「司様はこの世界と違う世界から、二週間程前に私達の世界に来られました。
 司様は私達の世界とは本来無関係な立場のはずなのに、命を賭けてこの世界を守ろうと尽力してくださるんです。
 一般人だった人が戦いの場に出る……、それには血の滲むような努力が必要だという事くらい私でも知っています。
 司様はきっと私が想像もつかないような厳しい修行をされているはずです」

「……司様の手を見て見なさい、ランデル…………」

「……おい、見せてみろ」
「……」

 ランデル王子が俺の腕を取り掌を見る
「……汚い手だ」

「……ハハハ。ええ、汚い手でしょう? 豆が潰れて堅くなって、ガサガサで…………」
「おい!? ソフィア!? こんな汚い手の男が何だって言うんだ!?」
「……はぁ…………。その手を見てその価値がわからない人がいるなんて思いもしなかったわ……」

 ソフィアが頭を抑えながら深くため息をつく
 何かを諦めたような表情でソフィアは続ける

「司様の手を初めて握った時、なんの変哲もないただの手でした……。それこそ、今のあなたと変わらない綺麗な手です。
 その次の日、食事をご一緒した時……、テーブルに座る司様の腕を見た瞬間、私は息が止まる思いでした。
 司様の腕は遠目で見ただけでもわかるほど傷だらけでした……。
 どんな過酷な試練を超えればあれほどの傷だらけの腕になるのか……私には想像もできません」

 だんだんとソフィアの声が涙声になっていく

「日を追うごとに司様の腕はボロボロになり……服の隙間から見える体には傷痕が増え、修行を中断し食事に来たと言う司様の口からは血の匂いがしていました…………。
 自分に関係のない世界を救うために、体中に傷痕を作り血反吐を吐きながら……手がボロボロになるまで…………! 世界の為にと自らを高め続ける事があなたに出来ますか?
 もし、あなたが司様と同じように国や世界の為に自らを高め続けていたのなら、私は先に出会ったあなたに惹かれていたでしょうね……」

「ふざけるな……っ! こんな汚い手の男に僕が劣るとでも言いたいのか!?」
「……劣る? 冗談はよしてくださいな。私の旦那様をあなた等と比べないでください」
「っ!! ふざけるのもたいがいにしろ! ソフィア!」

「……私達王族や貴族は、国民から税を取る代わりに国を繁栄させ民を護るという責務があります。
 国の為に出来る事は様々な分野があります。それは政治であったり、武力であったり……どの分野でも構いません…………」

 そこでソフィアは一旦区切り、止めの言葉を喉元に装填する

「今まで貴方は何を頑張ってきましたか?」

「っ……! 認めない…………認めないぞ! 僕は、マーキス国の第一王子だぞ!? ソフィア!」
「知っていますよ、そんな事。それがどうかしたんですか?」
「なっ……!?」
「マーキス国の第一王子。だから何……? それはあなたが何かを成したという事ではないでしょう?」
「うっ! うるさいうるさいうるさいうるさいっ! うるっさーーーーいっ!!?
 ソフィアっ!? 僕にそんな口をきいていいと思っているのか!?」

 ランデル王子が顔を真っ赤にしながらソフィアを指さし言い放つ

「……お話しにならないわ。…………私を物のように呼ぶのやめてくださるかしら? とても不快だわ」

 最後の言葉を冷たい嫌悪の混じる目で言い捨てるソフィア
 優しいソフィアをここまで怒らせられるってある意味才能だぞ? ランデル王子……

「お前が、お前さえ……いなくなれば…………!!!!!! !」

 ランデル王子が怒りの表情で殴りかかってくる

 出来るだけ痛くないように取り押さえるから勘弁してくれ

「……ごめんな?」

 瞬時にランデル王子の側面に立ち、言いながら胸倉を掴み床に叩きつける

 タンっ!

 叩きつける寸前に一瞬腕を引き衝撃を無くし、痛みがないように床に倒す

「……え?」

 本人からは次の瞬間には自分がいつの間にか、
 仰向けで床に寝ているという状況に見えているだろう

「どうやらランデル王子は酔っておられるようだ。おい、外へお連れしろ」
「「ハッ……!」」

 警備をしていた近衛兵たちに両脇を支えられながら起こされ、引きずるようにパーティの扉から出ていく

「なっ……!? 離せ!? まだ僕の用事は済んでいないぞ! 無礼者!? 何をしているのかわかっているのか! 僕は…………!」

 ……こいつって不幸だよなぁ
 婚約者だと思ってた相手を後から来た男に横取りされて、みんなの前でボコボコに言われて、
 こうして殴りかかって俺に倒されて恥かかされて……。いや、マジで同情しちゃうわ…………
≪マスターは優しすぎですよ……≫

「いっ、今の……見えたか?」
「……いや、見えなかった……!」
「……早い…………!」
「ルード氏を倒したと言うのは、本当のようだ……」
「……速さも驚きましたが、傷を負わせず制圧した技術。感服しました、救世主様…………」

「……隊長。いえ、そんな…………ハハハ」

 誰かが拍手を始めると一斉に拍手が巻き起こり声をかけられる

 パチパチパチパチ……!

「いやあ、噂通りの強さですな!」
「お見事……! 救世主様…………!」
「お見事ですわ! 救世主様っ!」
「かっこよかったですわ! 救世主様!」
「まるで姫を守る騎士のよう! ソフィア姫様が羨ましいですわ!」

 貴族たちから拍手と賞賛の声が巻き起こる

「……ど、どうも…………。あの……、皆さん、お騒がせしまし……た……」

 ヤバい。褒められ慣れてないせいかスゲー緊張する

 賞賛と拍手の中自分の席に戻ると、ソフィアの顔色が優れない事に気が付く

「……大丈夫? ソフィア」

 ソフィアの変化に気が付き小声で声をかけると、ハッと気が付いたように振り向き

「えっ……? …………ええ! 大丈夫です……」

 と明らかに何かを隠すように、必死に笑顔をつくり返事をする

 ……大丈夫じゃないなこりゃ

 マキナ?
 今のランデルという人物について調べられるか
≪はい、マスター≫

≪……これは…………≫
 どうした?
≪……情報出ました。
 ランデル・マーキス
 このエルトの南方に位置する隣国マーキス王国の第一王子で、次期王位継承権のある人物です。
 随分素行に問題がある人物のようで、王子という立場をいいことに、王宮の傍仕えやメイド等をはべらせハーレムを作っているようです。
 気にらない事があるとそのメイドや傍仕え達に理不尽な暴力を振るい、逆らえば反逆罪で処刑しているようです≫

 ……そりゃまた、随分な暴君だな。…………さっき情けかけたのが馬鹿らしくなってきた
≪はい。記録映像見ててミサイルをマーキス城へ打ち込みたくなってきました≫
 それは八つ当たりの範囲が広すぎるからダメっ!
≪……先っちょ! 先っちょだけですから! ねっ? ちょっとだけいいでしょ!? この映像本当に不快なんです! ≫
 ミサイルの先っちょが城に当たったらアウトだから! それと女の子がそんな言葉使っちゃいけません!
≪……マスターのケチー…………≫
 マキナが半目になり口を三画にして可愛く拗ねる
 可愛く拗ねてもダメ!

≪……おや、これは…………。マスター、ランデル王子は良からぬ者達と交流があるようです……≫

 良からぬ者……?

≪ランデル王子の脳内をスキャンしたら、こんな事を言っていました……。ランデル王子の脳内の言葉を再生します≫
 ああ、頼む

「あいつをあの人に始末してもらおう! あんなインチキ野郎にソフィアを渡してたまるか! あんな奴死んでしまえばいい……!」

 あの人……? …………まさか!?

≪はい。こちらの人物です≫

 マキナが俺の目に画像を直接送ってきてくれる

 ……!
 黒マント仮面……!
「あの方」の野郎か……!
 ……けど、レイザーさんの時のより小柄に見えるな…………気のせいか?

≪比較されますか≫
 ああ。頼む
≪どうぞ≫
 やっぱり、レイザーさんの見たという黒マントより、一回り小さく、体の線も細い感じだ
 恐らくこの黒マントは女か……

 マキナ? 念の為周辺の警戒頼む、あとくーちゃんにランデル王子を追跡して監視させてくれ。
 ランデルは恐らく今日この街のどこかに泊まる可能性は高い。
 もしかしたら「あの人」って奴と接触する現場を押さえられるかもしれない

≪マスターに必要な情報だと判断し、黒マントの情報を見つけた時点からくーちゃんに追跡してもらってます。
 脳の信号の監視も継続してます≫
 さっすがマキナ! わかってるね!
≪ふふふっ≫

≪それと気になるのは、ソフィアさんのこの表情です。何かありますね。これは……≫


 マキナに言われソフィアの顔色をうかがうと……


 いつも俺に見せてくれていた花が咲くような笑顔は消え失せ真っ青な顔で俯ていた

 ────

 パーティで起こった一悶着が収束し、再び和やかな雰囲気に包まれ、パーティは解散になった
 ソフィアを部屋に送り届けた後、自室に戻る

「マキナ? その黒マント仮面の画像をプリントアウトとかできるか?」
≪はい。紙があれば可能です≫
 よし、紙もらってくる

 傍仕えさんに頼み紙を数枚用意してもらった

 マキナの掌から黄色い光を射光し、紙に印刷し始める

 印刷終わったら次元の狭間にしまっておいてくれるか?
 重要情報だから隔離しておきたい
≪はいっ≫

 マキナ? 一応この部屋の音外に漏れないように遮断頼む

≪はいっ。……完了しました≫
 ありがとう、マキナ

 ……確か黒曜石に魔紋を出現させて…………

 トルルルルルルルル……! トルルルルルルルル…………!

 チャッ……

 恐らくこの世界の携帯のようなものだろう
 コール音が鳴り出し、違う音が出る

「……レイザーだ。東条か?」
「こんばんは、レイザーさん。はい、東条です。夜遅くにすみません」
「どうした? こんな夜更けに。……なんかわかったのか?」
「はい「あの方」について新しく情報が入ったのでご連絡しました」
「何!? そりゃあホントか!?」
「ただ、その黒マントは女性のようなのですが……」
「女だろうがいいさ! そいつも仮面つけて黒マントなんだろ!?」
「はい」
「なら「あの方」って野郎につながってる可能性は大いにあるはずだ! 詳しい話を聞かせてくれ!」
「はい」

 パーティであった経緯を軽く説明すると

「いいね! いいねえ!! 向こうから会いに来てくれるなんて願ってもねえ!」

 レイザーさんが歓喜の声を上げる

「……もしかして、レイザーさん…………?」
「あん? 俺もお前と一緒にいて襲ってくるのを待たせてもらうぜ」
「……やっぱりですか。いやぁ…………。それは、やめておいたほうがいいんじゃないかと……」
「なんでだよ!?」
「だって、レイザーさん有名人じゃないですか。闘技大会一〇連覇の人が近くにいたら、恐らく襲ってきませんよ」
「ぬっ……。むう…………、名前、売れすぎか? 俺……」
「はい。……私に考えがあるんで明日警備隊にお邪魔してもいいですか」
「何? 何かいい手があるのか!」
「ええ、マキナのとっておきの魔法をお見せします」
「なに? 嬢ちゃんのとっておきかよ! そりゃ楽しみだ……! よし、じゃあ明日…………朝の方がいいか?」
「そうですね。じゃあ朝に警備隊にお邪魔します。それじゃ失礼します」
「おう! ……用心しとけよ?」
「ええ、もちろん。ご心配ありがとうございます。では」
「おう、またな」

 プッ……

 魔紋を消し通信を切る

 よし、これでいい……

 さて、寝るかぁ

 灯りを消しベッドに横になった時だった

 コンコン

 ノックの音が聞こえ、ベッドから体を起こし返事をする

「……? 誰だ? こんな時間に。はーい? どうぞー」

「失礼します。司様」
「ソフィア? どうしたの? こんな時間に……」
「あ、あの、私その、さっきの事が怖くて……」
「そうか、とりあえず入りなよ」
「はい……」

 さっきのパーティであった事が余程怖かったのか、
 ソフィアの未だに顔いろは悪く、肩も震えていた

 ソフィアをベッドに座らせ、二人並んで話始める

「あ、あのっ! 司様っ!? あの……変わった事とか、ありませんか? その…………変な人がいたりとか」
「……何かあったの?」
「その、以前……、三年も前の話なんですけど…………、私に好意を寄せてくださっていた貴族の男性がいたんです……」
「うん」
「そ、それで……。それがランデルの耳に入ったみたいで、今日のように文句を散々言いに来たんです」
「うん」
「そして、それから……それから…………っ! うっ……」

 ソフィアが両手で顔を伏せ俯く

「……」
「ぐすっ……うっ…………うっ……」
「ソフィア? おいで……?」
「うっ……司様…………」

 ソフィアが体を寄せ抱きついてくる

 ソフィアの体がガタガタと震えている、よほど恐ろしいものを見たに違いない

 少し落ち着いたのか、ソフィアが口を開け再び話始める

「それから……、その翌日…………。城の噴水にその男の人の血まみれの亡骸が逆さに吊られてっ……」
「っ……!」
「っ……そ、それで私…………怖くなって……言い出せなく……て……。
 ……ランデルがやったという証拠はありません…………。で、でも、どう考えてもそうとしか考えられなくて……」

 さっきパーティ会場で顔色が悪かったのはこれか……。なるほど、そりゃ顔色も悪くなるはずだ

「だ、だから。司様にも同じような事が起こるかもしれないって……! 私、気が気じゃなくて…………!」
「大丈夫。俺は大丈夫だよ。ソフィア」
≪ソフィアさん。マスターなら大丈夫ですよ。安心してください≫

「そ、それに……その次の日ランデルが来て、いやらしい顔を浮かべながら私に言ったんです…………!
「あいつ死んだのか。お前が他の男に色目使ったりしたから天罰が落ちたんじゃないか?」って……!」
「ソフィア? 怖がらなくても大丈夫だ。君は俺が守るからな」
「えっ……? 司様…………? あの、恐ろしくはないのですか……」
「ああ。全然」
≪ふふっ。ソフィアさん? 重要な事忘れてますよ≫
「えっ……重要な事…………?」
≪マスターはこの世界でなんと呼ばれていますか? ≫
「……っ! …………そうでした。司様は救世主様でした……」
「という事さ。だから大丈夫だよ。ソフィア」
「……はいっ!」

 ランデル王子────
 ソフィアに不安な思いさせた落とし前きっちりつけさせてやるからな
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