機械の神と救世主

ローランシア

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第一章 異世界と救世主

002 救世主と初対面

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「……っ!? なんだ……この光っ!?」

 まばゆい程の光に包まれ思わず目を閉じていた
 白い閃光がおさまり目が空けられるようになると見た事もない天井が目に入
 る
 明らかに神社の境内の木とは違う感触を感じた、冷たい大理石のような石材
 の感触が手に伝わる

「っ!?」
 ガバっと体を起こし床を見ると真白い石材の祭壇の上にいる事がわかった

「な……」

「え……?……男?」

 顔を上げ周りを見渡すとシスターを思わせる服装の美女、美少女達が俺を中
 心に取り込んでいた

「男……よね? どう見ても……」
「えっ……ちょっ!? ど! どういう事っ!?」
「あ……あぁ……あなた誰よ!?」
「ちょっとどういうことなの!? 救世主様は女性のはずじゃ……!? あな
 た何者よ!?」
「そっちこそ誰だよ!? つっか、なんだここ……!?」


 ……あ~……あぁ~……わかったぞ。わかっちゃったぞ俺
 これアレだ。ここはどこかの公民館で、今はコスプレイベントの最中だろ
 そんでアニメのキャラになりきってセリフ言ってる感じだろ?
 ハハハ……、こーんな白い石の祭壇まで用意しちゃって、最近のコスプレイ
 ベントは金かかってるなぁ……って、ちょっと待て。

 俺は神社の境内にいたんだぞ?
 ここがコスプレイベントの会場だとして、あの短時間で移動してるのはおか
 しいだろ
 どんなトリック使って俺を運んだんだ……?……いや、そもそもここはどこ
 なんだよ……

 辺りを見渡すがどう見ても見覚えのない場所だ

「えっと……。ここって、どこ……?」

 県外とかだったらヤバいぞ、帰るにしてもそこまでの持ち合わせはない
 最悪の場合家に電話して迎えにきてもらうしかねえ……

「……ここは「エルト国」の首都「ローラン」の大聖堂です」
「いや、そういうのいいから……。ここは何県の何市?」
「ナニケン? ナニシ? ……魔法の詠唱かしら……」

 ……魔法って言ったか? 今。いーってそういうの……

「あの、あなたは……私の呼びかけに応えてくださった方ですか?」
 俺と同じくらいの年頃の栗毛のセミロングの巨乳美少女シスターに話かけら
 れる

「っ!? あっ!? その声!」

 あの時、救世主がどうとか、世界を救ってとか言ってた声だ!

「きっ、君か!? さっき俺に話かけたの!? 救世主がどうとか世界を救ってと
 か言ってなかったか!?」

 思わずシスターに前のめりで話しかける

「っ……やはり、あなたは私の召喚に応じてくださった……救世主…様…
 ……」
「いや、もうそういうのいーって。コスプレのイベント中なのはわかるけどさ
 ぁ。
 ちょっと困った状況かもしれねーんだ。ここがどこなのか真面目に質問に答
 えてくれよ」
「ここはエルト国の首都ローランの大聖堂です。救世主様」

 ダ、ダメだ……、この子も話通じない系だぁ……
 言ってる事は日本語なのに何言ってるかわかんねえ……
 よ、よし……。ここは一つ気を取り直してコミュニケーションの初歩、名前
 を聞こう!

「……俺は東条司、君の名前は?」
「私はレティシア・メルと申します。このエルト国で治癒士を任されておりま
 す」
「レティシア、ね。じゃあ、繰り返しになるけどさ、ここはどこなの?」
「……ここはエルト国の首都ローランの大聖堂です……」

 レティシアが本当に困ったという顔で応える
 その言葉を聞き背中に冷たい汗が流れるのを感じる

「……ちょっと……待ってくれるかな……今、スゲー混乱してて……さ……」
 これは……もしかして……マジか!?

 え、じゃあ何? 俺って漫画やアニメみたいに異世界に転移しちゃったの!?
 明日も学校あるのに!? ていうか父さんや母さん、さやかに何も言ってきて
 ないんだけど!?
 つーか、それまずいって!? 明日学校行かなかったら絶対あいつら俺の事笑
 い者にするぞ!?

「ショックで学校休んでやんのー」
「ぷくく。イジメすぎちゃった? キャハハハハ!」
「なーんだ、結構ショック受けてたんじゃねーか! やせ我慢おつー!」
「あの時のアイツの顔思い出したらウケるわー」
「東条君かわいそー! あはははははははっ」
「叶~? 言動と行動が一致してないよ! アハハハハハ!」

 やっべ!? 簡単に想像できるぞ!?
 半端ないクオリティで想像できちゃうぞ!

 サー……と頭から血の気が引く
 今の俺は顔が青くなっているに違いない

「召喚の時に記憶の混乱が起こるのはよくある事です。今日は宿でお休みにな
 られてはいかがでしょう」
「宿って言われても俺金なんてないけど……」
「救世主様からお金をいただくわけにはいきません。こちらでご用意いたしま
 すので今日はゆっくりとおやすみください」
「ちょっと待って!? レティシア! 本当にこいつが救世主様なのかわからない
 のよ!?」

 レティシアのその言葉に、赤髪ツインテールのシスターが声を荒げながら静止
 してくる

「そっ! そうだわ! そもそも救世主様は女性のはずじゃない! 
男の救世主様なんて過去一度もなかったのよ!?」

 他のシスター達も俺に疑惑の目を向けながら詰め寄ってくる

「っ! そうだわ……! 救世主様なら神器を授かっているはず!」
「そ、そうね! ちょっとそこの貴方!? 救世主だと言うのならあなたの神器を
 出してみなさいよ!?」

 ……は? ……神器? 何それ……?

「レティシア……? 神器って、なんだ?」
 レティシアに顔を向け聞いてみる

「神器とは救世主様のお力の象徴と言いますか……」

「だ、ダメだこりゃ……」
「次行ってみよー!」
「そもそもなんで男が召喚されるのよ!? 今まで救世主様は女性ばかりだった
 のに!」
「どーすんの!? 男の救世主なんて聞いた事ないし! こいつ「神器って何?」
 とか聞いてるし!」
「知らねーよ!? 勝手にこんなとこ連れてきておいて何言ってんだ!?」
「で! でも! まだ神器がないと決まったわけじゃないですし、ねっ……?」
「レティシア? あなた本気で言ってるの? 神器の存在すら知らなかった奴
 よ?」
「う……。それ、は……」
「この役立たずでどうやって破滅の王と戦うっていうのよ……。いえ、こんな
 奴ゴブリン一匹だって倒せやしないわよ……」

 おいおいおい……!
 言うに事欠いて「役立たず」つったか? 今……

 あぁ……、なんか腹立って来た……なんなんだ今日は一体……
 人生初の告白イベントだと思ってウッキウキで待ち合わせ場所に行けばドッ
 キリだと言われ笑い者にされるわ
 ちょっと神社で愚痴っただけでこんな所に飛ばされるわ……
 挙句の果てに召喚した当人達からはボロクソに罵られるわ……
 ガチの厄日だ……

「なぁ……レティシア?」
「は……はい? なんでしょう? 救世主様……」
「……とりあえず、その救世主様ってのやめてくれ……。恥ずかしすぎる」
「で、では、どのようにお呼びすれば……」
「司でいい」
「わかりました。では司様とお呼びしますね」
「司「様」て。ま、いいや……。その神器ってのはどうやって出すのかわか
 る?」
「心の中にある最も強い存在をイメージして、その武器の名前を呼ぶのです……
 ……」
 レティシアが手を天に掲げる

「────来て。アスクレピオス……!」
 レティシアの手が白く閃光を放ち、一瞬でレティシアの背丈より一回り大き
 な杖が出現する

「こ、こんな感じです……」
「……レティシアも「救世主」なのか」
「は、はい。私は治癒の能力しかありませんので、戦闘は得意ではありません
 が……」
「よし、イメージだな? やってみる……」

  俺の思う、強い存在……
  世界規模でサービスが展開されているMMORPG「Ultimate FantasyXVIII」
 の第19シーズン、アライアンスレイドボス……!

  実装されてから九年が経過し、レベルキャップが四段階上がった現在に至る
 まで討伐未達成という最強のボス!

  その凶悪な強さは数々のアライアンスPTを壊滅させ、ネットの廃人プレイヤ
 ー達に討伐不可能とまで言わせた……

  ゲームレビューに「開発者がゲームバランスを無視して悪ふざけで創った化
 け物」とまで酷評される程の存在……!

 イメージコンセプトは……死と破壊を司る機械仕掛けの神……!

 漆黒のボディーアーマー……どんな攻撃もはじき返す漆黒の装甲板……砲門
 が無数についてて……
 目の部分だけが赤く光っていて……いかなる存在をも破壊し尽くす……存在
 ……!

 よし……! イメージできた……

「……レティシア? 皆を連れてちょっと離れててくれるかな? 危ないかもしれ
 ない」
「は、はい……」

 レティシアたちが大聖堂の端に移動したのを確認し

 掌を天に掲げ機械仕掛けの神の名を叫ぶ

 俺が救世主だって言うんなら……!

「出て来いよ! 機械仕掛けの神……!────デウス・エクス・マキナ!」

ゴッ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!

突然大聖堂全体が激しく揺れ出し、体制を崩し四つん這いになるシスター達

 ……キィィィィィィ……ン……!

 掌の上に激しい耳鳴りのような音があたりに響き俺の掌に球状の光が出現し、だんだ
 んと光が強まる

「なっ……!? 何これ……!?地震っ!?」
「耳が……! 痛い……!」
「っ……!?」

 まばゆい程の光が俺を包み込み。俺を中心に白い雷のような放電が立ち上る

 パッ……シャァァァァァァァァン……!
 バチバチバチバチバチバチバチバチッ……!

 パシュッ……シュー――――ッ……!

 黒と白の放電する音と何か蒸気が噴出されるような音が響く

 ピッ……ピピピ……! ピッ……! ピピ……ピ……! ピッ……!
 ピッ……ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ
 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピッ……!

 約10秒間程をかけて「ピッ」という電子音がだんだんと早くなっていく

 キューン……!

 ギュイー――――――――――――――――ン……! !

 大聖堂と到底縁が遠いだろう機械の駆動音が響く……

≪オペレーティングシステム・「siva」正常起動。ハードウェアオーバークロックモード起
 動……≫

≪兵装デバイスチェック……一254個のデバイスを発見。
 正常可動数211個デバイス異常1043個≫
≪サポートデバイス……1498のデバイスを発見。正常可動数722個、
 デバイス異常776……≫
≪メインユーザー・「東条司」認証完了
≪搭乗者バイタル・メンタル正常……≫
≪機体ナンバー794923224EG4TI……≫

≪マスター、ご命令を……≫

 頭の中でシステム音の少女らしき声が聞こえる

「……出せた……。出せたぞ! おい! レティシア! 見てみろ! 俺の神器が出せ
 たぞ!」

 いつの間にか目線が上がり、豆粒ほどの大きさのレティシアに話しかける

「つ、司様……? 司様ですかっ!? そ、そのお姿は……」
「っ……!? な、何……アレ……超でっかいんですけど……」
「何あれ……真っ黒で巨大で……目だけ赤く光って……まるでおとぎ話にでて
 くる破滅の王じゃない……!」
「ハ、ハハハ……私達は悪魔を召喚しちゃったのかも……」
「すごい……。まるで神様みたい……」
「……ねえ? これは、夢かしら? 夢よね……?」
「っ……!? 何……あれ……真っ黒で、大き……い……おとぎ話に出てくる破滅の
 王じゃない……」
「……こんなの、今まで見た事ない……怖い……!」

 レティシア以外が真っ青になりながら俺を見上げていた

≪マスター。ご命令を……≫

 俺がマスターか

≪はい。マスター≫
 えっ!? 返事した!? き、君……もしかして、俺の考えた事がわかるのかっ
 ……?
≪はい。マスターが考えるだけで会話する事が可能です≫
 マジかよ……、最近の家電製品は喋るらしいが……、
 まさか心が読めるところまで進化しているとは思わなかったぜ
≪私は「家電製品」と言う名前ではありません≫
 俺は東条司だ。君の名前を教えてくれるか?

≪デウス・エクス・マキナです。マスター≫
 ……長いな、名前
≪ご不便なら登録名を変更する事も可能ですが……≫
 いや……そこまでする事じゃない……
 ……よし。じゃあ俺はこれから君の事を「マキナ」と呼ぶ。いいな?
≪……素晴らしい名前を付けてくださってありがとうございます。マスター≫
 ……お世辞までいいやがる。すげぇな今の家電は……
≪家電じゃないです……≫
 悪い悪い、ついな

 っ? やべっ!
 俺ロボットどころか車の免許すら持ってないぞ!? 操縦できるのかコレ
 っ!?

≪マスターのイメージした通り動かせます≫
 イメージしただけで動かせるのか……すげぇなマキナ……
 よ、よし……。じゃあマキナ? ちょっとテストだ。右腕を胸の所まで上げて
 みるぞ……? いいか?
≪いつでもどうぞ≫

 ……腕を胸まで上げるイメージをする

 ギュア……!
 機械的な駆動音を出しながら右腕を胸のところまで上げる

 なるほど……、こんな感じか……

 ……なぁ、メンテとかってどうしたらいいんだ?
 俺機械のメンテなんてした事ないんだが……

≪ご心配なく、マスター。常時ハードウェア、ソフトウェア共に自動メンテナ
 ンス装置が働いております。常に100%の品質で戦闘を行えます≫
 自動メンテか! そりゃすげえ! マキナ! サイコーだよ、君! ハハハハハ!
≪ありがとうございます。マスター≫
 よし……。神器も見せたし、これでもう文句は言われないだろ。マキナ? 降
 りてみんなの所へ戻るよ
≪了解しました。マスター≫

 キューン。ガシャ……ウィーーーーン
 俺の座っている座席の前方ハッチが開く、
 マキナが手をハッチの所まで出してくれる

≪どうぞ、マスター≫
 助かるぜマキナ!

 ハッチからマキナの手に飛び移ると、マキナがゆっくりと腕を降ろしてくれ
 る

「っと……」
 マキナの手から地上に降り、振り返ってマキナを見上げる

 それにしてもでかいな……
 格納庫が必要なレベルの大きさだぞ、コレ……

≪ご心配なくマスター……≫
 マキナが一瞬輝き、次の瞬間少女の姿になっていた

 腰まである黒髪ロングの黒色のゴスロリ服姿の美少女になった
 見た目の年齢は八~九歳くらいだろうか、小学三年生で十分通る容姿だ。

 ……マキナか?

≪はい、マスター。生活に支障があると判断し人を模した姿にしました≫
 かわいい笑顔で答えるマキナ

 そ、そうか。随分……印象が変わったな……。あの破壊の象徴たる厳つい姿はどこにいったのか……。
 どこからどう見てもゴスロリ着た小3の美少女だぞ。

 気が付けばいつの間にか俺の所へシスターたちが小走りで近寄ってきていた

「あのっ? 救世主様っ。す、すごいですねっ」
「わ、私はわかってたわよ? こいつはデキる男だって……!」
「この世界を破滅の王から救ってください! 救世主様! !」
「貴方様ならこの世界を救えます!」

 先ほどまでの非難めいた暴言がうって変わって賞賛の言葉になってやがる
 ……見事な手のひら返しだな、感動すら覚えるわ

「……はぁ? 世界? 知らねえなぁ。勝手に滅んだらいいんじゃねえか? 俺関係
 ね~し!」
「そ、そんな!? ……あっ、あの! 先ほどの態度が気に入らなかったと言うの
 であれば頭を下げます! この通りです! どうか!」
「ちょ、あんた!? 何言ってるのかわかってんの!?」

 さっきからやけに突っかかるねー、このシスター……
 ツンデレのつもりか? だとしたら大きな勘違いをしてるぞ
 フィクションだからこそツンデレは許されるし、
 他人事だからこそ笑って見ていられるが、リアルツンデレなんてただの高圧
 的な女だからな?

「……じゃあ、聞くが。……そうだな、そこの茶髪のショートボブのシスタ
 ー?……そう、君」
「は、はい。私でしょうか……」
「今夜、俺の部屋に来て夜伽をしろ。と言ったら……どうする?」
「あんた何言ってるの!? バッカじゃないの!」
「そ、そんな!? ……私救世主様の事よく知らないですし、今日あったばかり
 ですし……む、無理……です……」
「ああ、そうだろうな。俺だって立場が逆なら君と同じ返事をしたと思うよ」
「えっ……? あの、どういう事ですか……?」
「何言ってんのアンタ……!?」
「……まあ、聞けよ。今彼女が言ったように今日初めて会った相手……、
 それも親しくもない相手に体なんて預けられない。これは当然の話だと思
 う」
「……」
「要はそれと同じだ。
なんで俺が今日あったばかりの連中の為に命賭けて戦わなきゃなんねーの?」
「そ、それは救世主は世界を守るのが使命で……」
「使命……? それは君らが勝手に決めた事だろ。
俺はこの世界の住人じゃない。だから、この世界がどうなろうが関係ないな」
「ほ、報酬ね!? いくら欲しいの!? お金なら国が……世界中の国が報奨金を
 出すわよ!? それに英雄の称号だって!」
「……わかってねえな? もう一度言うぞ? 俺はこの世界の人間じゃない。
 だからこの世界の富や名誉をもらったって、自分の世界に戻った時何の価値
 もない」

 この世界を救った後に富や名声をもらうくらいなら
 俺がこの異世界にいる間、雨風がしのげる部屋と一日三度の飯と、毎日の清
 潔な衣服のほうが余程価値があるぜ

「ちなみに、レティシア? 君は送り返す魔法も使えるのか?」
「いえ……。私が使えるのは召喚……呼び寄せるだけです」
「救世主を召喚する事は大聖堂に所属するシスターであれば出来ます」
「って他の国のシスターなら送り返す魔法も使えるかもしれないって事?」
「わかりません……。他の国へ行った事がないので……」
「……そう、か……。じゃあ、その送り返す魔法を使える奴を探す所からだな
 ……」

 どうしてもこいつらを助けてやるって気にはなれないんだよなぁ

≪言うに事欠いてマスターを「役立たず」と言いましたからね。失礼にも程が
 あります≫

 いいながらマキナがツンデレシスターを睨む
 マキナさん怒ってるぞ! 機械の神様怒らせちゃってるぞ!

「ま、待って!? あ、あの! 私の言い方が気に入らなかったなら謝りますか
 ら!」
 ツンデレシスターが顔を真っ青にしながら頭を下げる
「いや、お前の謝罪とかいらないから」
「そんな……!?」
「それは助けてもらえないかもしれないから謝罪してるだけであって、
 自分が悪いと思って謝ってるわけじゃね~だろ。そんな謝罪いらね~よ」
「……そんなの困る……! せっかく強そうな救世主が現れて協力してもらえな
 かったってわかったら……! 私……」
「おう、困ればいいんじゃね? 俺はお前の便利な道具じゃねーんだよ」
「そんな!? お願い! 私の話を聞いて!?」
「聞きたくない」

≪あはははははっ! いやぁ。マスターのお言葉はスカっとしますね! ≫
 マキナだって嫌だろ? あんな事言われて助けるとか
≪はい、嫌です。もちろん≫
 別に敬えとか崇めろとか言う気ねえし、おべっか使えとも言わないし、
 なんなら敬語なんて外してくれても全然構わないけど、マキナ出す前のあの
 態度はないよな~
 マキナ出した後の手のひら返しもムカつくけどな
≪はい。ですね≫


 周りのシスター達の視線がツンデレシスターに集中し、レティシアを除く全
 員が彼女を睨みつけていた

 いや、お前らもこいつを野放しにしてた時点で同罪だからな?

 レティシアなら助けてやろうって思えるけどなぁ
≪マスター? おっぱいですか? レティシアさんがおっぱい大きいからですか?≫
 最近の家電製品はセクハラ言うのかよ。技術後退してるな
≪家電じゃないです……≫

「あんな態度してたら、他の誰を召喚しても協力を得るのは難しいと思うぜ?
 ……あんたらだって逆の立場だったらそう思うだろ?」
 シスター達を見渡しながら言い放つ

「そ、それ、は……」

 ああ、やっぱり……。この反応はほぼ確定だ
 今までもこうして何かしらトラブルがあったな? こいつら

 さっき「今までの救世主はみんな女性だった」みたいな事言ってたな
 世界を救え……つまり命を賭けて戦えと言うのであれば、なおさら協力体制
 を取り付けるハードルは上がる
 男より力の弱い女の子に「世界を救う」なんて無理難題をあんな威圧的な態
 度で罵声交じりに言ってたとしたら、
 今までこいつらが召喚した「救世主」に同情するぜ

「さって、行くかぁ。マキナ」
≪はいっ。マスター≫
「あっ!? 待って!?」
「どこに行くおつもりなんですか!」

 俺達は大聖堂の門へ向かって歩き出す

「───マキナ?」
≪はい≫
「これからよろしくな」
≪こちらこそっ≫


 こうして俺たちは異世界で最初の一歩を踏み出した───────────
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