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51話

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「……報酬を出したい所ですが……金銭的余裕がこの街にはありません……」

「「あぁ?」」

 現在僕達は無事な部屋に移動し、心の折れた領主に母さんと姉さんが追い討ちをかけている。

 その姿は前世のドラマとかで見た──借金取りに追い込まれている様子とそっくりだ。

 世の中怖いなぁ……というか、母さん達が怖すぎる。

 でも、貴族というのは自分本位で動くし、平民の言う事など聞かない人が多いと聞く。

 母さん達が面倒臭いと言うのがよくわかる。

 しかも金まで出し渋っているようではこの街の先行きが不安しかない……そもそも街を守ってもらった癖してタダ働きしてもらおうとか腐ってるだろ……。

 母さんがアホ領主と言っていた事がよくわかる。この感じなら、きっと無償で切り裂き事件も解決してもらおうとしたに違いない。


「シャーリー様とライラ様。私が国にしっかり報告させて頂きますのでご安心下さい。こやつはクビにさせます。討伐された魔物とは別に報酬は我がからしっかり出させて頂きます故、ご安心くだされ」

 騎士団長さん……なんか僕の戦闘が終わってから老けてない?

 凄く疲れた顔してるよ? 戦闘中は鬼のような形相だったのに……。

 領主さんはクビという言葉を聞いてから、顔色が白くて死んでるんじゃないか? と思うぐらいだけど。

 ちなみに今の言葉から察するに僕達が討伐した魔物は僕達の物なのだろう。どうやって取り分を分けるのかわからないけど……まぁ、それ以外にも報酬を出すと言っているのはわかった。

「そう、ならを見させて頂きましょうか?」

 母さん……本当容赦が無いな。まぁ当然の権利なんだけど、ここまで言わないと払ってもらえないものなのか?

 僕にはもはや国や貴族に不信感しかないんだけど……。

「お任せ下さい。そういえば──お二人のお子様は本部の冒険者育成学園に行かれるとお聞きしているのですが誠ですかな?」

「「えぇ」」

 それが何か? と鋭い目付きをする母さんとシャーリーさん。僕も何故今そんな話を? と疑問に思う。

 ちなみに姉さんは放心している領主が暴れ出さないように地面に転がしている。

「いえ、この間入った情報によれば──本部の冒険者の育成学園は今年から大幅に変更されたようですぞ? まぁ、他の学園もですが……」

「「!?」」

 母さんとシャーリーさんは初耳のようだ。まぁ、こんな辺境に情報なんてあんまり入って来ないだろうしね……。

 変更ね……何の変更だろうか?

 確か従来の学園は仮冒険者として2年間通って、正式に冒険者になれるのが13歳だったはずだ。

「どう変更されたんですか?」

 僕が1番気になる事なので一早く返事する。

「簡単に言うと──です。それと他の学園と足並みを揃える目的もあるようですな。まぁ、1番の理由は子供の死亡率でしょう。今年から子供の通う学園は全てが四年制度に変わるようです。仮免許制度や登録自体は13歳で変わりは今の所はないようですが」

 つまり、子供の死亡率を減らす為に作った育成学園だったが、結局死亡率が高くて四年制にして専門性を高めて少しでも下げる狙いかな?

 それに統合か──

「例えば──色々な職種に就けるように職種別にクラスを分けるとか、授業が選択制とかですか?」

「──!? 本当に賢い子ですな……さすがは『双聖壁』のご子息……まさしく戦闘系と非戦闘系にクラス分けし、授業も選択制に変更されるようです。そこから様々な職業へ就けるように訓練及び勉強を行うようですな。他の冒険者学園は四年制以外は変更無しのようですが、本部だけは多様性を出す為に変更したと報告がありましたな」

 要は前世の大学と専門学校の違いだな……。

 他の冒険者育成学園が2年制ならそっちにしようと思ったけど、どちらも4年制か……。

 マジか……このタイミングで最悪なんですけど!?

 冒険者が遠のいたじゃないか! でも13歳で冒険者になれるなら中退したらいいか?!

「ちなみに──王族とか貴族とかは入学なんてしませんよね?」

 テンプレとかマジいらないよ!?

「しますよ」

 はあぁぁぁぁっ!?

「なぜです? 根本は冒険者育成学園ですよね?」

「今回の件は──様々な国が関与しておりますからな。今でも冒険者学園だけでなく、騎士や魔術師などの学園も存在し、更に専門性を高める為の学園などはあります。しかし──今回、才能ある子らを死なせない目的もあり、が通えるように学費を安くする為に各国が献金しております。講師陣も世界各国から招いていると聞いておりますな。それもあって各国が注目しているというわけです」

 絶対裏あるだろそれ!

 王族が動くという事はそれだけ裏で何か動きがあるって事でしょ!?

「つまり──有望な人材を見つけて育成、そしてスカウトするという意図ですか? 貴族や王族が介入するという事は貴重な人材が集まる事を前提に動いている──そういう事ですよね?」

「……伏せて話したつもりでしたが──さすがですな。今年から『開花の儀』で才能豊かな者が多くなったのが原因かと。各国はその子らを取り込む為にも冒険者ギルドに交渉したという流れでしょうな。その内──他の冒険者育成学園も同様になっていくでしょうな」

 ぶっちゃけ急に行きたくなくなったな!

 年齢が来るまで修行して、そのまま冒険者になりたいぞ?

 僕は母さんを見る──

「学園には行ってもらうわよ? ちゃんと卒業もしてもらうわ」

 中退という選択肢が消えた……この世界にも学歴みたいのは必要なのか!?

「……母さん……僕が王族とか貴族にちょっかい出されたら──「潰しなさい」──はい……」

「そもそも学園はどこも全て共通で、身分の差は無く励むように決定されているわ。学園内で起こった事は学園側の決定が絶対よ。特殊なのは貴族院ぐらいよ。それに余程おかしな事しなきゃ大丈夫よ。学費も──気にしなくていいわ。アレク? わかってるわよね? 3人分よ?」

「はッ! 当然そのつもりで、このお話をさせて頂きましたッ! が責任を持って後ろ盾にならせて頂きますッ!」

 これ大丈夫なのか? どう考えても国に取り込もうって考えが透けて見えるんだけど?

 母さんに何か考えがあるのかもしれないな。

 まぁ、この異世界もラノベのように学園って身分差は関係ないんだな!

 少し安心したけど──

 エレノアさんから見せてもらった未来の学園内は色んな人がいた理由がわかったよ……。


 そういえば、あの時は音声があったから聞こえてたんだけどさ……学園内で僕は──

皇帝カイザー』と呼ばれてたんだ……。

 きっと、大先生の力を使いまくった僕は皇帝のように女性から崇められていたのかもしれない……。

 とりあえず、行く事は決定みたいだし『皇帝カイザー』と呼ばれないように立ち回ろう……。


 僕達は項垂れた領主を尻目に領主邸をそのまま後にした。

 母さんと姉さんが最後に何か言ったみたいで失禁していたけど、最後には笑顔になっていた。

 気が触れたのだろうか?



 ◆



 アレクを先に帰らせて、今はライラ、ロイド君と話をしながら帰宅中です。

 まさか──学園の制度が今年から変わるとは思ってませんでしたね……。

 確かにそんな話は以前から出ていましたが、もう少し先の話かと思ってました。今年の『開花の儀』で有望な子供達が増えたのが後押ししたのかもしれません。

 ライラの言っていた懸念がここに来て当たりそうです。

 ロイド君には確かにユニークスキルがありませんでした。

 基本的にどの学園もクラス分けは貴重なスキル重視で行われます。

 ユニークスキルさえあれば成績次第で子供達は同じクラスになれたはずなのに、このままではなれないでしょう。

 入学成績でトップを取るぐらいじゃないと厳しいかもしれません。

「ロイ──満点で合格しなさい」

 やはり、ライラも同じ考えですか。

「え? 無理無理、王族とか貴族ってかなり凄いって聞いてるんだけど!?」

 確かに王族や貴族は有用なスキルを所持している事が多いし、才能を伸ばす為の教育をさせています。

 なら難しいでしょう。

「貴方なら行けるわよ。そうじゃなきゃユニークスキルが無いロイは2人と同じクラスになれないわよ? むしろ3人同じクラスになれなかったら──わかってるわよね?」

「うぐっ……」

 ライラのプレッシャーは既に聖騎士時代とそんなに変わりませんね……ロイド君はよく耐えていると思います。

「しかし──裏で戦力確保が始まりましたね……」

「そうね……ステラの言っていた事が真実味を帯びてきたわ……」

「良かったのですか? 学費を国に出させて?」

「そうだよ! 借りを作らせて良かったの?」

 ロイド君も気になっていたようですね。

「いいのよ。後ろ盾はあればあるほどいいわ。それに今回は氾濫スタンビートの一つとして払わせただけだから借りではないわよ。本当に取り込みたいなら──これからよ」

「あー、なるほどね……母さん抜け目ないね……」

「ふふっ、まぁね? それに我が家にお金は無いわ!」

 ライラ……今までも狩りぐらい出来たでしょうに……それに今回の報酬でお金は入るはずでしょう……。

「……まぁ、レラも学費の心配がないなら一安心だよ」

「ロイ──何で今回、こうしたかわかる?」

 ライラは優しくロイド君に聞く。

「……わからない。だけど後ろ盾だけじゃないって事だよね?」

「そうよ……シャーリーならわかるわよね?」

「ええ、今回窓口を広くして学費を安くするというのは半分嘘です」

「え?!」

「……有用なスキル持ちの人のみが優遇されるはずです。そして、国が関与した事により、クラス分けや身分はともかくとして──ハーフなどの人種による差別は起こるでしょう。レラちゃんは有用なスキル持ちですが、おそらく後ろ盾が無いと入学すら怪しいかもしれません。私達だけの名前だけより、国の後ろ盾があった方が安心出来るでしょう」

「…………」

「それに──フィアも複雑な事情があります。2人を学園でも守ってくれませんか?」

「──任せて下さいッ! 僕が2人を守りますッ! ──おわ!? シャーリーさん!?」

「約束のハグですよ? 2人の騎士に私が祝福を授けます──」

 私は力強く返事をしてくれたロイド君を抱きしめて額にキスをする。

 あぁ、私の予想通り……抱きしめるだけで気持ちいい──


 このままベットに連れ去りたい……しかし、ライラの前……我慢です。

 しばらくして解放するとロイド君は窒息してました。

「シャーリー……程々にしなさいよね」

「ふふ、すいません。しかし、私も帰ったら色々と調べないとダメになりましたね……協力して下さいね?」

「えぇ、この子達のために──」


 おそらく──

 今年の学園は様々な人種や実力者、そして王侯貴族が介入するはずです──

 私達大人が牽制しないと……。


 さて、ロイド君に魔法を教える約束をしましたし──それが終わったら私は一足早く帰りましょう。
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