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50話

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「では──開始ッ!」

 わしはこの無慈悲な模擬戦を開始させる。

「──かかって来いッ!」

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」

 兵士と冒険者は負ける気はさらさら無いという感じじゃな。

 正直気が乗らん。騎士を足しておるのは最悪の場合、ロイド君を守る為じゃ。最悪の事態は回避せねばならん。

 魔物と違い、ちゃんと考えて動く経験ある者達──

 それらが1人の少年に向かって特攻していく──

 ライラ様達はあのスキル構成で行けると思っておるのじゃろうか?

 ロイド君は盾使い──

 守り特化じゃろう。


 ん? あの腕輪は──

 今は亡き──『聖壁』カイル様の魔道具?

 そういえばエレン殿からライラ様のような剣の才能は無いと聞いていたな。

 まぁ、あれが使いこなせるなら死ぬ事はあるまい。

 なら尚更──負ける事はなくても殲滅は難しいな……。

 しかし、肝の座った子だ……ずっと笑っている。

 この状況はロイド君にとっては遊びみたいなものなのだろうか?

 子供故に軽く状況を見ているだけ──

「──『挑発』──」

 ──かもしれん?!

 なんじゃ、この強烈な『挑発』は!?

 離れておるわしでさえ向かって行きそうなぐらい惹きつけておる。それに何だこの嫌悪感は!?

 なるほど、これを使って魔物の大半を連れて逃げていたわけか……。

 これで一つ謎がわかった。しかし、こんな『挑発』は初めて見るぞ? 人によってスキル効果が違う事はあるが──これは異常だ。

 さて、ここからどうする?


 ──って逃げとるではないか──むむ!?

「──【盾壁シールドウォール】──」

 これが腕輪の力?! それとも『魔力盾』というスキルの力か!?

 これで二つ目の疑問も解消されたな。これで一網打尽にしたんじゃろう。

 まさか──

 約200名を一気に閉じ込めるとは……末恐ろしい。

 中から破ろうとしておるが盾は破壊されんな。

 ──かなり硬い?

「よっと──【盾の舞シールドダンス】──とりあえずボコボコだぁぁっ!」

 ロイド君は壁のような盾の上に飛び立ち、5枚の盾を新しく具現化させると──

 その盾を自在に操り、中にいる者を殴り飛ばしていく──

 盾をあのように使うとは……しかし、あれでは大量の魔物をズタズタにした理由にはならぬ。

 確かに異常な『挑発』、そして一網打尽にする能力、盾を自在に操る力──どれも凄いが魔物を殺せるとは思えん。


「ロイッ! あの時みたいにさっさと斬り刻みなさいッ! シャーリー様もいるんだから死ななきゃ治るわよッ! 手足の一、二本斬り落としても問題ないわッ!」

 エレン殿の無慈悲な言葉が炸裂する。

 ロイド君はまだ子供じゃろうに……死ななきゃって……最悪殺してしまう事もあるじゃろうに……。

「え? 僕まだ人殺しになりたくないんだけど?」

 ほれ! そうなるわいッ!

 盾壁の中で叫びながら殴られ続けられる兵士と冒険者達を無視してエレン殿と会話するロイド君。

 余裕があるのう……。

「──ロイッ! 私達の怒りが収まらなかったら──わかってるわよね?」

 ライラ様の一言で顔面蒼白になるロイド君は覚悟を決めたようだ。

 あれは──

 究極の選択を迫られて、やらなければ殺されるという顔とよく似ておる。

 なんという可哀想な生活環境じゃ……こんな事が日常茶飯事に起こっておるのか……。

「母さんッ! 勝ったら何か報酬は無いの!?」

 さすがはロイド君! 抜け目がない。確かに望まぬ戦いを強制された以上は報酬ぐらい欲しいじゃろう。

「──が添い寝してあげましょう」

 そんな声が聞こえてきた。

「「「なっ!?」」」

 その声の主を見て、わしも皆と同じく声を出す。

 添い寝じゃと? 聖女様であると?

 こんなもんわしでさえやるわい……命を賭けたってよい。

 世界の憧れ──聖女様に添い寝してもらえるんじゃぞ!?

「え?」

 こぉら、ロイドッ! 何で不服そうな顔しとるんじゃッ!

 貴様、今世界を敵に回したぞ!?

 見てみぃッ! 目の前にいる兵士達の殺気をッ!

 わしも阻止する為に参加したくなってきたわいッ!



 ◆



 シャーリーさんの添い寝──

 めっちゃして欲しいですッ!

 でも僕はもう子供じゃないんです! いや子供なんだけど、あそこは大人なんです!

 家で添い寝とかどんな地獄だよ!? 壁薄いから母さん達に何かあったらモロバレじゃないか!

 理性を忘れて手を出した瞬間──

 僕の人生は終了するッ! 母さんの手によってッ!

 どうすれば良い!?

 何か──何か手はないか!?

 そうだ!

「シャーリーさんッ!」

 僕はシャーリーさんを呼ぶ。

「大丈夫よ! ぎゅぅっ、と抱きしめて寝てあげるわッ! 私の体は柔らかいわよ?」

 いや、そんな事聞いてないよ!?

 周りのヘイト集めてるだけだから! 勘弁して!

「いや、添い寝はいらないんで──魔法教えて下さいッ!」

 これが僕の中でのベストアンサーだッ!

 魔法を使えなければ今後もっと苦戦する時があるかもしれない。これはこの先絶対に必要な事なんだ!

「わかったわ! 副賞でぎゅうっ、としてあげるわね!」

 僕の理性は勝利を迎えたッ!

 添い寝に負けなかったぞ! 何故か副賞があるみたいだけど!

 どちらにせよヘイトを集める事に変わりがない件について!

「……はは、ならそれでお願いします……」

 僕は視線をシャーリーさんから目の前に戻す。

 人って目だけで殺せるような目付きができるんだね……なんで騎士団長さんまでそんな目をしてんのさ!?


 さて──そう言ったものの……どうしたもんか。

『アイギス』のスキルスロットにまだ試してない『ブレス』突っ込むか?

 いや、もし本当にドラゴンのブレスのまんまなら今の位置的に領主の館が吹っ飛ぶし、死亡確定だろう……。

 目立ちたくないんだよね……と言っても既に時遅しなんだけどさ……。

 このさっき名付けた【盾壁シールドウォール】で中の人達は出れないっぽいし、なんとか一気に殲滅させたいな……。

 だけど、あの時みたいに【盾の雨シールドレイン】を使うと後が怖い……今回はまだ規模が小さいし、乱用してないから大丈夫だと思うけど……空に大量に盾を出すのは怖いな。

 まだ【盾刃シールドカッター】や【盾刃転 シールドリボリューション】の方が無難か?

 せめて『感度操作』の【性感度】が離れた敵にも使えたらなぁ……それに【痛覚】とかも相手に使えたらかなり有用なんだけどね……出来ないものは仕方ない。

 今なら高い位置にいるから【盾刃シールドカッター】の方が殺傷力もまだ低いし、簡単に終わるかも。

 うん、そうだな。そうしよう!

 盾を飛ばすだけなら大量じゃなくても──けっこうな量を飛ばせるだろうし!

 一気に何枚行けるか試そう。少しずつ増やして頭が痛くなったらそこが限界だろう。

 魔力は『魔素還元』は使いっぱなしだし問題なし!

 さぁ行くぞ~ッ!

「── 【盾刃シールドカッター】ッ!──まずは10連からいってみよ~ッ!」

 ヅガガガガガガガガガガッと10枚の盾が兵士達に向かい腕や足を切断し地面に突き刺さっていく。

 その場所は阿鼻叫喚だ。

 思った以上に殺傷力が高い!

 殺さないか心配すぎる!

 でも、これってもう勝負見えてるよね? 騎士団長さん止めないの?

 そう思って騎士団長を見ると首筋に母さん達によって剣と槍を当てられていた……表情は顔面蒼白だ。

 魔王様か!?

 まぁ、でも僕もお仕置き嫌だからね……僕を元凶と言った罰は受けてもらおう。僕も腹が立ったしね!

 母さんの視線は早くやれと見据えている。

 しゃーない……。

「はい、20連~」

「ほい、30連~」

「それ、40連~」

「とりゃー、50連~──おっ、これぐらいか」

 どうやら50枚の操作で頭痛が起こるのか……。防衛線の時は大先生と緊張感もあって必死だったから使えてたのかな? いや、盾を出すだけなら問題なさそうだし──簡単なが出来る枚数か。

 ここで大まかな限界値がわかったのは収穫だな。

 目の前じゃ叫び声しか聞こえて来ないけど……。

 でも、ちゃんと避けてる人もいるんだなぁ……死線を潜り抜けているだけある。

 残りは20人ぐらいか? ほとんどが騎士団の人だな。

「えーっと、じゃあトドメさしますね~。死なないで下さいね? 【盾刃転 シールドリボリューション】──」

 5枚の盾を回転させていく──

 キィィィィッンと甲高い音が鳴っていく──

 試しにに向かって放つ事にした。

 すると見事に玄関は細切れに切断されて崩れ落ちた。

「おぉ、予想以上だ!」

「貴様何しとるかぁぁッ!!!」

 領主さんが怒鳴って来た。まぁ気持ちはわかる。家壊されたら怒るよな!

 でも、僕も多少は怒っているんだ。

 だって、これ母さん達がいなかったら──牢獄とかに入れられて尋問とかされていただろうし、今回の元凶として最悪にされていたかもしれない。

 それは【直感】先生達が教えてくれていたからね。

 まぁ、実際の所は母さん達の方が領主や騎士団長に比べて力関係が上だったからそうはならなかった。

 だから──

 これぐらい許されるでしょ。今後、変なちょっかい出されるのも嫌だし徹底的にいこう。

「えっと? お仕置き? あれ? もしかして足りなかったですかね? なら、人もいなさそうなのでもう少し──」

「やめろぉぉぉぉッ」

「聞こえなーい」

 建物をどんどん刻んでいく。

 おー、けっこう威力あるなぁ……。

 僕ってこんな攻撃的じゃなかったんだけどな……どちらかと言うと保守的なはず……母さんの影響かな?


 よし──こんなもんでしょ!

 半壊させたところで、それらを【盾壁シールドウォール】の中にいる人達に向ける──

「「「…………」」」

 中の人達は顔面蒼白だ。それもそうだろう。建物を簡単に破壊するような威力だしね。

 一応、魔法とか弓とかの遠距離攻撃で反撃はされてるんだけど全部盾を具現化させて無力化させているし、すり抜けて来てもちゃんと逸らして回避している。

 これ以上は無駄だろう。

 止めないと撃っちゃうよ?

「──そこまでッ! 十分ロイド君の実力はわかったッ!」

 騎士団長さんの声で僕は止まる。

 ふぅ……やっと終わったッ!

 よく母さん達の捕縛から抜け出せたね──

 って床に転ばされて踏まれてるじゃないか!


 見なかった事にしよう……。

 とりあえず──完全勝利ッ!

 母さん達を見ると満面の笑みを浮かべていた。

 おぉ、これならお仕置きは回避だろう。

 型に嵌めると僕でも結構強いなッ! うん、自信がついたわ! 周りの大人が強すぎるし、凄すぎるから正直自分の力がわからなかったんだよね!

 そんな事を考えていると、騎士団長は立ち上がり声を発する。

「ロイド君は──間違いなく、この国の英雄の1人だッ! わしが認めるッ! 今回の氾濫スタンビートの件はしっかりと国にも報告しておくッ!」

 スキルの事さえ言わなければ問題ないかな?

「ふふふっ、ロイは凄いのよ? やっとわかったようね?」

「はッ! さすがは『双聖』ライラ様のご子息ですッ! 貴女方はこの国の英雄ですッ!」

 そこまで話が大きい事なの!?

 あー、レッドドラゴンとかがいたからか!?

 目立ちたくないのにな……母さんがざまぁクエスト発生させたから大事になったよ!

「さぁて……領主、さっさと立ちなさい」

「は、はい……」

 半壊した領主邸を見ながら四つん這いになっている領主さんは母さんの言葉に反応する。

「私達はらしいわよ? 報酬は当然あるんでしょうね?」

 更なる追い討ちが領主さんに襲う。

「はい……」

 虚しい声だけが、その場に響いた──


 ちなみに今回死人は出なくて僕は心底ホッとした。シャーリーさんが凄いなぁ、と最後に思った。だって部位欠損まで治せるんだよ!

 さすが聖女様だね!
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