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10話

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 僕達はテーブルに座って朝食を食べている。

 レラも珍しくいる。昨日のお礼も兼ねて朝早くに親子で来て、今はレラだけが訓練の為に残っている。

「……」

 僕は無言だ。気不味くて話せない。

 にやにや笑いながら僕を見て笑う母さんがいつを暴露するか不安で仕方がない。

「ロイ、そういえば──朝の件なんだけど──」

 ──来た。

 母さんが話し出す。

「母さん! 15分だっ!」

 短い時間で考えた抑止する為の案──

 それは肩揉みではなく、全身揉みほぐし。

 これならいけるはず!

「30分よ」

 ぐぬぬ……。

「20分……」

「30分よ。交渉は不成立ね?」

 交渉では弱味を握られている方が弱い……ちくしょう……。

「待ってっ! わかったよ……」

「全身揉みほぐし30分ね? それで手を打つわ」

 今日この時だけは母さんが鬼のように見える。

 だけど、夢精をしたなんてバレたら僕の心は間違いなく死ぬ。

 だから僕は揉みほぐしぐらいいくらでもやってやるさ……。


「ライラ、何かあったんですか? ロイド君のが関係する事でも?」

 の言葉を強調して言うシャーリーさんはここぞとばかりに食い付いた。

 鋭い目つきのシャーリーさんは全身揉みほぐしがして欲しいのかもしれない。

 それより、今は母さんだ。

 まさかここで暴露なんかしないよね? そう思いながら見ると──

「ふふっ、実はロイが朝に──この手首につけてるが欲しいって言ってきたのよ。それでロイが揉みほぐしを交渉に持ってきてね? でも全身を揉みほぐししてくれるならあげてもいいかなぁって」

 おぉ! さすが母さん! ナイスファインプレーだ!

 ただ条件がに変更されてるんですけど!?

「……なるほど。それは羨ま──いえ、何でもありません。確か──そっちはカイルの腕輪では?」

 今羨ましいって言いかけた!?

 というか──

「父さんの?」

 それは初耳だな……。

「えぇ、確か結婚指輪代わりにダンジョンをサクッと制覇して報酬の腕輪を2人でつけていた記憶があります」

 へぇ~、この世界にも結婚指輪って風習があるんだな。簡単にダンジョンを制覇した事はこの際スルーしよう。

 父さんは死んでるから母さんは形見として腕輪をつけてたのか……。

 ──ってそんな物を僕が欲しがってる話になってるの!?

「母さん──そんな大切な物なんて知らなかったよ……ごめんね?」

 とりあえず話を合わそう。というか、そんな大切な物受け取れないよ!

「いいのよ。いつか渡そうと思ってたし──カイルもその方が喜ぶわよ」

「いや、でも母さんが持ってた方がいいと思う。諦めるから全身揉みほぐしは1だけね?」

 さりげなく断って、元の条件に戻してみる。

「ロイには盾役の才能があるわ。昨日、己を顧みずにレラちゃんを助けたじゃない──その気持ちは訓練だけじゃ得られないわ。カイルと同じ志を持つロイにこれを託したいの」

 もう、朝の件の事はどうでもいいような流れだ。

 母さんの目は真剣だ。

 素直に受け取ろう。父さんみたいな立派な盾役になれるかわからないけど……。

「わかったよ」

「ふふっ、楽しみにしてるわね? はい、これはもうロイの物よ」

 僕はぶかふがの腕輪をはめると一体化するようにサイズが変わった。

「サイズが変わった!? 凄い……」

「そうでしょ? ロイって魔力は使えたかしら?」

「いや、使えないよ」

「なら、いつか魔力が使えるようになったら教えてあげるわね? 楽しみにしてなさい。さぁ、これからの話をするわね?」

「──これからの話?」

 今教えて欲しいけど、場の空気がいきなり変わって聞くに聞けない……何の話をするんだろ?

「そう、ロイ、レラちゃん、フィアちゃんの3人の話よ」

「「「──!?」」」

 僕達3人に関係する話?

「貴方達は来年の冒険者本部にある育成学園に入ってもらいます。レラちゃんの親御さんには既に許可はもらっているわ。フィアちゃんもシャーリーに了解は得ているから後は貴方達次第ね。ロイは──もちろん行くんでしょ? 行けば来年から見習い冒険者として依頼をこなせるわ」

「「「やるっ!」」」

 僕達は即答だった。

 冒険者まで後、3年あると思ってたけど──早くなれるならその方が良い!

 そんな学園があるとは知らなかったなぁ。

 でも、レラはともかくとして──フィアも冒険者になりたいの??

「フィア──本当に良いんですね?」

 シャーリーさんはフィアに念押しするように聞く。

「はい、お母様──私は聖女候補から辞退します」

 え、ええ!? 聖女候補やめちゃうの!?

「わかりました──ロイド君、守ってあげて下さいね?」

 しかも認めちゃうの!? 本当にいいの!?

「フィア──」

 さすがにそれは良くないと思って声をかけようとするけど──

「ロイ君……私はもう周りに期待されて振り回されるのも持ち上げられるのも嫌なんです。過去の自分とさよならしたいんです! それに──2人と一緒にいたいんです!」

「そうよ! 私達は3人で凄いパーティになるんだから! 私だって──半端者でもやれば出来るって事を証明したいわっ!」

 フィアは普段とは違い物言わせぬ雰囲気で言い、それにレラも便乗する。

「ロイ──覚悟を決めなさい。そうすれば──私とシャーリーは最大限のフォローをします」

「そうです。──いかなる手を使ってでも協力しましょう」

 母さんとシャーリーさんの気迫に僕は後ずさる。


 僕は将来は憧れの冒険者になって、程良く稼いで母さんを楽させてあげたい──そう思っていた。

 フィアは昔の自分から変わりたい──

 レラは自分の境遇でもやれば出来る事を証明したい──

 シャーリーさんは娘、いや、僕達の為に出来る事は何でもする──

 母さんは僕の事を認めてくれているし、父さんみたいになれると信じてくれている──

 その気持ちが痛い程伝わってくる。

 これも『感度操作』の力のお陰なんだろうか?

 それとも『直感』と【直感】の効果のお陰なのかはわからない。

 1番覚悟が無いのは僕なのかもしれない。

 冒険者になったら僕に何が出来るのだろうかと考えた時もあった。

 足止め? 囮? 荷物持ち? 雑用?

 でも──今はが出来る。

 これは僕にとって──

 

 ──その分岐点だ。

 僕はレラやフィア──仲間を守りたい。

 それだけは間違いない。

 だから僕は今決意した覚悟を言葉に出す──

「僕は──最強の盾使いになって守るよっ!」

 父さんは僕とは違い──盾役と相性の良いユニークスキルを持っていたと聞いた。

 だからこそ盾役の頂点に君臨していた。

 僕はそこまで至れないかもしれない。

 なら──

 ユニークスキル『感度操作』と『盾』を使って──

 自分なりの最強の盾役になってやる!

 皆の顔を見ると満足そうに笑みを浮かべていた──



 ◇◇◇


 とまぁ、格好つけてそんな事を言ったりしたが──

「ん、んん……ぅん……あん……全身……最……高……」

 今は母さんとの約束の全身揉みほぐしタイムだ……訓練前にしてほしいと言われて行っている。

 幸い覚醒した息子は反応していない。

 凄く安心したのは言うまでもないだろう。

 実はこの世界──近親相愛も同性愛もなんでもありだから心配したんだ。

 僕が反応しなければ問題無い。

 前世の記憶が──いや、前世の倫理観が僕を勝利に導いた!

 ただ、母さんを見てるシャーリーさんが怖い……。



 ◆


 羨ましい……。

 ロイド君の全身揉みほぐし──

 やってほしいわ……。

 ライラ……雌の顔なんかして……これで実の息子に手を出そうとするものなら──

 私のモーニングスターを使って目を覚まさせてあげますからね!

 あぁ、やってほしい……あの快感を全身で感じたいわ……。

 なんせ、旅の疲労が一発で取れるなんて凄い揉みほぐしです。

 なんとかフィアとくっつけて義理の息子にしたいですね……。

 あぁ、本当やってほしい──

 けれど、聖女という肩書きが邪魔をしてしまいます。

 そういえば──

 私はこれからロイド君の為に一肌脱ぐんでした。

「ロイド君」

「何ですかシャーリーさん」

「実は今回──ロイド君がの盾使いになれるように取り計らっているんです」

「えっ!? そうなんですか!?」

 ええ、そうなんです。ゾルが面倒を見たいと煩かっただけなのですが、今回は出汁だしに使わせてもらいましょう。

 私の護衛任務を一時的に解除しますからね。それぐらいは神様だって許してくれるでしょう。

「ですから──ね?」

 満面の笑みをロイド君に向けると──

「わかりました。後でします」

 深く頷いてくれます。

 本当、この子は聡い子です。

 皆まで言わなくても理解してくれて大満足です。

 この子は将来有望ですね。
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