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1話

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 冒険者──

 それは人々の生活を支える職業。

 依頼を受けてお金を貰える事が出来る。

 依頼は様々だ。街の雑用、魔物の討伐、護衛──色々とある。

 功績さえ積めば貴族にだってなれるだろうし、お金もたくさん貰える。

 英雄にだってなれるかもしれない。

 僕は

 何故か?

 理由はいくつかある。

 この世界は魔物が溢れているらしい。ついでに魔王という存在もいると母さんから聞いた。

 つまり、何が言いたいかというと──

 世の中は危険が溢れているから強くなっておいて損は無いという事だ。

 ただ、僕自身はまだ魔物に会ったのは数えるほどしかないから実感は無い。

 その内の1回はワイバーンという大きな亜竜だった。

 母さんは二刀流で光り輝く剣を十字に空に向けて放つとあっさり討伐された。

 母さんが凄く強いのがよくわかった瞬間だった。

 そして、母さんに憧れたのが理由の一つ。

 ちなみに父さんは僕が産まれる前に死んだらしく、母さんが女手一つで育ててくれた。

 ──と言ってもそこまで苦労はしていないけど。

 父さんと母さんは聖女様を守る聖騎士──それも一握りしかなれない親衛隊である『聖天』だったと聞いている。その時の蓄えで裕福ではないが、普通の暮らしが出来ている。

 父さんが死んでからは僕との時間を作る為に母さんは『聖天』を引退したらしい。

 2人は『双璧』と呼ばれるぐらい凄かったらしい。

『双』は母さん──二刀流でどんな敵も細切れにする。

『壁』は父さん──盾を使い、いかなる攻撃も防いだ。

『双』のライラ、『壁』のカイル──2人揃うと聖女様に指一本触れる事が出来ない。そういう意味で『双璧』と呼ばれたと聞いた。

 僕は強くなりたいと憧れ──幼い頃より母さんに稽古をつけてもらった。

 稽古中は逃げ出したいぐらいハードだったけど、魔物といつでも戦えるように必要な事だと思って頑張って取り組んだ。

 そんな母さんはいつも優しい。

 僕が悪い事をすると『威圧』を使ったり、を飲ませてくるけど、いつもにこにこと笑いながら僕を見てくれる。


 そんな生活を僕達親子は辺境でしている。


 それに他にも冒険者になりたい理由がある。

 僕には前世の記憶がある。

 高校生という学生をしていた。

 そんな僕はゲームやラノベが大好きだった記憶がある。異世界で冒険者をやって、美人なお嫁さん貰って順風満帆な生活を妄想した事もある。

 つまり、異世界で生まれ変わった僕は念願の冒険者になれるという事だ!

 しかも、この世界には『魔法』や『スキル』がある!

 ラノベやゲームの知識が生かせると思うとわくわくする。

 ずっと憧れていた冒険者──

 それになれる!

 しかも、ツンデレ属性の幼馴染もいるんだ!

 僕の容姿は金髪でさらさら、亜麻色の瞳で将来は有望だと思う。

 母さんからも死んだ父さんに似てモテるとお墨付きを頂いたぐらいだ。

 これはもう僕に覇権を握ってくれといってもいいだろう!

 だけど問題がある……僕はまだ10歳なのだ……。

 確か冒険者に登録出来るのは13歳からだ……まだまだ時間がある。


 そういえば、ついこの間──

 10歳になると教会で神様からスキルを与えられる儀式があった。

『開花の儀』と呼ばれていて、そこで得たスキルで今後の人生の道標として将来を決める人が多いと聞く。

 その道の弟子になる人もいれば、稀なスキルを習得するとスカウトされる事だってある。

 この『開花の儀』では人によって授けられるスキルは数も質も違う。

 一般スキルは誰でも習得出来る。上位スキルは一般スキルを使い続ければ習得出来るかもしれない。

 特殊スキルは条件を満たせば習得出来る可能性がある。

 だけどユニークスキルだけは神様が与えてくれる。

 そして、それらは強力な力を秘めたスキルだと聞いている。

 当然ながら僕もスキルを授かった!

 なんとユニークスキルだっ!

 ……だけど、切に願っていた戦闘系ではなかった。ユニークスキルの癖にスカウトすらされなかった……幼馴染の子は騎士団からスカウトされてたけど。

 僕のはとても特殊なスキルなようで使い方がさっぱりわからない……しかも、どこかに就職出来るようなスキルでもなかった。

 しばらく僕は落ち込んだけど、まだまだ時間はあると昨日──吹っ切れた。

 最近、不貞腐れて稽古をサボってたから少しでも勘を取り戻そうと幼馴染と久しぶりに模擬戦もした。ぶっ飛ばされたけど……。

 まぁ、別にスキルが授けられなくても頑張れば習得出来ると聞いているし、これからまた強くなる為に頑張ろうと思う。


 前世でも親孝行出来ずに死んだ僕は今世ではせめて母さんを楽させてあげたい。それに『開花の儀』以降は心配させてばっかりだったし──これからだっ!


 そう決意した──


 ──はずだった……。



◇◇◇



「……ん……あぁ、あ……あぁん……ロイ──い、いいわぁ……」

 ロイとは僕の事だ……正確にはロイド。

「…………」

 別に僕は母さんに卑猥な事は一切していない。

 でも、喜んでくれているのは間違いない。

 僕は疲れている母さんにしているだけなんだけど──


 どうしてこうなった!?
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