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エピローグ
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「会長達と食事に行く約束をしているんだが、いいか?」
車の助手席に座ると、朋輝が切り出した。
「勿論いいわよ、だけど、会長"達"って?」
「会長の奥さんも来るから4人でな。」
「え?私、"はじめまして"だよ。緊張しちゃうな。」
「いや、大丈夫だよ。気楽に、食事会だと思ってればいいから」
「そう?どこに行くの?」
「前、会長と会った和食の店」
「やったー。あそこ全部美味しいから嬉しい。」
「現金なやつ」頬をツンとつつかれた。
・・・
「はじめまして。鈴原美都と申します。会長にはいつも大変お世話になっております。」と頭を下げた。
「はじめまして。美都ちゃん、いいのよ、楽に、いつも通りでね。」
「ありがとうございます」
「では、お腹も空いてきた事だし、まずは食べようじゃないか。」
「そうですね。」と朋輝。
「二人は飲むかな?」
「俺は飲まないけど、美都はどうする?」
「私も今日は飲まないです。」
「じゃあ、すぐ食事を持ってきて貰おう。」
コース料理を予め頼んでくれていたので、すぐに次々にお料理が運ばれてきた。
出てきたお料理はやはりどれも美味しくて、プロの料理人はやっぱり凄いな、と感心してしまった。
─────
水菓子を食べながら、会長の奥さんの京子さんが私ににこやかに微笑んだ。
「美都ちゃん、部長の奥さんの翔子さんから、だいぶ料理の腕を上げたって聞いたわよ。」
「翔子さんがそんな事を?なんだか嬉しいような恥ずかしいような感じですね。最初はすごく時間がかかってたんですけど、最近は少し段取りが良くなってきたかなぁ、って自分でも思います。」
「杉崎、鈴原さんが頑張ってくれて良かったじゃないか。」
「ええ、まあ」
「それでな、鈴原さん」
会長が、私に向かって語り始めた。
「はい、なんでしょうか。」
「杉崎には、随分前から打診していた事なんだが……。私達夫婦は、君達二人の親になりたいと思っているんだ。」
「親、ですか…?え、と…」
「私達夫婦には子どもがいないのでね、前々から杉崎に養子に来ないかと頼んでは、断られていたんだよ。」
「そう、だったんですか…。」
「今でも養子に関してはいい返事を貰えていないんだが、籍を入れなくても、実の親のように頼って欲しいと思っている。
再来月に、結婚式があるだろう。杉崎の親として出席したいと考えている。
それについては杉崎も了承してくれたんだが、鈴原さんはどうかと思ってね。」
「会長…。私が反対する訳ないじゃないですか。朋輝さんが会長に心を開いているのは見ていればすぐに分かります。今日お会いした奥様にも。
私からお願いします。朋輝さんのご両親として、結婚式に出て頂けますか?」
「鈴原さん、いいのかい?」
「はい、ぜひお願いします。」
「美都もこう言っているし、会長、京子さん、よろしくお願いします。」
「おい、どこに親に向かって会長だの京子さんだの言う息子がいるんだよ?」
「え?───」一瞬舌うちでもしそうな顔をした朋輝だったが、
「お父さん、お母さん、二人の結婚式に親として出席をお願いします。」
と頭を下げた。
「いいぞ、いいぞ」「はい、喜んで」
そう応える二人の目には、うっすら涙が滲んでいて、私の目からはそれ以上の涙が溢れてしまっていた。
会長と京子さんの眼差しは、とっくに親のそれになっていたのが、ひしひしと伝わってきたからだ。
最終面接のあの日、もしも雨が降っていなかったら。もしも、会長に出逢わずに普通に面接を受けていたら。
最初は、あの偶然の出逢いにただ感謝をしていただけだった。
けれど。
"もしも"の事など分からないけど、あの偶然がなかったとしても、私はきっとこの入社して朋輝と恋人になったんじゃないだろうか。
そして違う偶然で会長と出会い、それから、会長夫婦は、私達夫婦の親になってくれたんじゃないだろうか。
そのくらい、すべての出逢いが"必然"に思えた。出会うべくして出会ったのだと。
・・・
「お義母さん、このふきの煮物、いい味付けですねぇ。メカジキの煮付もすごくいい匂いがします。」
「本当ねぇ。私がいつも作っている時より美味しく出来た位よ。他のお料理もとても美味しそうに出来てるわ。もう教わる必要なんかないわね。そう言えば、結婚式まであと二週間だわね。」
「そうですね。あ、お義母さん、お味噌汁も温まりました。おかず、盛り付けちゃいますね。」
「私はご飯をよそうわね。」
「お父さん、顔がゆるんでる」
そういう朋輝は仏頂面気味だ。
「だって可愛い義娘が台所エプロンで、私の為にお料理をしてくれてるんだぞ?」
「お父さんの分は、俺のついでみたいなもんだ」
「そんな事はない!お前の分こそついでだ」
そんなやり取りを、お義母さんが微笑ましそうに見ている事に、あの父子は気付いていない。
あの二人は、心を開き合っている割りには、意外と素直じゃあない。
そんな二人の為に、"花嫁修業"という名目で、朋輝と二人で、柳沢家にお料理を習い(作り)に来たのだ。作戦は上手くはまり、あの父子はお酒を酌み交わしながら、仲良くおしゃべりしつつ夕食が出来るのを待っている。
二人をもっと観察していたいけど、お料理は完成した。仕方ない、せっかくだから温かいうちに食べて貰おう。
お義母さんと目配せしてお料理を運ぶ。「美都ちゃん、すごく美味しそうだね」
「はい、お義父さん。本当に美味しくできましたよ。」
「おい、美都、やめろ。お父さんの顔、見ていられない。デレ過ぎだろ」
「やめろって何を?本当に美味しく出来たよ?ね、お義母さん」
「そうね。」
「美味しいかどうかじゃない、問題は美都の言う"お義父さん"だ」
「だって朋輝のお父さんじゃない?だから私のお義父さん。」
あぁ、と頭をかかえる朋輝と、ぱぁっと顔が綻ぶお義父さん。
「そうだよな。私は朋輝のお父さんだもんな」
ニヤニヤ顔のお義父さんに、朋輝は何も言い返さなかったけれど。
私は朋輝の表情に気付いていた。お義父さんが"朋輝"と言った時の、朋輝の少し嬉しそうな照れた顔に。
自然に、自然に。
私達は、元々家族だったみたいに、自然に家族の形になっていった。
何年後かには、もっと家族が増えて、もっと大きな家族になっているんだろうな、幸せももっと大きくなっているんだろうなと、私はいずれやってくるキラキラの未来を思い描いて、ワクワクと胸を踊らせていた。
≪終わり≫
車の助手席に座ると、朋輝が切り出した。
「勿論いいわよ、だけど、会長"達"って?」
「会長の奥さんも来るから4人でな。」
「え?私、"はじめまして"だよ。緊張しちゃうな。」
「いや、大丈夫だよ。気楽に、食事会だと思ってればいいから」
「そう?どこに行くの?」
「前、会長と会った和食の店」
「やったー。あそこ全部美味しいから嬉しい。」
「現金なやつ」頬をツンとつつかれた。
・・・
「はじめまして。鈴原美都と申します。会長にはいつも大変お世話になっております。」と頭を下げた。
「はじめまして。美都ちゃん、いいのよ、楽に、いつも通りでね。」
「ありがとうございます」
「では、お腹も空いてきた事だし、まずは食べようじゃないか。」
「そうですね。」と朋輝。
「二人は飲むかな?」
「俺は飲まないけど、美都はどうする?」
「私も今日は飲まないです。」
「じゃあ、すぐ食事を持ってきて貰おう。」
コース料理を予め頼んでくれていたので、すぐに次々にお料理が運ばれてきた。
出てきたお料理はやはりどれも美味しくて、プロの料理人はやっぱり凄いな、と感心してしまった。
─────
水菓子を食べながら、会長の奥さんの京子さんが私ににこやかに微笑んだ。
「美都ちゃん、部長の奥さんの翔子さんから、だいぶ料理の腕を上げたって聞いたわよ。」
「翔子さんがそんな事を?なんだか嬉しいような恥ずかしいような感じですね。最初はすごく時間がかかってたんですけど、最近は少し段取りが良くなってきたかなぁ、って自分でも思います。」
「杉崎、鈴原さんが頑張ってくれて良かったじゃないか。」
「ええ、まあ」
「それでな、鈴原さん」
会長が、私に向かって語り始めた。
「はい、なんでしょうか。」
「杉崎には、随分前から打診していた事なんだが……。私達夫婦は、君達二人の親になりたいと思っているんだ。」
「親、ですか…?え、と…」
「私達夫婦には子どもがいないのでね、前々から杉崎に養子に来ないかと頼んでは、断られていたんだよ。」
「そう、だったんですか…。」
「今でも養子に関してはいい返事を貰えていないんだが、籍を入れなくても、実の親のように頼って欲しいと思っている。
再来月に、結婚式があるだろう。杉崎の親として出席したいと考えている。
それについては杉崎も了承してくれたんだが、鈴原さんはどうかと思ってね。」
「会長…。私が反対する訳ないじゃないですか。朋輝さんが会長に心を開いているのは見ていればすぐに分かります。今日お会いした奥様にも。
私からお願いします。朋輝さんのご両親として、結婚式に出て頂けますか?」
「鈴原さん、いいのかい?」
「はい、ぜひお願いします。」
「美都もこう言っているし、会長、京子さん、よろしくお願いします。」
「おい、どこに親に向かって会長だの京子さんだの言う息子がいるんだよ?」
「え?───」一瞬舌うちでもしそうな顔をした朋輝だったが、
「お父さん、お母さん、二人の結婚式に親として出席をお願いします。」
と頭を下げた。
「いいぞ、いいぞ」「はい、喜んで」
そう応える二人の目には、うっすら涙が滲んでいて、私の目からはそれ以上の涙が溢れてしまっていた。
会長と京子さんの眼差しは、とっくに親のそれになっていたのが、ひしひしと伝わってきたからだ。
最終面接のあの日、もしも雨が降っていなかったら。もしも、会長に出逢わずに普通に面接を受けていたら。
最初は、あの偶然の出逢いにただ感謝をしていただけだった。
けれど。
"もしも"の事など分からないけど、あの偶然がなかったとしても、私はきっとこの入社して朋輝と恋人になったんじゃないだろうか。
そして違う偶然で会長と出会い、それから、会長夫婦は、私達夫婦の親になってくれたんじゃないだろうか。
そのくらい、すべての出逢いが"必然"に思えた。出会うべくして出会ったのだと。
・・・
「お義母さん、このふきの煮物、いい味付けですねぇ。メカジキの煮付もすごくいい匂いがします。」
「本当ねぇ。私がいつも作っている時より美味しく出来た位よ。他のお料理もとても美味しそうに出来てるわ。もう教わる必要なんかないわね。そう言えば、結婚式まであと二週間だわね。」
「そうですね。あ、お義母さん、お味噌汁も温まりました。おかず、盛り付けちゃいますね。」
「私はご飯をよそうわね。」
「お父さん、顔がゆるんでる」
そういう朋輝は仏頂面気味だ。
「だって可愛い義娘が台所エプロンで、私の為にお料理をしてくれてるんだぞ?」
「お父さんの分は、俺のついでみたいなもんだ」
「そんな事はない!お前の分こそついでだ」
そんなやり取りを、お義母さんが微笑ましそうに見ている事に、あの父子は気付いていない。
あの二人は、心を開き合っている割りには、意外と素直じゃあない。
そんな二人の為に、"花嫁修業"という名目で、朋輝と二人で、柳沢家にお料理を習い(作り)に来たのだ。作戦は上手くはまり、あの父子はお酒を酌み交わしながら、仲良くおしゃべりしつつ夕食が出来るのを待っている。
二人をもっと観察していたいけど、お料理は完成した。仕方ない、せっかくだから温かいうちに食べて貰おう。
お義母さんと目配せしてお料理を運ぶ。「美都ちゃん、すごく美味しそうだね」
「はい、お義父さん。本当に美味しくできましたよ。」
「おい、美都、やめろ。お父さんの顔、見ていられない。デレ過ぎだろ」
「やめろって何を?本当に美味しく出来たよ?ね、お義母さん」
「そうね。」
「美味しいかどうかじゃない、問題は美都の言う"お義父さん"だ」
「だって朋輝のお父さんじゃない?だから私のお義父さん。」
あぁ、と頭をかかえる朋輝と、ぱぁっと顔が綻ぶお義父さん。
「そうだよな。私は朋輝のお父さんだもんな」
ニヤニヤ顔のお義父さんに、朋輝は何も言い返さなかったけれど。
私は朋輝の表情に気付いていた。お義父さんが"朋輝"と言った時の、朋輝の少し嬉しそうな照れた顔に。
自然に、自然に。
私達は、元々家族だったみたいに、自然に家族の形になっていった。
何年後かには、もっと家族が増えて、もっと大きな家族になっているんだろうな、幸せももっと大きくなっているんだろうなと、私はいずれやってくるキラキラの未来を思い描いて、ワクワクと胸を踊らせていた。
≪終わり≫
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