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お腹がすいていたから

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    翌朝、何ともいえない気分で目覚めたものの、私はいつも通り、会社へ出かける支度を整えた。
    スマホの電源を入れると、友達やら色々と新着があったけど、課長からのメッセージはなかった。
    わかってくれたらしい。

    会社へ着いて少しすると、営業の皆がちらほら入ってきた。

「おはようございます」

「「「おはよう(ございます)」」」

「あ、鈴原さん、昨日は、課ち…」「おぃ、来てるっ」

    秋元君と橋本さんが何かゴニョゴニョ言っていると、後ろから課長もやってきて、「おはよう」と柔らかな表情で挨拶してくれた。

「課長、おはようございます」

    昨夜の宣言通りの優しい表情は、やっぱり破壊力抜群で、私の表情にも自然に笑みをもたらしたらしい。

「おはよう鈴原さん、いい笑顔ね」その後ろからやって来た小川さんがニヤニヤしている。

「おはようございます、そういう小川さんもめちゃくちゃいい笑顔ですよ?」

    小川さんに弛んだ笑顔を指摘されてしまった。やはり嬉しさが顔に出てしまうらしい。ちょっと優しい表情をされただけで舞い上がるとは、乙女心はやっかいだ。

・・・

    朝のミーティングの後、営業は全員外回りに出かけて、私達は事務作業に追われ、気付くとお昼になっていた。

「鈴原さん、今日はお弁当持ってきた?」

「いえ、持ってきてないです。小川さんは持ってきた…みたいですね、私、ちょっと買ってきます。」

「休憩室で待ってるわね。」

・・・

    コンビニから戻ってくると、小川さんは待ってましたとばかりに聞いてきた。

「昨日、課長と何かあった?」

「はい、実は課長の誤解がとけまして、私の勤務態度を凄く褒められました。」

「へ?勤務態度………。」

「はい、それで今までの事を謝ってくれて、車で送ってくれました。」

「………それから?」

「それだけです。」
    それだけの筈だ。色々ヤバいのは私の頭の中だけの話だし。

「何だかよくわからないわね。勤務態度がいいなんて、最初の1日でわかった事じゃない。」

「うーん、課長にはなかなか伝わりにくかったんですかね。」

「それで、あの素っ気ない態度から一転、今日はなんであんなに甘い雰囲気を出してるのかな?」

「今までの反省というか、罪ほろぼし的な?」

「反省ねぇ。何か行き違いがありそうな気もするけど。」

「でも、これからは優しくするって言ってましたし、行き違ってはいないと思います。前に言われた通り、辞めたりせずにお仕事頑張りますよー!」

「うん、そこは期待してる。」と笑った。

───

    今日は定時に仕事を終え、バッグの中のスマホを見ると、ラインが入っていた。課長からだ。

課長「悪い、まだ出先で帰社は8時位になりそうなんだが。待てないよな。」

私「課長、お疲れ様です。定時終わりなので、電車で帰れます。」

課長「そうか。送りたかったけど、今日はあきらめて明日にする。お疲れ様。」

………!課長ってこんななの?新人が好きになっちゃうのは当たり前なのでは…。ラインで"送りたかった"って言われただけでこれなら、あのイケメンに面と向かって優しく言われて微笑まれたら軽く死ねる………。

    "明日送ってください"とは、返信する気にならなかった。送って貰いたいような、送られたら負けるみたいな謎の葛藤と戦いながら、帰宅の途についた。
    そしてようやく、"もしも私が残業の時はよろしくお願いします。ありがとうございます。"と送信した。

・・・

    課長の残業と私の定時上がりが重なっていた為、課長の送迎を断り続けて数日たった。
    だけど、週末の金曜の今日、私は仕事が終わらず、とうとう残業になってしまった。今週は、営業の皆も忙しいらしく、それぞれ出先から直帰していて、事務作業も結構増えていた。小川さんはパートなので、基本的には残業はしない。
    
    なんとか9時頃までには終わるかな?と損保会社に出す書類を棚に入れて、社内の会議資料を綴じていると、課長が戻ってきた。

「やっと送っていける。」

「………課長、お疲れ様です。」

「お疲れ様、片付けたら飯食いに行くぞ」

    時間も遅いので、私もそう言えばめちゃくちゃお腹がすいていた。食事位は…と、

「はい、ご一緒します。」といつになくご機嫌で返事をした。
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