優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ

文字の大きさ
上 下
3 / 23

オフィスにはハプニングもある

しおりを挟む
    課長のもと、5日間指導を受けただけだったが、元々課長は管理職でありながら成績トップの営業マンでもあった為、そろそろ本来の職に戻したいと、今日の朝礼で部長からお達しがあった。

「私は今日から外回りだ。鈴原、分からない事があったら小川さんに聞いて。それでも解決しない時は私に電話して。」

「…はい。承知しました。」

「…どうした?不安か。」

「…はい、正直言って不安です…。」

「鈴原、5日間しかお前を見ていないが、大丈夫だと思うぞ。自信を持てよ。」

「…え?」

「何回も言わすなよ。鈴原、分からないければ聞けばいいんだ。自信を持ってやれ。」

「課長…。はい!」

    優しく微笑んで…はくれなかったが、自信を持てと励ましてくれた。課長の貴重な時間を5日間も貰って勉強したのだ。期待に応える為にやってみよう、と頷いた。

・・・

    課長は、外回りに出るともう、その日に成果を持ってきた。大口の運送業者の新規契約だ。

(すごい…。前から追っていたにしても。)

    私は、というと、電話応対や見積書の作成、会議の資料作りに、一日奮闘する事になった。
    これはどうだったっけ、と思い、ノートを見ると、的確な回答が自分の字で書き込んであった。そういう事が何度かあり、実践に役立つ事を教えてくれていたのだな…と感嘆した。

(スーパーマンみたいな人だな…。面接の時みたいにまた笑いかけて欲しいよ。)

    ふぅ。と伸びをしてデスクを片付けた。

・・・
    
   独り立ちして数日たち、いつもの業務をこなしていると、電話が鳴った。

「お電話ありがとうございます。岡崎コーポレーションの鈴原でございます。」

「もしもし?今アウディで事故っちゃってさ、うちの担当、誰だっけ?電話するように言って?」

「かしこまりました。大変でございましたね。それではお電話番号を…」「頼むね。」
ガチャ。ツーツーツー…

「お客様?…お客様?」

    自分の顔色がサーっと青くなるのを感じた。ナンバーディスプレイには電話番号の表示はない。

(どうしようー?お客様の名前も担当者の名前も何も分からない…。)

    小川さんに事情を話してはみたが、何も分からないのではお手上げだと言う。お客様は待っているというのに。

    怒られそうだが、課長に指示を仰ぐ事にした。

「お疲れ様です、課長、今お電話大丈夫ですか?」

「ああ、平気だが?」

「実はアウディで事故を起こしたと電話が入ったのですが、担当者の名前もお客様の名前も仰らず切ってしまわれて…。どうしたらいいでしょう?」

「…。鈴原?アウディでって言ったのか?」

「はい。それだけしか…。」

「もしかしたら、向田運送の向田社長かもしれない。1年前に私から神谷に担当をかえたから神谷に連絡するように伝えてみる。少しそのまま待っていてくれ。」

「課長…、ありがとうございます。」

「いや、切るぞ。」

    待っている時間は1時間にも2時間にも感じたが、実際は25分程で、神谷さんから電話が入った。

「鈴原さん、さっきの電話、向田社長で間違いなかった。近くにいたから顔を出したら、すぐ来てくれたって感謝されたよ。」

「本当ですかっ?〰️〰️、良かったですぅ。」

    へにゃっと力が抜けてホッとした。地獄で仏、課長さま様、本当に助かりました。
    以前の担当の顧客とはいえ、アウディだけでピンとくるなんて、どれだけ頭に入ってるんですか…!
…だけど、これ以上素敵な所を見せないで欲しいです…本当に。私に恋愛脳は、禁止なんですから。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。 −−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!! イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

処理中です...