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配属先にいたのは
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なんと嬉しい事に、私は希望していた保険部門の営業事務職に配属が決まった。
ここは、大手数社の損保会社の総合代理店として業務をおこなっている。小規模だが、この業界では契約数が桁違いに多い会社として有名だ。
そして現在、私は部署で新入社員の紹介の場に立っている。
このフロアの 新入社員は、営業の男性が2名、営業事務は私だけだった。思っていたよりこじんまりとしている。
フロアには、元々、営業部長の他、課長、主任、営業が4名、営業事務の女性が1名いるようだ。
「新入社員の自己紹介の前に、まずは我々の紹介をさせてもらう。
私が営業部長の篠原だ。順番に、杉崎課長、飯島主任、営業の栗山、大塚、橋本、神谷、営業事務パートの小川さんだ。月末の歓迎会でちゃんとした自己紹介をしてもらうから、今は簡単に名前だけ言っていってくれ。」
そう言われて、営業の長島君、秋元君につづいて私も「鈴原美都です。」と名乗った。
新入社員には、それぞれ指導係がつく事になるが、前任の営業事務が引き継ぎ前に辞めていた為、私には営業課長が直接指導する事に決まったという。
その課長こそ、面接の時、優しく歓迎の言葉をくれた男性だったのだが、今、杉崎課長の私を見る目は、何故かとても冷たいものだった。
(どうしてあんなに冷たい目で私を見るの…。)
杉崎課長は、長身でスーツを着こなし、サラっとした黒髪、すっとした眉、切れ長の目に、少し冷たそうな薄い口唇、鼻筋の通った端正な容姿。整い過ぎて、一見恐い位に思える容貌ではあるが、面接の時は、表情が柔らかく、優しい人柄を感じさせていた。なのに。
「杉崎課長、どうぞよろしくお願いいたします。」
「ああ、よろしく。早速流れを教えるからメモとって。」
「はいっ。」
杉崎課長の指導は事務的で、分かりやすくはあったが、無駄話は一切ないまま、お昼になった。──うーん、こんなもの?
「お昼休憩は…、小川さん、ちょっといいかな。鈴原に教えてやって、一緒にとってやってくれないか?」
「はい、いいですよ、鈴原さん、案内するわね。課長、お昼、行ってらっしゃい。」
「ああ、ありがとう。」
爽やかに笑って出て行った…。え?何?私にはずっと無表情の鉄仮面だったくせに…。むぅっと口をとがらせると、小川さんはくすっと笑って言った。
「鈴原さん、外食派?お弁当派?どっち。」
「今日は様子見で、何も持ってきてません。外にコンビニもありましたし。」
「私も今日はお弁当じゃないの。日によって、お弁当を持ってきたり、外食したり、コンビニで買って休憩室で食べたり。鈴原さんもそうしない?」
「はい、ご一緒させて下さい!」
「ふふ、それじゃ、今日はコンビニへ行きましょう。ゆっくり話したいし。」
「そうですね。」
・・・
昼食をとりながら、小川さんは色々な事を教えてくれた。
「鈴原さんの前任の営業事務の女性なんだけどね?代々、1年もたたないうちに辞めちゃうの。」
「え?どうしてですか。」
「杉崎課長…、格好いいでしょう?」
「え?…そう、ですね。とても仕事もできそうですよね。」
「そう、課長がマンツーマンで教えて、少したつと、辞めて、新しい人が来て、辞めて、の繰り返し。
多分なんだけど、若い女性だと、課長の事好きになっちゃうんじゃないかな。課長にしてみれば、一生懸命指導しているのに、仕事そっちのけで脳内恋愛の事ばっかり…じゃあね…。」
「そう、だったんですか…。」
(でも、その理由だと、私に対して最初から冷たくする事もない筈…。)
「この次に入ってくる新人は自分で選びたい!って面接官の1人に加えるようにかけあってたみたいよ。」
「そう、だったんですか…。」
頭の中が整理できずに、馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を繰り返していた。
(グループ面接の時は歓迎してくれていたような気がする。
分からないが、最終面接をしていない事が原因なんだろうか?
…でも、やっぱり訳が分からない。
私は何かしてしまったんだろうか?)
「新人が長続きしなくて課長も気の毒だし、鈴原さん、辞めずに頑張ってちょうだい!
鈴原さんはナチュラルメイクだし、スーツ姿も清楚だし、今までの女性社員とは違ってそう。期待してるわよ。」
ポンっと軽く肩を叩かれ、はっとして答えた。
「はい、頑張ってみます。」
結局私が嫌われている原因はよく分からないままだったが、課長のあの態度を見る限り、恋愛に発展するなんて、全く、1ミリも、万に一つもなさそうだから(言ったら悲しくなってくるけど)、仕事は逆に頑張れそうな気がしてきた。
ともかく、目の前の仕事を覚えて、戦力になれるように頑張ってみよう、と休憩を終えて席に戻った。
ここは、大手数社の損保会社の総合代理店として業務をおこなっている。小規模だが、この業界では契約数が桁違いに多い会社として有名だ。
そして現在、私は部署で新入社員の紹介の場に立っている。
このフロアの 新入社員は、営業の男性が2名、営業事務は私だけだった。思っていたよりこじんまりとしている。
フロアには、元々、営業部長の他、課長、主任、営業が4名、営業事務の女性が1名いるようだ。
「新入社員の自己紹介の前に、まずは我々の紹介をさせてもらう。
私が営業部長の篠原だ。順番に、杉崎課長、飯島主任、営業の栗山、大塚、橋本、神谷、営業事務パートの小川さんだ。月末の歓迎会でちゃんとした自己紹介をしてもらうから、今は簡単に名前だけ言っていってくれ。」
そう言われて、営業の長島君、秋元君につづいて私も「鈴原美都です。」と名乗った。
新入社員には、それぞれ指導係がつく事になるが、前任の営業事務が引き継ぎ前に辞めていた為、私には営業課長が直接指導する事に決まったという。
その課長こそ、面接の時、優しく歓迎の言葉をくれた男性だったのだが、今、杉崎課長の私を見る目は、何故かとても冷たいものだった。
(どうしてあんなに冷たい目で私を見るの…。)
杉崎課長は、長身でスーツを着こなし、サラっとした黒髪、すっとした眉、切れ長の目に、少し冷たそうな薄い口唇、鼻筋の通った端正な容姿。整い過ぎて、一見恐い位に思える容貌ではあるが、面接の時は、表情が柔らかく、優しい人柄を感じさせていた。なのに。
「杉崎課長、どうぞよろしくお願いいたします。」
「ああ、よろしく。早速流れを教えるからメモとって。」
「はいっ。」
杉崎課長の指導は事務的で、分かりやすくはあったが、無駄話は一切ないまま、お昼になった。──うーん、こんなもの?
「お昼休憩は…、小川さん、ちょっといいかな。鈴原に教えてやって、一緒にとってやってくれないか?」
「はい、いいですよ、鈴原さん、案内するわね。課長、お昼、行ってらっしゃい。」
「ああ、ありがとう。」
爽やかに笑って出て行った…。え?何?私にはずっと無表情の鉄仮面だったくせに…。むぅっと口をとがらせると、小川さんはくすっと笑って言った。
「鈴原さん、外食派?お弁当派?どっち。」
「今日は様子見で、何も持ってきてません。外にコンビニもありましたし。」
「私も今日はお弁当じゃないの。日によって、お弁当を持ってきたり、外食したり、コンビニで買って休憩室で食べたり。鈴原さんもそうしない?」
「はい、ご一緒させて下さい!」
「ふふ、それじゃ、今日はコンビニへ行きましょう。ゆっくり話したいし。」
「そうですね。」
・・・
昼食をとりながら、小川さんは色々な事を教えてくれた。
「鈴原さんの前任の営業事務の女性なんだけどね?代々、1年もたたないうちに辞めちゃうの。」
「え?どうしてですか。」
「杉崎課長…、格好いいでしょう?」
「え?…そう、ですね。とても仕事もできそうですよね。」
「そう、課長がマンツーマンで教えて、少したつと、辞めて、新しい人が来て、辞めて、の繰り返し。
多分なんだけど、若い女性だと、課長の事好きになっちゃうんじゃないかな。課長にしてみれば、一生懸命指導しているのに、仕事そっちのけで脳内恋愛の事ばっかり…じゃあね…。」
「そう、だったんですか…。」
(でも、その理由だと、私に対して最初から冷たくする事もない筈…。)
「この次に入ってくる新人は自分で選びたい!って面接官の1人に加えるようにかけあってたみたいよ。」
「そう、だったんですか…。」
頭の中が整理できずに、馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を繰り返していた。
(グループ面接の時は歓迎してくれていたような気がする。
分からないが、最終面接をしていない事が原因なんだろうか?
…でも、やっぱり訳が分からない。
私は何かしてしまったんだろうか?)
「新人が長続きしなくて課長も気の毒だし、鈴原さん、辞めずに頑張ってちょうだい!
鈴原さんはナチュラルメイクだし、スーツ姿も清楚だし、今までの女性社員とは違ってそう。期待してるわよ。」
ポンっと軽く肩を叩かれ、はっとして答えた。
「はい、頑張ってみます。」
結局私が嫌われている原因はよく分からないままだったが、課長のあの態度を見る限り、恋愛に発展するなんて、全く、1ミリも、万に一つもなさそうだから(言ったら悲しくなってくるけど)、仕事は逆に頑張れそうな気がしてきた。
ともかく、目の前の仕事を覚えて、戦力になれるように頑張ってみよう、と休憩を終えて席に戻った。
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