幼馴染で恋人の少女と異世界に召喚されて五年が経ちました〜今は嫁となった幼馴染と一緒に暖かで、平和な家庭を築いています〜

三日月

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仕事

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「おう。遅かったな」

 部屋の一室に大柄で、人相が悪い男が一人。その男の名は、

 僕の雇用主であり、友人の一人であり、お国に仕えている武官の一人だ。

 シドは、武官と一口に言っても少々特殊な物に就いており、彼は国の守護を一任される実質的な武官のトップであるという呼ばれる地位に就いており、僕は彼の密偵して日夜働いている。

   ヤクザの様な見た目をしているシドだが、彼はこの国に住む民をとても大事に思っており、その気持ちに偽りはない。
   
   シドは、昔から陰ながら民の生活を助けでいたのだが、それが役職があがるにつれ、身動きが取りづらくなってしまったのだ。 

   そこでシドは、僕に自分の代わりに民の為に動いて欲しいとお願いし、僕は、それ相応の対価と引き換えに引き受けた。
 
  仕事の内容は多岐に渡り、家に帰る暇などないほど膨大だ。

 そこまでして働くのは、給料がいいのもあるが、情報を一番多く仕入れやすいのが、その最たる理由だ。
 
「お前さんは、本当に嫁さんが大好きなんだな。カーッ‼ 胸やけしそうだぜ」

 シドは、まだら模様の髪を無造作にかきむしり、彼の頭《・》が、小刻みに揺れる。

「うるさい。余計なお世話だ。それに僕が溺愛しているのは嫁ではなく、娘の方だ」
「へ~、ふ~ん」

 シドは僕のいうことを全く信じていないと言わんばかりの眼でこちらを見る。

   事実ただの強がりなのだが、シドの表情は、こちらの事を完全に馬鹿にするような顔をしており、つい手が出そうになるが、僕の力では、である彼にはどうあがいたって勝てないので、その気持ちを何とか押し殺す。

「もう……シドさん。そんなにからかったら風音さんが可愛そうじゃないですか」

 エメラルドグリーンの美しい瞳が、シドの事を非難するような目で見つめていた。

 瞳の持ち主の名は、。僕と詩織が、この世界に来て初めて出会ったの少女にして、もう一人の命の恩人。

   彼女から僕たちは、この世界の常識や言葉など本当に多くの事を学んだ。

 もし彼女がいなかったら僕達は、すぐさま飢え死にしていただろう。

 そんな彼女だが、今は僕と一緒にシドの密偵をしていて、ともに働いてくれている。

 彼女がこの部屋を訪ねたのも今日の仕事内容を聞くためなのだろうが、メインはそちらではない。

   カナは両手でお盆を持っており、その上には湯気がモクモクと沸いている美味しそうなお茶が二つ乗っていた。

   気の利く彼女の事だ。僕たちにふるまうためにわざわざ準備をしてくれたのだろう。

「ああ、ありがとう」

 カナは、先ほどの眼とはうって変わって、とても温かな目で僕ににこやかにはにかんでくれる。

 プラチナブロンドの淡く、綺麗な髪が部屋に差し込む日を浴びてかすかに煌めき、そのあまりに美しい光景に、妻がいる身でありながら目を奪われてしまう。

「お。浮気か? 後で詩織さんに報告しちゃおうかな~」
「お前。そんな事してみろよ。絶対に後悔させてやる」
「じょ、冗談だって。だからそんな怖い顔で、こっち見るなよ」
「今のは、明らかにお前が悪い」
「お二人とも喧嘩はダメですよ?」

 カナは、プンプンと怒ったような素振りを見せるが、正直言って全く怖くなく、むしろ可愛いらしい。

 彼女の種族であるエルフは、非常に温厚なのが特徴的な種族だ。

 温厚なのが特徴的な彼らは、怒るといった行為自体ほとんどせず、仮に怒る自体が発生したとしても今のカナの様に、歪な物になってしまうのだ。

「さて冗談はここまでだ。仕事の話をしよう」
「待った。その前に情報を教えろ。じゃないと働かない」
「ああ……その事なんだが……」

 シドの様子を見て僕は、既に察してしまっていた。
 二人には、僕の情報を全て開示しており、そこには僕に知りたい情報も含まれる。僕の知りたいことは、主に二つ。

 一つは、言わずもがな自分の世界に帰る方法。

 もう一つは、僕と同じ種族がいるかどうか。

 この世界では、僕たちの種族人間は、誰一人しておらず、シドの様な獣人やカナの種族でもあるエルフの様な存在……僕達の世界の言葉でわかりやすく言うならばしか存在していない。

 僕にとっては彼らこそ異端な存在なのだが、彼らからすれば僕たちの方が異端の存在であり、亜人たちは皆、自身の事をと呼んでいる。

 それはシドもカナも変わらず、シドとカナは見た目に大きな違いがあるにも関わらず、互いが互いの事を同じ人であり、違うのは人種だけだと本気で思っている。

 だからこそ僕は、知りたい。自分と同じような存在はいるのか。

   いるのならば一体どこで暮らしているのか。

   それが知りたくて、知りたくて堪らない。

「風音。その悪いんだが、今回もお前さんが望む情報については大したものは、得られなかった……すまない」
「そう……か」

 既に何百回と聞いたその言葉に、僕は納得してしまう。
 実のところこの二つの情報に関しては、五年たった今も全くと言っていいほど手掛かりは、得られなかった。
 シドが僕の望みの為に必死に動いてくれているのは、知っている。

 ジェネラルである彼の情報網は、僕が考えているよりも遥かに広く、強大だ。それでも尚見つけられないのだから彼の事を責められるわけがない。

「風音さん……」

 カナは僕の事を悲しそうな瞳で見ていた。心優しい彼女のことだ。僕の境遇に同情し、嘆いてくれているのだろう。

 瞳は潤みを帯び、今にも泣きそうな顔をしている。

「そんな顔をしないでくれよ。僕は別に大丈夫だから」
「で、でも……」

 カナは、僕が大丈夫だと言っているに納得してくれない。

「大丈夫って言ったら大丈夫なの。だからカナが、気に病む必要なんてないし、そもそもカナには、関係のない話だろう?」
「お前……いくら何でもその対応はないだろう……」

 シドが僕の事を非難がましい目線で見てくる。

 僕だって今の対応が酷い物だとわかっている。

  でもそうしなくてはいけない理由がこちらにもあるのだから仕方がない。
 
「いえ……いいんです。今のは、私が悪いんですよ」

 カナの明らかな作り笑いに僕の胸は、痛む。でも慰めるようなことはしない。その様な資格僕にはない。

「嬢ちゃんがそういうならいいが……」

 シドの口調は明らかに納得していない。そもそもシドは、今回の場合に限り僕の味方ではなく、カナの味方なのだ。

「はぁ……全く難儀な関係だよなお前らは……」
「うるさい。余計なお世話だ」
「世話のひとつも焼きたくなる。だってお嬢ちゃんのお前への思いは……」
「いう必要なんてない」

ーーわざわざ誰かに言われる必要などないのだ

 僕は、彼女が僕に抱いている感情が何か知っている。

 だからこそ僕は彼女に、このような冷たい態度をとるのだ。

  そうする事よって、彼女の胸にある熱い思いを冷ますために。僕以外の誰かに向かわせるために。

「早く仕事をよこせ。そうしないと僕は、今すぐに帰るぞ」
「分かったよ。今日の仕事の内容だが、嬢ちゃんの方に詳しい内容を話してあるから嬢ちゃんから聞いてくれ」
「そういう事ですので、今日もよろしくお願いしますね。風音さん」

 カナは、何が嬉しいのかとてもご機嫌そうな顔をしており、僕はそんな様子の彼女に少しゲンナリしてしまっていた。
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