上 下
38 / 53
第二幕

苦手なものと金髪少女

しおりを挟む
「ど、どうでしたか……?」
「その……なんというか……」
「ええ……そうね……」
「「うますぎて引いた……」」」

 星野さんの声は綺麗な事は知っていたし、歌を歌うのが似合うと思いはしていたが、まさかここまで化けるとは思わなかった。

   星野さんが歌ったのは『森のくまさん』であるにも関わらず、一瞬意識が昇天しかけてしまった。

「ひ、引いた……はは……そうですよね……私風情の歌声なんて聞くに堪えないですよね……ごめんなさい……」
「ちょっと待って!? 僕たち褒めたよね!? 後半のマイナスの所だけ取らないで‼」
「へ……? 褒めてたんですか……?」
「うん……褒めてたよ……それもめちゃくちゃ……」
「す、すみません‼ 早とちりしてしまって……」
「早とちりというには後ろの言葉がっつり聞き取ってたわよね……」
「霧羽さん。うるさいです」

 どうしてこういう時余計な事をいうのか。そんなこと言ったら星野さんが萎縮して、何も言わなくなってしまうではないか。

「そう言えば霧羽さんは歌得意なんですか?」
「私? 私は……そうね。苦手ではないけれど別に上手くもないと言ったところかしらね」
「へぇ。意外ですね」
「それはどういう意味かしら?」
「霧羽さんってなんでも完璧にこなしそうな見た目していますから」

 星野さんも僕と同意見の様で、首を激しく縦に振っている。

「そうでもないわよ。私だって苦手な物の一つや二つあるわ」
「ふ~ん」
「聞いてはくれないの?」
「聞いて欲しかったんですか?」
「それは……まあ……やっぱり雅也君には私の事をもっと知って欲しいし……」

 なんだろう。こうまでいじらしい先輩を見るとなんか変な気分だ。こう得体の知れない気持ち悪さが身体中を張っていて、言葉に表しようがない。

「なら教えてくださいよ。霧羽さんの苦手な物。あ、星野さんも教えてくれると嬉しいかな。むしろそっちの方が気になる」
「え、わ、私ですか!?」
「雅也君。いくら何でもその対応は酷いわ。私だって傷つくのよ?」

 僕にあれだけの所業をしておいてよく言う。僕はあの時先輩にされた所業、トラウマで忘れられなくなっているというのに。

「うるさいです」
「むぅ……つれないわね~そんなところも好……」
「霧羽さん?」
「え、あ、うん。なんでもないわ」

 今回の作戦中先輩には僕へのアピールは全面的に禁止している。それは咲夜からのお達しということおあるが、どちらかと言えば先輩本人の為だ。

 今、星野さんは僕に明らかに依存している。そんな中彼女から僕を取り上げるような存在が現れてでも見ろ。明らかに彼女は暴走し、最悪先輩は星野さんに刺されるなんてケースもあり得る。それとは違って僕が星野さんに刺されるというケースもあるが……その時はその時だ。

「それで星野さんの苦手な物って何?」
「私はその……お、お化けが苦手です」
「へぇ。お化けが苦手なんて可愛いね」

 いかにもなその答えに僕の心はほっこりする。

「そ、それとも……」
「あ、うん……それは何となく察しているから言わなくていい……」

 こうして素直に言葉にしてくれるのは嬉しいのだが、こうやって改めて人間嫌いを聞くと少々頭が痛くなる。

 本当どうやったらここまで人間が嫌いになれるのか。その原因はきっと彼女は語ってくれはしないだろう。そうなると希望は敦しかおらず、彼がうまくやることを願うばかりだ。

「ちなみに私は男の人が苦手よ」
「ソウナンデスカー」
「ちょ、絶対信じてないでしょう!?」
「はい。信じてません」
「ちょっとは私の事信用して欲しいのだけれど……それは無理な願いかもしれないわね……」

 先輩は少々自嘲気味にそう呟いた。彼女の中できっと先の行いが僕の予想以上に響いているのだろう。今も尚こうやってその時の後悔が現れる時がある。

「金剛雅也‼ 一曲歌います‼」
「こ、金剛さん!? い、いきなりどうしたんですか!?」
「気にするな‼ 唯の悪乗りだ‼」

 本音を言ってしまえば僕は歌を歌うのはあまり好きではない。その理由は単純。僕が音痴だから。咲夜はそんな僕の歌声も好きと言ってくれるけど他の人は違う。

 僕の音楽の成績は万年1。採点モードを使うといつも20点くらいしか取れない。そんな人間いるわけがないと思うかもしれないが実際こうやっているのだから仕方がない。

 そんな僕がこうして自ら歌うのは先程の宣言通りの唯の悪乗りで、二人の気分を明るい物にしてあげたかったから。

 僕が道化を演じることによって二人が笑ってくれるなら結構。大いに笑うがいい。何せ今回の選曲は……

「雅也君。あなた……」
「い、いぬのおまわりさん......」

   高校二年生の春にこのような歌を歌う羽目になるとは思わなかったが、そんな事今はどうでもいい。

「さあ震えるがいい。僕のに」 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...