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第二幕
恋と幼馴染
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日は既にくれ、あたりは一面の夜。そんな中星野さん一人を返すのは不安で、僕は彼女の了承を得た上で彼女の家にまで送っていく事にした。
「星野さんってどうして今日の合コンに参加したの?」
僕は今日、星野さんの人柄を知り、彼女がそう言った人の集まる場が苦手な人間ということはよくわかった。だからこそ彼女が、今日あのような場にいるのは不可思議であり、僕は先程からずっとその事が気になっていた。
「え、えと……それは……」
星野さんは目をどこか気まずい様子で俯いている。どうやら彼女にとってその質問は、答えることができないような内容だったらしい。
「ごめん。今のは忘れて?」
「……すみません」
「謝らないの。人間誰しも秘密にしておきたいことの一つや二つあるんだから一々それに謝っていたってしょうがないよ?」
特に僕なんかは今日、彼女と遊んだ事も人には言えない。もし言おうものならば確実に咲夜にバレる。
「金剛さんにもあるのですか……?」
「そりゃあ勿論あるよ。僕だって人間だしね。それとも何? 星野さんは僕の事を人間と思ってなかったりするの?」
「いいえ‼ そんなことは断じて思っていませんわ‼」
「お、おう……」
「あ、あう。す、すみません……」
「…………………………」
星野さんのテンションの上下は本当に激しい。きっとそれは彼女の心のバランスがうまく取れていないから。だからこそ感情の制御もうまくできないのだろう。
「金剛さん……?」
「ん? どうかした?」
「金剛さんは恋ってどういう物だと思いますか……?」
「恋……か。中々難しい質問だね」
僕は今まさしく咲夜に恋をしている。彼女の事を思うだけで胸があったかくなるし、振られたときの事を想像すると胸が痛くなる。甘さと辛さ。その二つのバランスが絶妙にかみ合ったもの、それを僕は恋なのではないかと考えている。
「恋とは美しくて、綺麗でありながらもそれとは真逆の側面……残酷性をもっているもの……」
「それが金剛さんの答え……なのですか?」
「そうだよ」
この言葉に嘘は一切ない。美しい物には棘がある。それは恋も同じで、近づこうとしても棘があってうまく近づけない。でもその棘を気にせず、痛みに堪え、突き進んだものにこそ、報酬は与えられる。遠くから見ているだけでは思いは伝わらない。直接動かないと何事も欲しいものは、手に入らないのだ。
僕のそんな思いを聞いた星野さんはどこか難しい顔をしていた。
「もしかして納得できない?」
「いえ……理屈の上では……納得できます」
理屈の上では納得できる……それはつまるところ全く納得できていないというわけで、僕はつい失笑してしまった。
これでも自分なりには精一杯伝えたつもりだった。でも星野さんは納得してはくれなかった。その事が少し悲しかった。
「そういう星野さんはどうなの?」
「私……ですか? 私は……」
星野さんの瞳はどこか不安げに揺れていた。いや、それだけではない。彼女の瞳にはわずかに憎悪の色が見て取れた。
「私は恋が嫌いですわ。いいえ。嫌いでは足りません。大嫌いです。死ぬほど嫌いです。私は恋という物が……人が人を好きになるという行為が大嫌いですわ……」
「……そっか」
星野さんの心に蝕む何かをこの時僕はかすかに掴めた気がした。
「否定……なさらないのですね……」
「勿論」
星野さんの考えは明らかに間違っている。でもそれは今言うべきことではない。何せこれは苦しみ続けた彼女が出した結論。それを今日知り合ったばかりの人……しかも男である僕が否定していい物ではないし否定すれば彼女はきっと僕に対して心を閉ざしてしまう。それは現段階で一番してはいけない事だ。
かといってこのまま彼女のこの考えを放置するつもりはない。
ゆっくりと、ゆっくりと時間をかけ、彼女と信頼関係を築き、傷つきぐちゃぐちゃになってしまった彼女の気持ちという名の紐を結び解いてから僕はこの質問を再び彼女に投げかける。きっとその時には彼女の答えも変わっていると信じているから。
「金剛さんは本当に変な人です……」
「そ、そう?」
「はい。普通の人は私なんかと関わろうとしませんし、何よりここまで真摯に向かいあってくれませんでした……」
星野さんのその言葉を聞いて僕の胸は痛み、悲しい気持ちになった。
僕には咲夜という真摯に向き合い、思い続けてくれる人がいた。でも彼女にはそのような人物は、今までいなかったのだ。
それはどれ程辛い事で、悲しい事なのかは僕は想像もできない。けれど今日僕と星野さんは関わりを持った。
彼女の境遇を、気持ちをしり、触れ合った。そんな僕だけは彼女の味方でなければならないのだ。
「星野さんってスマホって持っている?」
「スマホ……? あ、これのことですか?」
星野さんがそう言ってカバンから取り出したのは、案の定というか、やっぱりというかガラケーだった。
「あ、うん。何となく想像してたよ……」
「え、これじゃなかったのですか……?」
「いや、まあ半分あっていて、半分不正解かな」
「うう……すみません」
「いや、別に謝る様な事じゃないから。それよりも星野さん。僕と連絡先、交換しない?」
この先星野さんと関わっていく上で、連絡先の交換は必須事項。でもそれは同時に咲夜にバレる可能性もある。でもそのような事関係ない。
だって僕は今日の出来事を咲夜に包み隠さず話す事を決めたのだから。
「連絡先……ふえ!? え!? え!?」
「もしかして嫌だった? 嫌なら……」
「いいえ‼ しましょう‼ 連絡先の交換‼」
「あ、うん……」
星野さんは僕と連絡先の交換を終えると何故かジッと画面を見つめていた。そこに注目するのならもう少し僕の持つスマホに興味を示して欲しかった。
「あ、あの‼ よ、夜とかに電話をかけてもよろしいのでしょうか?」
「いいよ~」
「ひ、昼でも?」
「いいけど平日は止めてね?」
「あ、朝は......」
「早朝とかじゃなければ......」
「わ、わかりました‼ それじゃあさよなら‼」
「え、あ、ちょ……」
星野さんは僕の静止の呼び声もきかず一目散に駆けだし、あっという間に見えなくなってしまった。
「ぼ、僕の上着ぃ……」
「星野さんってどうして今日の合コンに参加したの?」
僕は今日、星野さんの人柄を知り、彼女がそう言った人の集まる場が苦手な人間ということはよくわかった。だからこそ彼女が、今日あのような場にいるのは不可思議であり、僕は先程からずっとその事が気になっていた。
「え、えと……それは……」
星野さんは目をどこか気まずい様子で俯いている。どうやら彼女にとってその質問は、答えることができないような内容だったらしい。
「ごめん。今のは忘れて?」
「……すみません」
「謝らないの。人間誰しも秘密にしておきたいことの一つや二つあるんだから一々それに謝っていたってしょうがないよ?」
特に僕なんかは今日、彼女と遊んだ事も人には言えない。もし言おうものならば確実に咲夜にバレる。
「金剛さんにもあるのですか……?」
「そりゃあ勿論あるよ。僕だって人間だしね。それとも何? 星野さんは僕の事を人間と思ってなかったりするの?」
「いいえ‼ そんなことは断じて思っていませんわ‼」
「お、おう……」
「あ、あう。す、すみません……」
「…………………………」
星野さんのテンションの上下は本当に激しい。きっとそれは彼女の心のバランスがうまく取れていないから。だからこそ感情の制御もうまくできないのだろう。
「金剛さん……?」
「ん? どうかした?」
「金剛さんは恋ってどういう物だと思いますか……?」
「恋……か。中々難しい質問だね」
僕は今まさしく咲夜に恋をしている。彼女の事を思うだけで胸があったかくなるし、振られたときの事を想像すると胸が痛くなる。甘さと辛さ。その二つのバランスが絶妙にかみ合ったもの、それを僕は恋なのではないかと考えている。
「恋とは美しくて、綺麗でありながらもそれとは真逆の側面……残酷性をもっているもの……」
「それが金剛さんの答え……なのですか?」
「そうだよ」
この言葉に嘘は一切ない。美しい物には棘がある。それは恋も同じで、近づこうとしても棘があってうまく近づけない。でもその棘を気にせず、痛みに堪え、突き進んだものにこそ、報酬は与えられる。遠くから見ているだけでは思いは伝わらない。直接動かないと何事も欲しいものは、手に入らないのだ。
僕のそんな思いを聞いた星野さんはどこか難しい顔をしていた。
「もしかして納得できない?」
「いえ……理屈の上では……納得できます」
理屈の上では納得できる……それはつまるところ全く納得できていないというわけで、僕はつい失笑してしまった。
これでも自分なりには精一杯伝えたつもりだった。でも星野さんは納得してはくれなかった。その事が少し悲しかった。
「そういう星野さんはどうなの?」
「私……ですか? 私は……」
星野さんの瞳はどこか不安げに揺れていた。いや、それだけではない。彼女の瞳にはわずかに憎悪の色が見て取れた。
「私は恋が嫌いですわ。いいえ。嫌いでは足りません。大嫌いです。死ぬほど嫌いです。私は恋という物が……人が人を好きになるという行為が大嫌いですわ……」
「……そっか」
星野さんの心に蝕む何かをこの時僕はかすかに掴めた気がした。
「否定……なさらないのですね……」
「勿論」
星野さんの考えは明らかに間違っている。でもそれは今言うべきことではない。何せこれは苦しみ続けた彼女が出した結論。それを今日知り合ったばかりの人……しかも男である僕が否定していい物ではないし否定すれば彼女はきっと僕に対して心を閉ざしてしまう。それは現段階で一番してはいけない事だ。
かといってこのまま彼女のこの考えを放置するつもりはない。
ゆっくりと、ゆっくりと時間をかけ、彼女と信頼関係を築き、傷つきぐちゃぐちゃになってしまった彼女の気持ちという名の紐を結び解いてから僕はこの質問を再び彼女に投げかける。きっとその時には彼女の答えも変わっていると信じているから。
「金剛さんは本当に変な人です……」
「そ、そう?」
「はい。普通の人は私なんかと関わろうとしませんし、何よりここまで真摯に向かいあってくれませんでした……」
星野さんのその言葉を聞いて僕の胸は痛み、悲しい気持ちになった。
僕には咲夜という真摯に向き合い、思い続けてくれる人がいた。でも彼女にはそのような人物は、今までいなかったのだ。
それはどれ程辛い事で、悲しい事なのかは僕は想像もできない。けれど今日僕と星野さんは関わりを持った。
彼女の境遇を、気持ちをしり、触れ合った。そんな僕だけは彼女の味方でなければならないのだ。
「星野さんってスマホって持っている?」
「スマホ……? あ、これのことですか?」
星野さんがそう言ってカバンから取り出したのは、案の定というか、やっぱりというかガラケーだった。
「あ、うん。何となく想像してたよ……」
「え、これじゃなかったのですか……?」
「いや、まあ半分あっていて、半分不正解かな」
「うう……すみません」
「いや、別に謝る様な事じゃないから。それよりも星野さん。僕と連絡先、交換しない?」
この先星野さんと関わっていく上で、連絡先の交換は必須事項。でもそれは同時に咲夜にバレる可能性もある。でもそのような事関係ない。
だって僕は今日の出来事を咲夜に包み隠さず話す事を決めたのだから。
「連絡先……ふえ!? え!? え!?」
「もしかして嫌だった? 嫌なら……」
「いいえ‼ しましょう‼ 連絡先の交換‼」
「あ、うん……」
星野さんは僕と連絡先の交換を終えると何故かジッと画面を見つめていた。そこに注目するのならもう少し僕の持つスマホに興味を示して欲しかった。
「あ、あの‼ よ、夜とかに電話をかけてもよろしいのでしょうか?」
「いいよ~」
「ひ、昼でも?」
「いいけど平日は止めてね?」
「あ、朝は......」
「早朝とかじゃなければ......」
「わ、わかりました‼ それじゃあさよなら‼」
「え、あ、ちょ……」
星野さんは僕の静止の呼び声もきかず一目散に駆けだし、あっという間に見えなくなってしまった。
「ぼ、僕の上着ぃ……」
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