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第二幕

愚痴と幼馴染

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「大体まーくんはおかしいよ‼ 目の前のこんなに可愛くて、一途で、健気で、エッチなこともOKって言っている幼馴染がいるのになんで手をだしてくれないの!?」
「自分で可愛いっていうんだ……」
「いうよ‼ 私、自分で言うのはなんだけど容姿には凄く自信あるし、努力もしているもん‼」
「それは……そうだな」

 咲夜の自信の容姿に対する情熱は、近くでずっと見ている僕からすればよくわかるし、彼女の部屋の中を見てもそれは見て取れる。何せ部屋の本棚には、女性用雑誌がびっしり埋まっており、隣においてある漫画やラノベの本を足してもその数には遠く及ばない。

 凄いのは女性用雑誌の数だけではない。化粧品の数だって恐ろしい数あり、数えるだけで何時間もとられてしまいそうだ。

「なあ。咲夜が容姿にこだわるのってやっぱり僕の……為だよね?」
「何を当たり前の事聞いているの‼ 逆にそれ以外何か理由あると思うの‼」
「い、いいえ」

 今日の咲夜は珍しく怒っている様に見える。それだけ僕に対して不満が溜まっていたのだろう。でもそれも仕方がない。咲夜はこれだけ色々頑張っていたのに、僕は全く気が付いていなかったのだ。それに怒るなというほうが無理だし、それで咲夜の機嫌が治るなら安いものだ。

「まーくん。なんでニヤニヤしているの?   私今怒っているんだよ?」
「ん? いや、何。僕は咲夜からすごく愛されているな~って思ってさ」
「はう……‼」
「咲夜……?」
「まーくんのそういう所‼ 本当によくないと思うな‼」
「ええと……僕何かしたっけ?」
「うう‼ そのセリフムカつくぅ‼ まーくんの事大好きなのは変わらないけどそのセリフはなんかムカつく‼」

 咲夜は地団駄を踏み、可愛らしく、ぷりぷりと怒っている。そんな時でも僕の事をさりげなく好きと言っているあたり、彼女の気持ちは彼女の心の奥底にまで染みついているのだろう。

 ただここまでくると逆に咲夜の愛の深さが怖い。そもそもの話僕は咲夜に好かれるような事をした記憶はまるでないのだ。

「なあ咲夜」
「何!?」
「咲夜って僕の何処が好きなんだ……?」
「ん? 急にどうしてそんな事聞くの?」
「いや、何となく。咲夜の愛って正直重いからさ」
「え……お、重い……かな……?」
「うん。重い。それになんだか最近の咲夜。先輩に似てきてる気がする」
「それだけは冗談でも止めて」

 マジなトーンで、真顔でそういう咲夜。それだけ先輩の事が嫌いなのだろう。咲夜が先輩を嫌う気持ちは何となくわかるが、もあるだろう。

「ごめん。ごめん。それで結局どうなんだ? 僕の何処が好きなんだ?」
「あう……ええと……そ、それは……って言えないよ‼ そんな事‼」

 咲夜は近くにあったペンギンのぬいぐるみを僕目掛け思い切り投擲する。咲夜は勉強だけでなくて、運動もできる。というか運動の方が勉強よりも出来がいい。中学時代はそれこそありとあらゆる運動部に所属しており、多くの記録を打ち立てていた。そんな彼女の投げるぬいぐるみを万年帰宅部の僕が避けれるはずもなく、見事顔面にクリーンヒットする。

「咲夜、痛い」
「え、あ、ご、ごめん‼ つい勢いで……」

 人形の中身は綿とは言え、痛い物は痛い。無論人から殴られるよりは、遥かにマシではあるのだが。

「まあ今のは僕が悪かったかもな。誰だって恥ずかしいこともあるし」
「ううん。私が悪いよ……いつもまーくんに散々暴力を振るってはダメって言ってるのにその私が暴力を振るっちゃって……」
「いや、いいって。それにあんなの暴力の内に入らないさ。ただのじゃれ合いだよ。じゃれ合い。それにこんなやり取り昔はよくしただろう?」
「そう言えば……そうだね。ふふふ」
「お、やっと笑ったな」
「え……」
「咲夜。最初の時以外ずっと笑わなかったからな。でも……うん。やっぱり咲夜は笑顔が一番可愛いな。それこそ笑顔の咲夜は世界で一番可愛いんじゃないか?」
「あうぅ……だ、だからそういう所だよ……むぅ……」

 咲夜は怒ったような素振りを見せるがその口元はニヤついており、喜びの感情を全くと言っていいほど隠せていなかった。

「本当に、本当に、まーくんは、もう、もう、もう、なんだから」
「はい、はい」

 咲夜が何を言いたいのか全然わからない。でも咲夜の機嫌は先程とは打って変わってとてもよくなっていたので、僕としてはそんな彼女の姿を見れるだけでとても幸せだった。
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