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18 第二王女とシュレイクとのダイエットの成果
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そんなわけで特別健康管理官となった私の日々は屋敷と王城の往来だった。
第二王女とシュレイクとのダイエットは順調だったので簡単に書いておく。
最初の一週間は同じ食材をあの手この手で食べていたようで、慣れたら質素な食事を毎食続けることに抵抗がなくなって行った。間食もちゃんとしなくなり、侍女たちが甘やかそうとするのを、なんだかんだ優しいセルゲウス様の使いの者が止めて一切許さなかったそうだ。ナイスサポートです。
一週間後、寸胴鍋いっぱいに煮込んだ保存の効く野菜スープを持って王城にあがり、必ず火を通して水を増し、テーブルソルトでの味付けは王女の好きにさせて調理場では手を加えないようにして質素な食事と一緒に食べさせた。
質素な食事は筋肉作りのため、スープは栄養補給と体の中にため込んだ毒素を排出する秘伝のスープである。
私は子供のころから馬と遊ぶのが大好きだったので太った事はないが、母は嫁に来た身である。馬相手の仕事をする父親との食事は、あっという間に母をぶくぶくにした。その時に研究して作り上げた母直伝のダイエットスープだ。
で、素直な王女様は言いつけを守り、朝早くにシュレイクの藁を変え、厩番に教わった通りに手綱を握ってシュレイクと散歩に出たらしい。いきなり走ったりすれば運動は嫌にもなるだろうが、馬の歩調に合わせて(シュレイクの場合は王女の歩幅に合わせたようだ、余程気に入っているのだろう)のんびり歩く。それも長い距離を、庭という変化のある場所を。
これは飽きずに続いたらしい。朝は散歩をして飼葉と水を与え、昼も飼葉と水を与え、夕方にまた藁を変えて散歩に行き飼葉と水を与え、と献身的に世話をしたそうだ。
藁を変えるのは道具を使っても全身運動だし、3日程は筋肉痛で唸っていたそうだが、シュレイクが待っている、と思うとそれも我慢できたらしい。食事と全身運動の効果は目覚ましく、一週間後に伺った時には既に多少スッキリとされていた。
それに、姿勢が良くなっている。シュレイクと並んでいると、なんだか自然と顔が上向くそうだ。きっと、シュレイクが気にして王女の方を見るからだろう。
一か月後の夏真っ盛りの頃に、私はやっと乗馬の指導を始めた。今の王女ならば馬に乗せるのに何も怖い事は無い。
「いいですか。落馬したら大きな声をあげたりせずに、地面を転がってください。シュレイクはいい子ですが、王女とシュレイクは別の生き物です。シュレイクは王女の悲鳴をきいたら暴れてしまう事もあります。大丈夫、ちゃんと転がれば怪我はしませんし、静かにしていればシュレイクが興奮して蹴る事もありません。これだけは絶対約束ですよ」
「わ、わかったわ」
「厩のお世話もちゃんとされていたから、後ろに立っても大丈夫そうですね。王女とシュレイクの距離が近いのは良く分かります。随分仲良くなられましたね」
「そうなの! シュレイクは散歩中も私の事をよく見てくるのよ、可愛いわ」
「あら、本当にお気に入りなのですね。鞍を乗せた事が無い訳ではないようですので、鞍を乗せる所からやりましょうか」
「えぇ、わかったわ」
そうして、シュレイクに鞍を乗せ、馬具の装着を王女が覚えるだけで午前中が過ぎた。一度馬具を外して、一緒にお昼を食べる。王女と同じメニューでいいわ、と言って出て来たものを食べたが、本当に約束通りの食事を続けているようだ。
「なんだかね、美味しくなってきたの。あと、時々ハーブやレモンがかかっていて、それで飽きずに続けられているのよ」
「厨房の方々もいい方々ですね。体にもいいです」
私も美味しく食べさせてもらった。王都に来るまでの間は私にとっては戦場に向かうのと変わらなかったので干し肉を齧っていたりしたくらいだ。これは充分豪華な食事である。
そして午後、馬具の付け方をマスターした王女を乗せてシュレイクが乗馬場を歩きまわる。少し走らせたりしながら、王女とシュレイクの仲の良さに目を細めたりして。
その後は乗馬は1日1回、もう1回は散歩にする事と、食事と厩の世話を指導して、たまに様子を見にいき、冬場も王女は寒い中頑張ったらしい。
春には、王城の技術で日焼けのケアが万全だったからか、色白で、健康的な普通体型の、顔立ちはもともとはっきりしていたので可愛らしい青い瞳の第二王女様に変身していた。
……長い、長い戦いだった。ワガママじゃなくて本当によかった。シュレイク、ありがとう。セルゲウス様ありがとう。
でも一番は、フレデリカ王女、あなたが頑張りました。ありがとう。
第二王女とシュレイクとのダイエットは順調だったので簡単に書いておく。
最初の一週間は同じ食材をあの手この手で食べていたようで、慣れたら質素な食事を毎食続けることに抵抗がなくなって行った。間食もちゃんとしなくなり、侍女たちが甘やかそうとするのを、なんだかんだ優しいセルゲウス様の使いの者が止めて一切許さなかったそうだ。ナイスサポートです。
一週間後、寸胴鍋いっぱいに煮込んだ保存の効く野菜スープを持って王城にあがり、必ず火を通して水を増し、テーブルソルトでの味付けは王女の好きにさせて調理場では手を加えないようにして質素な食事と一緒に食べさせた。
質素な食事は筋肉作りのため、スープは栄養補給と体の中にため込んだ毒素を排出する秘伝のスープである。
私は子供のころから馬と遊ぶのが大好きだったので太った事はないが、母は嫁に来た身である。馬相手の仕事をする父親との食事は、あっという間に母をぶくぶくにした。その時に研究して作り上げた母直伝のダイエットスープだ。
で、素直な王女様は言いつけを守り、朝早くにシュレイクの藁を変え、厩番に教わった通りに手綱を握ってシュレイクと散歩に出たらしい。いきなり走ったりすれば運動は嫌にもなるだろうが、馬の歩調に合わせて(シュレイクの場合は王女の歩幅に合わせたようだ、余程気に入っているのだろう)のんびり歩く。それも長い距離を、庭という変化のある場所を。
これは飽きずに続いたらしい。朝は散歩をして飼葉と水を与え、昼も飼葉と水を与え、夕方にまた藁を変えて散歩に行き飼葉と水を与え、と献身的に世話をしたそうだ。
藁を変えるのは道具を使っても全身運動だし、3日程は筋肉痛で唸っていたそうだが、シュレイクが待っている、と思うとそれも我慢できたらしい。食事と全身運動の効果は目覚ましく、一週間後に伺った時には既に多少スッキリとされていた。
それに、姿勢が良くなっている。シュレイクと並んでいると、なんだか自然と顔が上向くそうだ。きっと、シュレイクが気にして王女の方を見るからだろう。
一か月後の夏真っ盛りの頃に、私はやっと乗馬の指導を始めた。今の王女ならば馬に乗せるのに何も怖い事は無い。
「いいですか。落馬したら大きな声をあげたりせずに、地面を転がってください。シュレイクはいい子ですが、王女とシュレイクは別の生き物です。シュレイクは王女の悲鳴をきいたら暴れてしまう事もあります。大丈夫、ちゃんと転がれば怪我はしませんし、静かにしていればシュレイクが興奮して蹴る事もありません。これだけは絶対約束ですよ」
「わ、わかったわ」
「厩のお世話もちゃんとされていたから、後ろに立っても大丈夫そうですね。王女とシュレイクの距離が近いのは良く分かります。随分仲良くなられましたね」
「そうなの! シュレイクは散歩中も私の事をよく見てくるのよ、可愛いわ」
「あら、本当にお気に入りなのですね。鞍を乗せた事が無い訳ではないようですので、鞍を乗せる所からやりましょうか」
「えぇ、わかったわ」
そうして、シュレイクに鞍を乗せ、馬具の装着を王女が覚えるだけで午前中が過ぎた。一度馬具を外して、一緒にお昼を食べる。王女と同じメニューでいいわ、と言って出て来たものを食べたが、本当に約束通りの食事を続けているようだ。
「なんだかね、美味しくなってきたの。あと、時々ハーブやレモンがかかっていて、それで飽きずに続けられているのよ」
「厨房の方々もいい方々ですね。体にもいいです」
私も美味しく食べさせてもらった。王都に来るまでの間は私にとっては戦場に向かうのと変わらなかったので干し肉を齧っていたりしたくらいだ。これは充分豪華な食事である。
そして午後、馬具の付け方をマスターした王女を乗せてシュレイクが乗馬場を歩きまわる。少し走らせたりしながら、王女とシュレイクの仲の良さに目を細めたりして。
その後は乗馬は1日1回、もう1回は散歩にする事と、食事と厩の世話を指導して、たまに様子を見にいき、冬場も王女は寒い中頑張ったらしい。
春には、王城の技術で日焼けのケアが万全だったからか、色白で、健康的な普通体型の、顔立ちはもともとはっきりしていたので可愛らしい青い瞳の第二王女様に変身していた。
……長い、長い戦いだった。ワガママじゃなくて本当によかった。シュレイク、ありがとう。セルゲウス様ありがとう。
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