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16 やっとの話し合い
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「落ち着かれましたか?」
何故、紳士であるはずのセルゲウス様ではなく私がフレデリカ王女にハンカチを差し出し、椅子に座らせているのだろう。その後も宥めるように猫背の背を撫で、しゃくりあげるだけになった彼女に心配そうに声をかけた。
ハンカチはもう使い物にならないだろう位いろんなものでぐしゃぐしゃなので、そのまま捨てて貰おう。返されても非常に取り扱いに困る。
「……ありがと。落ち着いたわ」
私とフレデリカ王女は隣同士に座り、向かいに厳しいというか、冷たい表情のセルゲウス様が座ってお茶を飲んでいる。
彼は分かっていたのだ。怪物姫のあだ名が何故第二王女から、そんなに具体的に流れたのか。
全てはフレデリカ王女のコンプレックスと、振られた悔しさからくるもの。
自分の事を私に置き換えて噂を流し、自分の周りには話を聞く侍女や行儀見習いの令嬢がいる事で悦に入っていた。噂が流れれば、セルゲウス様も、少しはマシ、な自分を選ぶに違いない、と。
「……フレデリカ王女。貴女の事を思うからこそはっきり申し上げます。痩せましょう」
「うっ……。運動、楽しく無いんだもの……走ったりすると、膝も痛いし、呼吸も苦しいし……」
「食事については私が最適なメニューを考えましょう。野菜だけ食べればいいとか、量を減らせばいいという物では無いですから、きっと満足な食事ができます。ですが、運動はフレデリカ王女にしていただかなければなりません」
食事については、肉と卵とチーズを中心にメニューを作ればいい。太っているのが過食ならば、充分食べて貰って構わない。ただし、暫くお菓子やパンは避けてもらうけれど。あとは秘伝の野菜スープでバランスを取ればいい。
脂肪は肌を浅黒く見せる部分がある。人それぞれのようだが、フレデリカ王女は色素が薄い方なのでこの肌の浅黒さは太っている事に起因しているのだろう。
「乗馬はとってもいい運動なんです。今から一緒に厩に行ってみませんか? 馬は賢い、人の友です。フレデリカ王女を乗せて走ってくれる子がいないか、一緒に選びましょう」
「…………私が乗ったら馬がつぶれるって……」
「そんなことを言われたのですか? 大きな誤解です。馬は力持ちなんですよ」
「本当……?」
「本当です。それにですね、フレデリカ王女。短い付き合いですが、セルゲウス様はお勧めしません。この方はこれと決めたら徹底します。貴女に対しても家臣として当たり前の忠言をしたと思っていますが、余りにも思い遣りがない。貴女は王女で、これから諸外国の方々とお付き合いをしていくのです。その旦那となるには、少々不適当かと」
そこはセルゲウス様も自覚があるようなので、黙って聞いていた。
「……でも、セルゲウス様は貴女と結婚するのでしょう?」
「そうです。私は辺境伯として、彼は公爵として、立場はそのままに結婚する予定です。ですが、結婚したら今後もう少し社交的になってもらわないと困るので、そこは私も彼に厳しくいきますよ」
セルゲウス様の片眉があがる。聞いてない、という風だが、私には甘いのでどうせ聞き入れてくれるだろう。
「大丈夫です。フレデリカ王女はすぐに綺麗になられます。急に痩せると皮が余ってしまうので、少しずつですけれどね」
「…………バーバレラ、私は貴女の事を誤解していたわ。私が痩せるまで……お願いよ、王都に留まって頂戴」
私の手を丸っこい両手で握って真剣に見詰めて来る。
素直な性質のようでよかった。馬の中には本当に力持ちで、フレデリカ王女を乗せる事ができる馬は当然いる。
ここまできたら、もうやけくそである。かなりふくよかだが、秋には少しふくよか、春の社交シーズンが一番活発になる頃には普通体型まで落とせるかもしれない。
特別健康指導官という役職を与えられた私は、フレデリカ王女の元で働く事になった。
何故、紳士であるはずのセルゲウス様ではなく私がフレデリカ王女にハンカチを差し出し、椅子に座らせているのだろう。その後も宥めるように猫背の背を撫で、しゃくりあげるだけになった彼女に心配そうに声をかけた。
ハンカチはもう使い物にならないだろう位いろんなものでぐしゃぐしゃなので、そのまま捨てて貰おう。返されても非常に取り扱いに困る。
「……ありがと。落ち着いたわ」
私とフレデリカ王女は隣同士に座り、向かいに厳しいというか、冷たい表情のセルゲウス様が座ってお茶を飲んでいる。
彼は分かっていたのだ。怪物姫のあだ名が何故第二王女から、そんなに具体的に流れたのか。
全てはフレデリカ王女のコンプレックスと、振られた悔しさからくるもの。
自分の事を私に置き換えて噂を流し、自分の周りには話を聞く侍女や行儀見習いの令嬢がいる事で悦に入っていた。噂が流れれば、セルゲウス様も、少しはマシ、な自分を選ぶに違いない、と。
「……フレデリカ王女。貴女の事を思うからこそはっきり申し上げます。痩せましょう」
「うっ……。運動、楽しく無いんだもの……走ったりすると、膝も痛いし、呼吸も苦しいし……」
「食事については私が最適なメニューを考えましょう。野菜だけ食べればいいとか、量を減らせばいいという物では無いですから、きっと満足な食事ができます。ですが、運動はフレデリカ王女にしていただかなければなりません」
食事については、肉と卵とチーズを中心にメニューを作ればいい。太っているのが過食ならば、充分食べて貰って構わない。ただし、暫くお菓子やパンは避けてもらうけれど。あとは秘伝の野菜スープでバランスを取ればいい。
脂肪は肌を浅黒く見せる部分がある。人それぞれのようだが、フレデリカ王女は色素が薄い方なのでこの肌の浅黒さは太っている事に起因しているのだろう。
「乗馬はとってもいい運動なんです。今から一緒に厩に行ってみませんか? 馬は賢い、人の友です。フレデリカ王女を乗せて走ってくれる子がいないか、一緒に選びましょう」
「…………私が乗ったら馬がつぶれるって……」
「そんなことを言われたのですか? 大きな誤解です。馬は力持ちなんですよ」
「本当……?」
「本当です。それにですね、フレデリカ王女。短い付き合いですが、セルゲウス様はお勧めしません。この方はこれと決めたら徹底します。貴女に対しても家臣として当たり前の忠言をしたと思っていますが、余りにも思い遣りがない。貴女は王女で、これから諸外国の方々とお付き合いをしていくのです。その旦那となるには、少々不適当かと」
そこはセルゲウス様も自覚があるようなので、黙って聞いていた。
「……でも、セルゲウス様は貴女と結婚するのでしょう?」
「そうです。私は辺境伯として、彼は公爵として、立場はそのままに結婚する予定です。ですが、結婚したら今後もう少し社交的になってもらわないと困るので、そこは私も彼に厳しくいきますよ」
セルゲウス様の片眉があがる。聞いてない、という風だが、私には甘いのでどうせ聞き入れてくれるだろう。
「大丈夫です。フレデリカ王女はすぐに綺麗になられます。急に痩せると皮が余ってしまうので、少しずつですけれどね」
「…………バーバレラ、私は貴女の事を誤解していたわ。私が痩せるまで……お願いよ、王都に留まって頂戴」
私の手を丸っこい両手で握って真剣に見詰めて来る。
素直な性質のようでよかった。馬の中には本当に力持ちで、フレデリカ王女を乗せる事ができる馬は当然いる。
ここまできたら、もうやけくそである。かなりふくよかだが、秋には少しふくよか、春の社交シーズンが一番活発になる頃には普通体型まで落とせるかもしれない。
特別健康指導官という役職を与えられた私は、フレデリカ王女の元で働く事になった。
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