【完結】辺境伯令嬢は国境で騎士領主になりたいのに!

葉桜鹿乃

文字の大きさ
上 下
12 / 23

12 社交性の死んでないセルゲウス様

しおりを挟む
 お茶会が終わって、人の姿が消えたサロンのソファに座って、ずっと緊張していた肩を軽く動かしてから背もたれに身体を預けた。

 ハーティス伯爵令息は今回のお茶会で私の事は諦めるだろう。彼が自分で「噂を広めた」と言ってくれたので、今回「噂好き」な令嬢を集めたこのお茶会ですっかり私の評判は変わるだろうし、ハーティス伯爵令息の評価も変わるに違いない。だって、同じ社交界の「噂好き」の人に私はその姿で、ハーティス伯爵令息はお隣の領地なのに憶測で噂を流したのだから。

 そんな嘘吐きな男など、誰も婿に欲しい訳がない。そのまま独身で実家の片隅で静かに余生を暮らして欲しい。あんなモラハラ男を婿に迎え入れた家なんて苦労するに決まっている。

 私自身の噂が流れたのは私のせいだから仕方がない。領地に籠っていたのだから。けれど、自分の結婚を盤石のものにするために悪い噂を流すような真似をする馬鹿と結婚する気はない。

「お疲れ様でした、バーバレラ嬢」

「セルゲウス様。こちらこそ、本日はご協力くださりありがとうございました」

 私の頬に当たるように冷えたアイスティーのグラスを持ってきてくれたのは、最後まで残ってくれたセルゲウス様だった。

 隣に座って、彼もアイスティーを飲む。

「協力? 私は、君の王子様になりたくて頑張ったからね。やっとその一歩がかなって嬉しいよ。……断るつもりだった婚約も、少しは前向きに考えてくれている、と思っていいのかな?」

 笑いを含んだ声で尋ねられる。

 今日一日彼を見ていて分かったが、彼は本当に、徹底的に、他の令嬢に対して冷たいし毒舌だった。特に、色気を見せて来るような相手には。

 それが小さいころから聞いていて、姿も知らない『婚約者』の私のためだというのだから……徹底にも程がある。公務に支障は無いのだろうかと心配になる程だ。

 セルゲウス様にそれを聞いても、きょとんとされてしまう。

「だって、私は君と結婚したかったし、その約束だし、他の女性に気を持たせても仕方ないだろう? すっぱり振ってあげた方がいいだろうし、憎まれ役になった方が女性もスッキリするだろう」

「……セルゲウス様は本当にお優しいのに、徹底しすぎて裏目に出るタイプなんですね」

「他の令嬢の評判なんてどうでもいいよ。君以外にはどう思われていても、どうでもいい」

 そう言って美しい顔で微笑んでくる。優しい、紳士、それでいて眉目秀麗で文武両道で、私が辺境伯で自分が公爵のまま結婚しようと当たり前のように言ってくれる。

 私なんて、ちょうど隣の領で次男坊が余ってるみたいだからくっつけばいいやあっはっは、という適当さだったのに、親の酒の席での契約書一枚で真剣すぎないかな……?!

 なんだか自分がとんでもない悪人になった気分で、少しだけ意気消沈してしまった。両手にグラスをもって、中の氷をカランと転がす。

「……私、とても嫌な女かもしれませんよ」

「少なくとも私の目の前にいる君は、怪物でもなければ、理知的で優しく賢い人だけれど?」

「でも……」

「知らなかった事を責める気は無い。バーバレラ嬢、私にも秘密がある。今度、ゆっくり婚約の話をしよう。今日は本当にお疲れ様」

 私が言い募ろうとしたところで、労わるように笑ったセルゲウス様が立ち上がり、そっと髪型が崩れないように頭を撫でて帰って行った。

「…………ずるいわ」

 急速に、好きになってしまう。最悪夫は添え物でいい、と思っていた将来に、セルゲウス様が居て欲しいと思ってしまう。

 ソファのクッションを抱えて、私は赤い顔を埋めた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。 孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...