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9 文武両道眉目秀麗、社交性が……生きてる?!
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「お待たせいたしました、ドミニク辺境伯令嬢様。主人がお会いになるそうです」
「いえ、突然の訪問なのにごめんなさいね。案内してくださる?」
「こちらにご用意しております」
そういって、身形も動きも完璧な老齢の執事が私を案内したのは、気持ちの良い風の入るサロンだった。
部屋の窓は全開にして初夏の風を中に取り込んでいるので暑さは感じない。訪問だからとドレスを着てきたが、それに配慮してだろうか。冷たいアイスティーの入った大きなガラスのポットと、グラスが二つ。それに茶菓子が所狭しと並んだテーブルの横に、はにかむような微笑を浮かべた青年が立っていた。
はて、私が訪れたのは眉目秀麗文武両道社交性は死んでいて毒舌冷徹極まりないセルゲウス・ユージーン公爵のはずだが……?
風に揺れる銀の髪はサラサラと重さを感じさせず、清潔に切りそろえられている。アメジストの瞳が白い肌と銀の髪に映えて綺麗だ。顔の造作も、女の私が負けたと思う程美しいのに、しっかりと男性の顔、男性の身体をしている。
背が高く、足が長い。いつまで見ていても飽きない美丈夫だが、仕事の邪魔をして突然の訪問をしてしまったのだ。はっとして挨拶をした。
「本日は、突然お邪魔してしまい申し訳ございません。バーバレラ・ドミニクと申します。ユージーン公爵のお噂はかねがね窺っております」
「バーバレラ……嬢。あぁ、すまない。ずっと……小さいころから、どんな人が私のお姫様なのかと楽しみにしていて。名前だけは知っていたものだから……こんなに美しいお姫様だとは思わなくて。はじめまして、私の事はどうか、セルゲウスと」
私のお姫様……? それに、毒舌も飛んでこなければ、どちらかといえば優しいしずっと微笑んでいるし嬉しそうだし前評判と随分違う……。
上げてから落とすタイプなのかな? と思いながら顔を上げて彼に近付くと、すっと私の為に椅子を引いてくれた。
さてはこのまま床に尻もちをつかされるのか?! と、重い空気椅子で自分で椅子を寄せようと思ったら、普通に着席させられた。驚いて振り返ると、微笑んで首を傾げている。
し、紳士……。普通に紳士だ。この部屋にはあらかじめお願いしていたので私とセルゲウス様しかいない。誰かの目があってやっている行動ではない。
目の前に彼が座って、お茶を飲みながらどう会話を切り出そうかと思っていた。
「そういえば、お茶会への招待ありがとう。君が初めて開催するお茶会に参加できるなんて嬉しいよ」
「いえ、その……お恥ずかしながら知人が居らず、その……父に契約の事を聞いて、王都に来たもので」
私の歯切れの悪い言葉と申し訳なさそうな雰囲気を察して、セルゲウス様は少し顔を曇らせた。
「あの……、もしかしてだけど、君は契約を知らずに、育ったのかい?」
「はい、先日知りまして……。私の夢は辺境伯を継ぎ、国境の守りとして騎士領主となる事なのです」
「そうか……、そうなると……」
セルゲウス様が難しい顔で口元に手を当てて顔を逸らされた。
あぁ、お茶会で一芝居打ってもらうお話はできそうもない。きっと出席を断られるに違いない。
「子供は後継ぎが2人欲しいよね……公爵家と辺境伯家の。女の子が一人いたらお嫁さんになりたいと言い出すかもしれないから、3人は必要かな……?」
斜め上の発言に危うくお茶を噴き出しかけた。堪えて横を向いてむせてしまう。
「あの……公爵家の嫁になれ、とか言うおつもりは……?」
「高位貴族がいくつも爵位を持っているのなんて普通の事だろう? 君が辺境伯を継ぎたいのなら、それでいいじゃないか。それに、姿勢を見ていれば鍛えている事は分かるよ」
優しく微笑みながらさらっと、だから問題ないよね、と頭から結婚する事だけは信じて疑っていない。
私は辺境伯で、この方が公爵で、そのまま結婚していい、のなら……確かに、何も問題はない。まるめこまれているような気さえしてくるが、この人の言う事は何もおかしくない。
それに、私を尊重してくれている。私はこの人と会話をする前に、公爵家に嫁入りは無理だ、と頭から決めてかかっていたのに。
「……私、セルゲウス様の事を誤解しておりました。申し訳ございません」
「あぁ……知っているよ。なんだっけ、眉目秀麗文武両道、社交性が死んでいて毒舌、みたいな噂だろう? 別に間違っていないよ、私は小さな頃から君以外になびく気がなかったから」
「……私が噂通りの『怪物姫』だったらどうなさるおつもりだったのです?」
「一緒にダイエットして、お化粧の練習をして、自信を持ってもらえばいいかなぁって」
このおおらかに微笑みながら前向きで甘い言葉を吐いてくるのが、あの、セルゲウス・ユージーン公爵だというのだろうか。
公爵家の嫁に専念しろとも言わず、辺境伯と公爵として結婚しよう、後継ぎはこうしよう、などとするすると言ってくる、ちょっとおかしい提案をしてくる方。
昨日、男尊女卑の見本のような男性と話したせいか、セルゲウス様の当たり前に私を尊重してくれる態度がありがたい。それに、嬉しい。
噂なんてアテにならないな、と思いながら、私はセルゲウス様にすっかり心を許して笑うと、お茶会の日にお願いしたい事などを話し始めた。
この方と結婚するのは、悪くないどころか、最高だ、と思う。少なくとも、第一印象は最高だ。
「いえ、突然の訪問なのにごめんなさいね。案内してくださる?」
「こちらにご用意しております」
そういって、身形も動きも完璧な老齢の執事が私を案内したのは、気持ちの良い風の入るサロンだった。
部屋の窓は全開にして初夏の風を中に取り込んでいるので暑さは感じない。訪問だからとドレスを着てきたが、それに配慮してだろうか。冷たいアイスティーの入った大きなガラスのポットと、グラスが二つ。それに茶菓子が所狭しと並んだテーブルの横に、はにかむような微笑を浮かべた青年が立っていた。
はて、私が訪れたのは眉目秀麗文武両道社交性は死んでいて毒舌冷徹極まりないセルゲウス・ユージーン公爵のはずだが……?
風に揺れる銀の髪はサラサラと重さを感じさせず、清潔に切りそろえられている。アメジストの瞳が白い肌と銀の髪に映えて綺麗だ。顔の造作も、女の私が負けたと思う程美しいのに、しっかりと男性の顔、男性の身体をしている。
背が高く、足が長い。いつまで見ていても飽きない美丈夫だが、仕事の邪魔をして突然の訪問をしてしまったのだ。はっとして挨拶をした。
「本日は、突然お邪魔してしまい申し訳ございません。バーバレラ・ドミニクと申します。ユージーン公爵のお噂はかねがね窺っております」
「バーバレラ……嬢。あぁ、すまない。ずっと……小さいころから、どんな人が私のお姫様なのかと楽しみにしていて。名前だけは知っていたものだから……こんなに美しいお姫様だとは思わなくて。はじめまして、私の事はどうか、セルゲウスと」
私のお姫様……? それに、毒舌も飛んでこなければ、どちらかといえば優しいしずっと微笑んでいるし嬉しそうだし前評判と随分違う……。
上げてから落とすタイプなのかな? と思いながら顔を上げて彼に近付くと、すっと私の為に椅子を引いてくれた。
さてはこのまま床に尻もちをつかされるのか?! と、重い空気椅子で自分で椅子を寄せようと思ったら、普通に着席させられた。驚いて振り返ると、微笑んで首を傾げている。
し、紳士……。普通に紳士だ。この部屋にはあらかじめお願いしていたので私とセルゲウス様しかいない。誰かの目があってやっている行動ではない。
目の前に彼が座って、お茶を飲みながらどう会話を切り出そうかと思っていた。
「そういえば、お茶会への招待ありがとう。君が初めて開催するお茶会に参加できるなんて嬉しいよ」
「いえ、その……お恥ずかしながら知人が居らず、その……父に契約の事を聞いて、王都に来たもので」
私の歯切れの悪い言葉と申し訳なさそうな雰囲気を察して、セルゲウス様は少し顔を曇らせた。
「あの……、もしかしてだけど、君は契約を知らずに、育ったのかい?」
「はい、先日知りまして……。私の夢は辺境伯を継ぎ、国境の守りとして騎士領主となる事なのです」
「そうか……、そうなると……」
セルゲウス様が難しい顔で口元に手を当てて顔を逸らされた。
あぁ、お茶会で一芝居打ってもらうお話はできそうもない。きっと出席を断られるに違いない。
「子供は後継ぎが2人欲しいよね……公爵家と辺境伯家の。女の子が一人いたらお嫁さんになりたいと言い出すかもしれないから、3人は必要かな……?」
斜め上の発言に危うくお茶を噴き出しかけた。堪えて横を向いてむせてしまう。
「あの……公爵家の嫁になれ、とか言うおつもりは……?」
「高位貴族がいくつも爵位を持っているのなんて普通の事だろう? 君が辺境伯を継ぎたいのなら、それでいいじゃないか。それに、姿勢を見ていれば鍛えている事は分かるよ」
優しく微笑みながらさらっと、だから問題ないよね、と頭から結婚する事だけは信じて疑っていない。
私は辺境伯で、この方が公爵で、そのまま結婚していい、のなら……確かに、何も問題はない。まるめこまれているような気さえしてくるが、この人の言う事は何もおかしくない。
それに、私を尊重してくれている。私はこの人と会話をする前に、公爵家に嫁入りは無理だ、と頭から決めてかかっていたのに。
「……私、セルゲウス様の事を誤解しておりました。申し訳ございません」
「あぁ……知っているよ。なんだっけ、眉目秀麗文武両道、社交性が死んでいて毒舌、みたいな噂だろう? 別に間違っていないよ、私は小さな頃から君以外になびく気がなかったから」
「……私が噂通りの『怪物姫』だったらどうなさるおつもりだったのです?」
「一緒にダイエットして、お化粧の練習をして、自信を持ってもらえばいいかなぁって」
このおおらかに微笑みながら前向きで甘い言葉を吐いてくるのが、あの、セルゲウス・ユージーン公爵だというのだろうか。
公爵家の嫁に専念しろとも言わず、辺境伯と公爵として結婚しよう、後継ぎはこうしよう、などとするすると言ってくる、ちょっとおかしい提案をしてくる方。
昨日、男尊女卑の見本のような男性と話したせいか、セルゲウス様の当たり前に私を尊重してくれる態度がありがたい。それに、嬉しい。
噂なんてアテにならないな、と思いながら、私はセルゲウス様にすっかり心を許して笑うと、お茶会の日にお願いしたい事などを話し始めた。
この方と結婚するのは、悪くないどころか、最高だ、と思う。少なくとも、第一印象は最高だ。
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