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4 王都の屋敷で歓迎されるとは
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予想通り何のアクシデントもなく、馬も私も元気に王都にたどり着いた。やはり見た目というのは重要だ、特に馬の。この太い脚と逞しくも引き締まった胴に知性と忠誠心に満ちた黒馬。たてがみだけは白く長く美しい。名前はドルチェ、牝の3歳だ。
各地の関所は、そもそも領を任される身なので通行手形を持っている。屋敷の場所も分かっていたが、貴族街に入る関所の所では流石にフードを取った。
軍馬の見事さと、私の乗馬服は仕立てがいいものだ。長い髪も、1週間の旅ですぐにもお風呂に入りたいが、貴族の証としてはいい証明になる。
そして決め手の辺境伯の通行手形で、どうぞ! と中に入れてもらえた。順調で何よりだ。
屋敷にたどり着くと、一度も会ったことのない門兵が感涙をながして門を開けてくれた。名乗りもしてないのだが、まぁこれだけ見事な愛馬に乗っていれば我が領の者だとすぐに分かるか、と思って、ありがとう、と告げるとそのまま中に入った。
厩舎を目で探しながら広い庭を道に沿って歩いていると、こちらも泣きそうな顔で笑いながら厩番の青年が駆け寄ってきた。
「おじょうざまっ……! 馬を、お預かりじまずっ……!」
声をかけられる時には号泣である。私とドルチェがやや引いているが、ここで分かれて屋敷に近付くと、中から使用人がワッと溢れ出てきて大歓迎された。
私は一度も王都を訪れた事が無いのに、下にも置かぬ大歓迎で、その上自己紹介もさせてもらえないまま、運ばれるようにして湯浴みをさせられ、母の仕込みだろうドレスを着せられ、あっという間に身支度を整えられてお嬢様の出来上がりだ。
「あの……」
「はいっ!」
「一体……皆どうしたというのです?」
私の髪を乾かしていた侍女に説明を求めると、彼女まで瞳を潤ませてしまった。
「な、泣かないで、どういう事か順を追って説明してちょうだい」
私の金髪を丁寧に梳り、乾いた布で水気を取りながら、彼女はアンヌと名乗って、今の状況を説明してくれた。
一年ほど前から、私に関して酷い噂が流れているらしい。
酷い醜女で領地に軟禁されており、そのストレスからの浪費癖は目に余るほど、性格も粗野で粗暴(この辺は少し言い訳できないかもしれない)で、だらしない身体つきでドレスはいつもサイズも合わず、このままだと辺境伯の後継は産まれないだろう、というものだという。
両親の耳にも入っていて、そんなものじゃないぞ、と屋敷の人間は言い聞かせてられていたが、余り詳しくは語らなかったそうだ。まぁ、私が両親の立場でも語りにくいとは思うけれど。とにかく軟禁もしていないという話はしていたし、見目はどこに出しても恥ずかしく無いと言われていたが、酷い噂のせいで出入りの商人にも足元を見られる始末。
領地から出なかった事でこんな風に使用人に迷惑を掛けるとは……クローゼットを見る限りドレスは仕立てていたはずだが、全て母のものだと思っていたらしい。
そこで身支度と一連の話を聞いた私の元に、執事のバーンズがやってきた。
「事情は聞いたわ。迷惑をかけてごめんなさいね。私の噂を流した相手は分かっているの?」
「それが……第二王女でございます、お嬢様」
私の中には、おのれユージーン公爵、という気持ちが吹き上がった。
大方私をていのいい虫除けに使ったに違いない。しかし、第二王女だけで商人まで噂が広まるかしら? とも思う。
「ちょっと弱いわね……もう少し探ってちょうだい」
「かしこまりました。それで、お嬢様にお願いがございます」
「何かしら?」
「社交シーズンは終わりましたが、お茶会を開いてくださいませんか?」
お茶会。開いたことはないけれど、そこは手伝ってくれるらしい。
「いいわ、噂を払拭するのね。やりましょう、お茶会」
各地の関所は、そもそも領を任される身なので通行手形を持っている。屋敷の場所も分かっていたが、貴族街に入る関所の所では流石にフードを取った。
軍馬の見事さと、私の乗馬服は仕立てがいいものだ。長い髪も、1週間の旅ですぐにもお風呂に入りたいが、貴族の証としてはいい証明になる。
そして決め手の辺境伯の通行手形で、どうぞ! と中に入れてもらえた。順調で何よりだ。
屋敷にたどり着くと、一度も会ったことのない門兵が感涙をながして門を開けてくれた。名乗りもしてないのだが、まぁこれだけ見事な愛馬に乗っていれば我が領の者だとすぐに分かるか、と思って、ありがとう、と告げるとそのまま中に入った。
厩舎を目で探しながら広い庭を道に沿って歩いていると、こちらも泣きそうな顔で笑いながら厩番の青年が駆け寄ってきた。
「おじょうざまっ……! 馬を、お預かりじまずっ……!」
声をかけられる時には号泣である。私とドルチェがやや引いているが、ここで分かれて屋敷に近付くと、中から使用人がワッと溢れ出てきて大歓迎された。
私は一度も王都を訪れた事が無いのに、下にも置かぬ大歓迎で、その上自己紹介もさせてもらえないまま、運ばれるようにして湯浴みをさせられ、母の仕込みだろうドレスを着せられ、あっという間に身支度を整えられてお嬢様の出来上がりだ。
「あの……」
「はいっ!」
「一体……皆どうしたというのです?」
私の髪を乾かしていた侍女に説明を求めると、彼女まで瞳を潤ませてしまった。
「な、泣かないで、どういう事か順を追って説明してちょうだい」
私の金髪を丁寧に梳り、乾いた布で水気を取りながら、彼女はアンヌと名乗って、今の状況を説明してくれた。
一年ほど前から、私に関して酷い噂が流れているらしい。
酷い醜女で領地に軟禁されており、そのストレスからの浪費癖は目に余るほど、性格も粗野で粗暴(この辺は少し言い訳できないかもしれない)で、だらしない身体つきでドレスはいつもサイズも合わず、このままだと辺境伯の後継は産まれないだろう、というものだという。
両親の耳にも入っていて、そんなものじゃないぞ、と屋敷の人間は言い聞かせてられていたが、余り詳しくは語らなかったそうだ。まぁ、私が両親の立場でも語りにくいとは思うけれど。とにかく軟禁もしていないという話はしていたし、見目はどこに出しても恥ずかしく無いと言われていたが、酷い噂のせいで出入りの商人にも足元を見られる始末。
領地から出なかった事でこんな風に使用人に迷惑を掛けるとは……クローゼットを見る限りドレスは仕立てていたはずだが、全て母のものだと思っていたらしい。
そこで身支度と一連の話を聞いた私の元に、執事のバーンズがやってきた。
「事情は聞いたわ。迷惑をかけてごめんなさいね。私の噂を流した相手は分かっているの?」
「それが……第二王女でございます、お嬢様」
私の中には、おのれユージーン公爵、という気持ちが吹き上がった。
大方私をていのいい虫除けに使ったに違いない。しかし、第二王女だけで商人まで噂が広まるかしら? とも思う。
「ちょっと弱いわね……もう少し探ってちょうだい」
「かしこまりました。それで、お嬢様にお願いがございます」
「何かしら?」
「社交シーズンは終わりましたが、お茶会を開いてくださいませんか?」
お茶会。開いたことはないけれど、そこは手伝ってくれるらしい。
「いいわ、噂を払拭するのね。やりましょう、お茶会」
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