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1 バーバレラは騎士領主になりたい
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文武両道で姿は美しく、政治経済に精通し、常に隣国の様子を探りながら交渉も熟す。
これが男児であったならどれだけすんなりいったことだろうと、私、バーバレラ・ドミニクは思うのだが、女であってもここまでこれたという達成感の方が強い。
ドミニク辺境伯の一人娘で、領地の名産は国境の山からとれる金銀鉄と、馬。野生馬を飼い慣らしては交配させて、軍馬や馬車馬として国中に卸している。陛下の馬も、ドミニク領の馬が選ばれる程だ。
私はそれが誇らしい。
父が守っているこの国境での暮らしは、時に危険なこともあるけれど、隣国との交易窓口にもなっているし、難しい交渉を纏められた時の達成感は変え難いものがある。
力で男性に劣るのは仕方がないが、身の軽さと技術でそれをひっくり返すほどは鍛えてきた。私兵達とやりあっても、もう勘弁してくださいと倒れるのは私兵が先。体力だけは、神から良いものが与えられたと思っている。
いずれ女でも辺境伯として家督を継ぐために、私は17歳の成人の日に父に誓約書を書かせた。幸い、この国は女性が家督を継いではいけないという法はない。
私はいずれ騎士領主としてこの国境を守る、そんな日を夢見てきた。だから、女としての社交性は犠牲にしたけれど。
ダンスと会話術、テーブルマナーは身に付けたものの、刺繍針より剣が手に馴染むし、ドレスよりは騎士服の方が動きやすい。
交渉の場ではきちんとドレスで正装し、金の髪を結い上げて化粧を施し、淑女として振る舞う。男の真似事がしたいわけではない。私は女として、騎士領主になりたいのだ。
そんな訳で領地経営も任されるようになって早2年、社交界デビューはしなかったけれど、その分両親が領地と王都を往復して、国内の社交活動をしてくれている。
いずれはそれも、と思うものの、ひとまずどこかの次男坊あたりを婿にとって、私も身を固めて夫に領を任せられるようになってからでいいか、と呑気に考えていた。
一応目星はつけている。お隣の領主の次男、パトリック・チェイサー伯爵令息だ。人当たりが良くて優しいと噂で聞いているので、私が……この位お転婆でも、受け入れてくれるんじゃないかと思っている。
(私も相手も貴族だし、仕事は私がするのだから相手も楽でいいわよね……? ちゃんと社交を始めたら、夫のいい所をたくさんあげて立てていこう)
社交界については母から嫌という程言われている。家督を継ぐのは構わないけれど、決して夫を落としてはいけない、と。
女の世界では、それは女としての敗北になるらしい。
私は国内外と円滑に社交をこなし、一番は国境の守りとして、平和なまま一生を終えたいと思っている。
ただ、どうしても戦う時には臆せず前に立ちないとも。その為に、騎士として、領主として、恥ずかしくない人間になる為に努力してきた。
しかし、運命がそうは問屋がおろさない、と言っているようで。
社交シーズンが終わった初夏に、両親が帰ってきた。天気は崩れてなかったけど、道でも悪くなっていたかしら? と思うほど青い顔をして。
「おかえりなさいませ、お父様、お母様。——一体どうされました?」
父親は私と目を合わせずに小刻みに震えながら、ドレス姿の私の腰を確認した。帯剣してますが、何か?
「バーバレラ、まずはその剣を置いて、話を聞いて欲しい」
何故剣を置いて? と聞こうにも、辺境伯として鍛えられた父がここまで動揺しているのも、その父を実は家では尻に敷いている母が必死に頷くのも珍しいので、私はベルトを外して武装解除をした。
このあと、それを猛烈に後悔するのだけれど。
これが男児であったならどれだけすんなりいったことだろうと、私、バーバレラ・ドミニクは思うのだが、女であってもここまでこれたという達成感の方が強い。
ドミニク辺境伯の一人娘で、領地の名産は国境の山からとれる金銀鉄と、馬。野生馬を飼い慣らしては交配させて、軍馬や馬車馬として国中に卸している。陛下の馬も、ドミニク領の馬が選ばれる程だ。
私はそれが誇らしい。
父が守っているこの国境での暮らしは、時に危険なこともあるけれど、隣国との交易窓口にもなっているし、難しい交渉を纏められた時の達成感は変え難いものがある。
力で男性に劣るのは仕方がないが、身の軽さと技術でそれをひっくり返すほどは鍛えてきた。私兵達とやりあっても、もう勘弁してくださいと倒れるのは私兵が先。体力だけは、神から良いものが与えられたと思っている。
いずれ女でも辺境伯として家督を継ぐために、私は17歳の成人の日に父に誓約書を書かせた。幸い、この国は女性が家督を継いではいけないという法はない。
私はいずれ騎士領主としてこの国境を守る、そんな日を夢見てきた。だから、女としての社交性は犠牲にしたけれど。
ダンスと会話術、テーブルマナーは身に付けたものの、刺繍針より剣が手に馴染むし、ドレスよりは騎士服の方が動きやすい。
交渉の場ではきちんとドレスで正装し、金の髪を結い上げて化粧を施し、淑女として振る舞う。男の真似事がしたいわけではない。私は女として、騎士領主になりたいのだ。
そんな訳で領地経営も任されるようになって早2年、社交界デビューはしなかったけれど、その分両親が領地と王都を往復して、国内の社交活動をしてくれている。
いずれはそれも、と思うものの、ひとまずどこかの次男坊あたりを婿にとって、私も身を固めて夫に領を任せられるようになってからでいいか、と呑気に考えていた。
一応目星はつけている。お隣の領主の次男、パトリック・チェイサー伯爵令息だ。人当たりが良くて優しいと噂で聞いているので、私が……この位お転婆でも、受け入れてくれるんじゃないかと思っている。
(私も相手も貴族だし、仕事は私がするのだから相手も楽でいいわよね……? ちゃんと社交を始めたら、夫のいい所をたくさんあげて立てていこう)
社交界については母から嫌という程言われている。家督を継ぐのは構わないけれど、決して夫を落としてはいけない、と。
女の世界では、それは女としての敗北になるらしい。
私は国内外と円滑に社交をこなし、一番は国境の守りとして、平和なまま一生を終えたいと思っている。
ただ、どうしても戦う時には臆せず前に立ちないとも。その為に、騎士として、領主として、恥ずかしくない人間になる為に努力してきた。
しかし、運命がそうは問屋がおろさない、と言っているようで。
社交シーズンが終わった初夏に、両親が帰ってきた。天気は崩れてなかったけど、道でも悪くなっていたかしら? と思うほど青い顔をして。
「おかえりなさいませ、お父様、お母様。——一体どうされました?」
父親は私と目を合わせずに小刻みに震えながら、ドレス姿の私の腰を確認した。帯剣してますが、何か?
「バーバレラ、まずはその剣を置いて、話を聞いて欲しい」
何故剣を置いて? と聞こうにも、辺境伯として鍛えられた父がここまで動揺しているのも、その父を実は家では尻に敷いている母が必死に頷くのも珍しいので、私はベルトを外して武装解除をした。
このあと、それを猛烈に後悔するのだけれど。
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