【完結】嘘八百侯爵令嬢の心を、無表情王太子は掴みたい

葉桜鹿乃

文字の大きさ
上 下
16 / 20

16 祖母と私と私の魔法

しおりを挟む
「あぁ、知っている。他国の王家の血だ、侯爵家に嫁いできた時に……余程人望があったのだろう。貴女の領地では騎士団を抱えているはずだが」

「えぇ。でも、祖母がそれだけ好かれていたのは、私に教えてくれたこと……きっと殿下が望んでいることを、ずっと続けてきたからだと思います」

 アリサを軽く振り返って、青の天鵞絨張りの小箱を受け取る。

 この小箱の中身は、私よりもきっと殿下に必要な物だ。選ばれたいからではなく、純粋に渡したいから、私はこの箱の中身を殿下に譲ることにした。

「これは、先日のお話のお礼です。祖母の話を今日はしようと思っていて……微弱ながら、私の魔法を籠めました。たとえ私が選ばれなかったとしても、殿下がお話してくださったことに何か報いたいと思いまして……お受け取りください」

 お菓子の隙間から箱をそっと置いて差し出すと、殿下はそれを受け取って、あけても? と目で聞いて来た。

 私は微笑んで頷く。

 中に入っているのは、殿下の瞳と同じ黒曜石をあしらったプラチナのカフスボタンだ。イヤリングや指輪といった肌身に付ける物は少々重いだろうと、カフスボタンに留めておいた。

「私の魔法は、常に私から微弱に漏れ出していて、周囲の人の気持ちを和ませます。祖母はもっとその力が強くて、石に魔法を籠める方法は祖母から教わりました。――そして、私の……お気づきだと思いますが、嘘も」

「嘘……ふふ、嘘だと認めるのだな」

「えぇ。失敗も成功も、何もかも笑い話や良い思い出にした方が記憶に残る。そして、思い出したいものになり、経験になる。だから、時には責任感も大事だけれど、笑ってやり過ごせることは笑ってやり過ごすのよ、というのが祖母の教えです。私は、そんな祖母が大好きでしたし、今もその教えを守っています」

 王宮で嘘を振りまいていた、なんて本当なら不敬罪に当たっても仕方がない。が、殿下は面白がって聞いているし、これまでもその嘘を楽しんでいた。

「もう一つ大事なことを教わっていたのに、私はそれを忘れてしまっていました」

「一体何を教わったんだ?」

 目を伏せる。微笑みは、今はいらない。これは自戒と反省、そして謝意を籠めた言葉だ。

「自分にだけは嘘を吐いてはいけない、と。自分の気持ちに嘘を吐くと自分を見失って迷子になる、と教わりました。私は……将来の国母など務まらないと頭から決めつけ、自分の気持ちや周囲の方の気持ちを見ようとしていませんでした。そのせいで……メイベル様は真向から向かってくださったことも、殿下のお心遣いも無駄にしてしまう所でしたが、私は自分の心と向き合うことに決めました」

 そして金色に変わった瞳を開いて殿下を見る。彼は、私の瞳の色が変わった事に少しの驚きと、まるで宝石でも見詰めるような視線で視線を合わせている。

「私は、殿下をお慕いしています。『リリィクイン』として選ばれたことに、今は感謝しています。これから最後の晩餐までの間、精いっぱい私らしく、殿下のお側に仕えたいと思っています」

「ヘイドルム侯爵令嬢……いや、ソニア嬢と呼んでも構わないだろうか?」

 私の顔は今きっと真っ赤だろう。殿下の先日の言葉が真実ならば、私はその告白に好意をもって応えたことになる。

 それだけで王太子妃に選ばれるわけではない。けれど、『リリィクイン』として王宮に留まる間。そしてもし、選ばれることがあればこの先の一生を。

「はい、かまいません殿下。どうか、お側にいられる限り、貴方に穏やかに楽しく過ごして欲しいと……その為の努力なら怠りません」

「ありがとう。ソニア嬢。君は……得難い令嬢だ」

 彼は贈り物のカフスボタンをさっそく袖の物と交換すると、その後は和やかな、私の祖母と、殿下のお兄様の思い出話に花を咲かせた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

悪役令嬢断罪プログラム

朏猫(ミカヅキネコ)
恋愛
王太子妃候補の公爵令嬢オペラ・ガトーオロムは、夢で自称神だという男に会った。男は「この世界に“悪役令嬢断罪プログラム”をインストールしましたぁ!」と声高に宣言し、もう一人の王太子妃候補、伯爵令嬢ホワイト・ザルツブルガートルンとオペラのどちらかが悪役令嬢になり断罪されるのだと言い出す。しかしオペラとホワイトは密かに姉妹の契りを交わすほど仲が良かった。自称神が言うとおりどちらかが悪役令嬢になってしまうのか、それとも……。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...