【完結】嘘八百侯爵令嬢の心を、無表情王太子は掴みたい

葉桜鹿乃

文字の大きさ
上 下
14 / 20

14 向き合う物

しおりを挟む
 お茶会を終えて戻ると同時、送るのに着いて来てくれた執事から伝言があった。

 一人一人との時間を大事にするので、晩餐会は廃して各々の宮に食事は運ばれる、という事だった。

 最後の晩餐会だけは予定通り行うようだが、一人一人に対して私に対するような用意をするとなると、殿下の執務時間も大幅に減るのかもしれない。

 快く了承して、今日はもう楽な格好に着替え、次のお茶会である4日後までに自分の気持ちとしっかり向き合うことを決めた。

 ランドルフ殿下のことを少し話してもらえたこと、そして、私に何を求めているかを……知ったことは、大きな収穫だったといえる。

 自分がいかに全体ばかりを見て個を見ていなかったかは反省した。そして、ランドルフ殿下はそれを見透かすように2人きりでの時間を作るよう取り計らってくれた。

 今日はその一歩。私が見るべきは他の令嬢や王宮という場所ではなく、ランドルフ殿下なのだと明確に意識することとなった。

(私は……ランドルフ殿下は、嫌いじゃない)

 ただ、どうしても彼にはついてくるのだ。王太子、という身分が。そして、王太子が最終的に国王になること、その妻になることを考えると、どうしても私の心は……今日、彼に抱いた好意に近い何かを否定してしまう。

(嘘吐き癖が出てるわ、違うの、それは……今は、まだ考えなくてもいい、はず)

 家柄は釣り合っている。でなければ『リリィクイン』として選ばれはしない。

 能力も、王太子妃候補として選ばれた後の教育次第でどうとでもなるだろう。その辺は小器用な自覚があるので、教育があればなんとかなる、とは思える。

(では、問題は何……? 私は何から逃げ出したかったんだっけ……)

 そもそも、王太子妃候補から降りたとして私は何がしたかったんだろう? 考えれば考える程、ただただ「面倒くさそう」「そんな重責耐えられる訳がない」という頭からの決めつけで蔑ろにしてきたのではないかと思う。

 楽しく、和やかに日々を過ごして平穏に王宮を去る。その為に吐いていた嘘なのに、今は自分の気持ちにすら嘘を吐いてしまうようになってしまった。

 これがいいことだとは思わない。思えない。自分に嘘を吐くことだけはしてはいけないよ、と祖母にも言われていた。

(自分に嘘を吐くのは……)

 私自身の考えや意思を迷子にさせるから、と。

 今まさに迷子真っ最中だ。今まで吐いて来た嘘が悪かったとは思わない。けれど、まっすぐ他人に向き合う力というのは、随分私の中では未成熟なようだった。

 ほんの少しの仕草でさらさらと流れる絹糸の髪、黒曜石の深い黒の瞳、白磁の肌に、鍛えられて引き締まった体躯。無表情だと思っていたけれど、優しい言動に微笑んだ時の穏やかな空気。

 思い出すだけで顔が熱くなる。

(私は……私は、ランドルフ殿下に惹かれて、いる……のだわ)

 好きだから、と言って『リリィクイン』の中から王太子妃に選ばれる訳ではない。

 でも、私は惹かれている自分を今、認めた。自分に嘘を吐かなければ、呆気なく彼の難点ではなく良い所ばかりが浮かんでくる。

 私がすべきことは何、というのは、考えなくても分かることだ。

 次のお茶会の時に、殿下に楽しいお話をする事だ。それは、嘘じゃなく、本当の楽しい話を。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

【完結】先に求めたのは、

たまこ
恋愛
 ペルジーニ伯爵の娘、レティは変わり者である。  伯爵令嬢でありながら、学園には通わずスタマーズ公爵家で料理人として働いている。  ミゲル=スタマーズ公爵令息は、扱いづらい子どもである。  頑固者で拘りが強い。愛想は無く、いつも不機嫌そうにしている。  互いを想い合う二人が長い間すれ違ってしまっているお話。 ※初日と二日目は六話公開、その後は一日一話公開予定です。 ※恋愛小説大賞エントリー中です。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

処理中です...