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9 ギスギスディスタンス
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その日の晩餐から、酷い状況になってしまった。
私は内心泣きそうになりながら、かろうじて愛想笑いを浮かべていたけれど、とにかくメイベル様の猛攻が王太子殿下と他の『リリィクイン』を襲う。
「ノラ様の領地の特産品は珍しい果物だったかと思いますけれど、どのような物か教えていただけます?」
「まぁ、えぇと、そうねぇ、濃厚な甘さの果物ですよ。完熟する前に収穫すると、追熟するので遠方にも生のまま届けることができますわ」
「素晴らしいですわね。殿下、是非私その果物が食べてみたいです」
と、さり気なく相手の産地の特産品を把握しているアピールをして(ノラ様はおっとりした方なので出汁に使われていることが分かっていないようだった)、殿下に許可を取り、殿下からノラ様にいくつか送って貰えるかと声を掛けさせ。
「ユーグレイス様、少々マナーがおろそかになっておりませんこと? 食器の当たる音が先程から不愉快ですわ」
「な、なによ! 分かってるわ、少し手元がおぼつかなかったのよ!」
「いい訳の前に謝ってはいかがです? 皆さま不快に思っていらしてよ」
いえ、私は貴女の猛攻の方が不愉快です、とは言えず、かといっていつものように場を和ませるような言葉を差し挟む隙間もなく、成り行きをハラハラしながら見守る事となり。
今日はそんな状況だからか、殿下が笑っている所も観測できなかったし、私の周りで何かが壊れることもなかったのだけれど、いつも以上に心が休まらず、かなり精神的にダメージを喰らってしまった。
(む、無理……これが本来の『リリィクイン』だとしたら、あと3週間もここにいるなんて拷問……)
次の日も、またその明くる日も、お茶会も晩餐もギスギスした『社交の場』になってしまい、私としては和やかに過ごせるなら物ならいくらでも壊れてくれ(いや、職人の方には申し訳ないけれど)と思ったものの、空気を読んだのか、それとも使用人も慣れたのか何も壊れることはなくなり、私の口数も減っていった。
メイベル様は私に喋らせないようにしている。意図的に、私にだけ話を振らない。私も、漬け込ませるような隙は作らなかった。あの猛攻が私に向いてしまったらと思うと、本当に嫌になる。
「もう……いやよ、家に帰りたい……」
そんな日々が一週間程続き、晩餐の後の湯浴みを済ませてソファに座ってアリサに弱音を吐いた私は、かなりのストレスを抱えていたのだろう。
口に出した瞬間に涙がぽろりと零れてしまった。
「あら、あら……、お嬢様がお泣きになるのはいつ以来でしょうね」
「からかわないで。絶妙に私を孤立させながら、話す暇を与えず、話す空気も作れない。無力だわ……メイベル様が何か悪いことをしているなら窘められるけれど、あれは別に悪いことではないもの」
私にとって都合の悪いことではあるけれど、かといって、私に何ができるだろう。
「……逃げ」
「はい?」
今はケイたちは下がり、アリサと私だけが私室にいる。
私は一度出た涙を引っ込めて、坐った目で中空を見詰めて呟いた。
「夜逃げしましょう」
「はい?!」
私は内心泣きそうになりながら、かろうじて愛想笑いを浮かべていたけれど、とにかくメイベル様の猛攻が王太子殿下と他の『リリィクイン』を襲う。
「ノラ様の領地の特産品は珍しい果物だったかと思いますけれど、どのような物か教えていただけます?」
「まぁ、えぇと、そうねぇ、濃厚な甘さの果物ですよ。完熟する前に収穫すると、追熟するので遠方にも生のまま届けることができますわ」
「素晴らしいですわね。殿下、是非私その果物が食べてみたいです」
と、さり気なく相手の産地の特産品を把握しているアピールをして(ノラ様はおっとりした方なので出汁に使われていることが分かっていないようだった)、殿下に許可を取り、殿下からノラ様にいくつか送って貰えるかと声を掛けさせ。
「ユーグレイス様、少々マナーがおろそかになっておりませんこと? 食器の当たる音が先程から不愉快ですわ」
「な、なによ! 分かってるわ、少し手元がおぼつかなかったのよ!」
「いい訳の前に謝ってはいかがです? 皆さま不快に思っていらしてよ」
いえ、私は貴女の猛攻の方が不愉快です、とは言えず、かといっていつものように場を和ませるような言葉を差し挟む隙間もなく、成り行きをハラハラしながら見守る事となり。
今日はそんな状況だからか、殿下が笑っている所も観測できなかったし、私の周りで何かが壊れることもなかったのだけれど、いつも以上に心が休まらず、かなり精神的にダメージを喰らってしまった。
(む、無理……これが本来の『リリィクイン』だとしたら、あと3週間もここにいるなんて拷問……)
次の日も、またその明くる日も、お茶会も晩餐もギスギスした『社交の場』になってしまい、私としては和やかに過ごせるなら物ならいくらでも壊れてくれ(いや、職人の方には申し訳ないけれど)と思ったものの、空気を読んだのか、それとも使用人も慣れたのか何も壊れることはなくなり、私の口数も減っていった。
メイベル様は私に喋らせないようにしている。意図的に、私にだけ話を振らない。私も、漬け込ませるような隙は作らなかった。あの猛攻が私に向いてしまったらと思うと、本当に嫌になる。
「もう……いやよ、家に帰りたい……」
そんな日々が一週間程続き、晩餐の後の湯浴みを済ませてソファに座ってアリサに弱音を吐いた私は、かなりのストレスを抱えていたのだろう。
口に出した瞬間に涙がぽろりと零れてしまった。
「あら、あら……、お嬢様がお泣きになるのはいつ以来でしょうね」
「からかわないで。絶妙に私を孤立させながら、話す暇を与えず、話す空気も作れない。無力だわ……メイベル様が何か悪いことをしているなら窘められるけれど、あれは別に悪いことではないもの」
私にとって都合の悪いことではあるけれど、かといって、私に何ができるだろう。
「……逃げ」
「はい?」
今はケイたちは下がり、アリサと私だけが私室にいる。
私は一度出た涙を引っ込めて、坐った目で中空を見詰めて呟いた。
「夜逃げしましょう」
「はい?!」
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