4 / 20
4 気のせいじゃなければ
しおりを挟む
晩餐会、私は席はどこでもいいのだけれど、『リリィクイン』となると円形のテーブルで晩餐を摂る事になるらしい。
今日はちょうど王太子殿下の正面で、内心「マジかよついてない」と思っていたのだが、今日はまだ何も壊れていない。このまま何も壊れずに終わって欲しい。
前菜、スープ、サラダ、と進んで今日は魚がメインらしい。内陸で育ったので魚と言えば川魚だったので、少し楽しみにしながら待っていると、私のメインが目の前に並べられる前に給仕の侍女の手から皿が滑り落ちて……床に。
ここであからさまにがっかりした顔をしては淑女失格だが、私は割と顔に出る方だと自覚している。一瞬、ほんの一瞬残念な顔をしてしまったのを王太子殿下に見られたらしい。微かに俯いて口許を手で隠していらっしゃる。呆れられたのだろう。
しかし、他の方の前に並ぶ美味しそうなバターソテーの白身魚。それが私の前には無く、落とした給仕係は泣きそうな顔をしている。何人かのご令嬢が小さく笑っているのも見える。同時に、給仕係は申し訳ございませんと泣きそうな声でいいながら、どうしようどうしようとしゃがんで皿に魚を戻している。
「あら、ありがとうございます。お気遣いくださったのですね」
私が王太子殿下に向って微笑んでそう御礼を言うと、王太子殿下はいつもの無表情に戻り、令嬢たちの笑い声もピタリと止まった。
「内陸の出ですので、魚料理をとても楽しみにしていましたの。ここに来てから毎日何かしらの物が私の前で壊れていたのですが、今日は魚の活きがよかったようでダメにしたのは食器ではなくお料理だけでしたわ。お料理は家畜の飼料に混ぜてくだされば結構。それに、手で拾えるくらい冷めている物ではなく、今から焼き立ての温かい魚料理を食べさせていただくことができるなんて光栄ですわ。料理されても活きがいいお魚ですもの、あつあつの状態で食べられるなんて幸運です」
もはや嘘というよりこじつけだが、給仕の侍女がぽかんとし、王太子殿下の目くばせで一礼して落とした料理と皿を下げ、足元の料理の染みを他の侍女がその場で染み抜きしている。
「祖母に聞いたのですが、魚料理は切り身の場合一匹の魚を切り出して使われるそうですね。活きがいいお魚ですから、皆さまどうかお先にお食べになってください。一番活きがいい部分が私の所に来たのだと思うと、魚も楽しみにしていたのかもしれないと思って微笑ましいですわ」
「そうか、では先にいただこう。すぐ代わりの物が来るはずだ」
王太子殿下がそう言って魚料理に手を付けたので、他の令嬢も手を付けた。うん、私はもう少ししたら焼き立ての魚のバターソテーが食べられる。
しかし、王太子殿下、気のせいでなければ貴方やはり小刻みに揺れていませんか……?
他の『リリィクイン』たちが「本当に活きがいいのですね、美味しいですわ」とか何とか言うたびに、少し震えが大きくなるような……?
水を飲んで待っている間に、私の目の前に湯気をたてた白身魚のソテーが運ばれてくる。
その頃には王太子殿下の震えも止まっていたので、他の方はデザートまでご歓談いただくとして、私もさっそくメインディッシュに取り掛かった。
今日はちょうど王太子殿下の正面で、内心「マジかよついてない」と思っていたのだが、今日はまだ何も壊れていない。このまま何も壊れずに終わって欲しい。
前菜、スープ、サラダ、と進んで今日は魚がメインらしい。内陸で育ったので魚と言えば川魚だったので、少し楽しみにしながら待っていると、私のメインが目の前に並べられる前に給仕の侍女の手から皿が滑り落ちて……床に。
ここであからさまにがっかりした顔をしては淑女失格だが、私は割と顔に出る方だと自覚している。一瞬、ほんの一瞬残念な顔をしてしまったのを王太子殿下に見られたらしい。微かに俯いて口許を手で隠していらっしゃる。呆れられたのだろう。
しかし、他の方の前に並ぶ美味しそうなバターソテーの白身魚。それが私の前には無く、落とした給仕係は泣きそうな顔をしている。何人かのご令嬢が小さく笑っているのも見える。同時に、給仕係は申し訳ございませんと泣きそうな声でいいながら、どうしようどうしようとしゃがんで皿に魚を戻している。
「あら、ありがとうございます。お気遣いくださったのですね」
私が王太子殿下に向って微笑んでそう御礼を言うと、王太子殿下はいつもの無表情に戻り、令嬢たちの笑い声もピタリと止まった。
「内陸の出ですので、魚料理をとても楽しみにしていましたの。ここに来てから毎日何かしらの物が私の前で壊れていたのですが、今日は魚の活きがよかったようでダメにしたのは食器ではなくお料理だけでしたわ。お料理は家畜の飼料に混ぜてくだされば結構。それに、手で拾えるくらい冷めている物ではなく、今から焼き立ての温かい魚料理を食べさせていただくことができるなんて光栄ですわ。料理されても活きがいいお魚ですもの、あつあつの状態で食べられるなんて幸運です」
もはや嘘というよりこじつけだが、給仕の侍女がぽかんとし、王太子殿下の目くばせで一礼して落とした料理と皿を下げ、足元の料理の染みを他の侍女がその場で染み抜きしている。
「祖母に聞いたのですが、魚料理は切り身の場合一匹の魚を切り出して使われるそうですね。活きがいいお魚ですから、皆さまどうかお先にお食べになってください。一番活きがいい部分が私の所に来たのだと思うと、魚も楽しみにしていたのかもしれないと思って微笑ましいですわ」
「そうか、では先にいただこう。すぐ代わりの物が来るはずだ」
王太子殿下がそう言って魚料理に手を付けたので、他の令嬢も手を付けた。うん、私はもう少ししたら焼き立ての魚のバターソテーが食べられる。
しかし、王太子殿下、気のせいでなければ貴方やはり小刻みに揺れていませんか……?
他の『リリィクイン』たちが「本当に活きがいいのですね、美味しいですわ」とか何とか言うたびに、少し震えが大きくなるような……?
水を飲んで待っている間に、私の目の前に湯気をたてた白身魚のソテーが運ばれてくる。
その頃には王太子殿下の震えも止まっていたので、他の方はデザートまでご歓談いただくとして、私もさっそくメインディッシュに取り掛かった。
1
お気に入りに追加
760
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】先に求めたのは、
たまこ
恋愛
ペルジーニ伯爵の娘、レティは変わり者である。
伯爵令嬢でありながら、学園には通わずスタマーズ公爵家で料理人として働いている。
ミゲル=スタマーズ公爵令息は、扱いづらい子どもである。
頑固者で拘りが強い。愛想は無く、いつも不機嫌そうにしている。
互いを想い合う二人が長い間すれ違ってしまっているお話。
※初日と二日目は六話公開、その後は一日一話公開予定です。
※恋愛小説大賞エントリー中です。
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる