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20 クレイ殿下が婚約を申し込んできました
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それから音沙汰は暫くなく、私は変な同情を買うのも嫌だったのでお茶会や夜会への参加は断って、偶にジェニットから様々な噂を聞いたりしていた。
彼女とならお茶会に出るのもいいかなと思ったけれど、中にはアンドリュー殿下のお相手を務めた方もいるだろう。そんな所に態々出て行って泥試合になるのも避けたい。こっちとしては、気持ちは冷めきっていたのだから尚更だ。
お父様から王城の様子も聞いている。やっと落ち着いてきた所で、クレイ殿下に隣国から姫が嫁ぐという話が出たらしい。
和平交渉としては常套手段ではあるし、その話の触りを聞いた時は胸がざわついたが、殿下はそれを受けなかったらしい。
思ったよりもほっとした自分がいた。私は、殿下の言葉を間に受けて、こうして待っている。
「なぜ、殿下はお断りを……?」
「裏から手を回す国の姫と結婚するなど自ら死にに行くようなものだ、というのは表向きの理由だがまぁ理にかなっている。やった事がやった事だからな、向こうも強くは出られまい」
表向き、とお父様は言った。では、本音も語ったのだろうか。
「結婚したい人がいる、と、陛下や私の前でハッキリ告げていたよ。……さて、誰のことだかな」
面白そうに笑って私を見るお父様に、私は赤い顔を逸らした。
そして、そこから更に1月後、クレイ殿下が3日後に我が家に来たいという報せが届いた。お父様にそれを伝えると、訳知り顔で了承されてしまう。
(王太子殿下が我が家にくるのよ……?! 何でそんな……、え? え?)
私は頭もよく回らないまま、その日何を着て出迎えたらいいのか、なんて事に頭を悩ませてしまい、結局出迎えの支度はお母様が整えてくれた。何だか恥ずかしい。
家族にも動揺が伝わっていることもだが、久しぶりに会う殿下にどんな顔をしていいのか分からない。そもそもアンドリュー殿下の好みになろうとは頑張ったけれど、クレイ殿下の好みはどんな女性なんだろう。
私はそれを知らない。いつも容姿は褒めてくださるし、会話も楽しくて……思い出だけでも胸が詰まる。
銀髪に赤い目の私に一番似合うドレスをと思って、少し暗色の落ち着いた赤のドレスか、アイスブルーに銀を散らしたドレスかを悩んだ。お母様の勧めで、貴女は若いのだからと、アイスブルーのドレスにした。
そうして当日、約束の時間に殿下の馬車がやってくるのをエントランスで出迎えると、殿下は両手で抱えるような薔薇の花束を持って馬車から降り、すぐさま私の前に跪いた。
「リーン様。どうか、私と婚約してください」
もう一刻も先延ばしにしたく無いとでもいうように、両手で捧げられた花束。
こんなに男性から大事にされた事はあったろうか。
こんな風に、これからも大事にしてくれると、信じられる。
「もちろん、喜んで」
私は涙ぐみながら、花束を受け取った。
立ち上がった殿下を見上げて泣き笑いの顔で喜ぶと、彼もまた笑って結いあげた髪を撫でてくれた。
彼女とならお茶会に出るのもいいかなと思ったけれど、中にはアンドリュー殿下のお相手を務めた方もいるだろう。そんな所に態々出て行って泥試合になるのも避けたい。こっちとしては、気持ちは冷めきっていたのだから尚更だ。
お父様から王城の様子も聞いている。やっと落ち着いてきた所で、クレイ殿下に隣国から姫が嫁ぐという話が出たらしい。
和平交渉としては常套手段ではあるし、その話の触りを聞いた時は胸がざわついたが、殿下はそれを受けなかったらしい。
思ったよりもほっとした自分がいた。私は、殿下の言葉を間に受けて、こうして待っている。
「なぜ、殿下はお断りを……?」
「裏から手を回す国の姫と結婚するなど自ら死にに行くようなものだ、というのは表向きの理由だがまぁ理にかなっている。やった事がやった事だからな、向こうも強くは出られまい」
表向き、とお父様は言った。では、本音も語ったのだろうか。
「結婚したい人がいる、と、陛下や私の前でハッキリ告げていたよ。……さて、誰のことだかな」
面白そうに笑って私を見るお父様に、私は赤い顔を逸らした。
そして、そこから更に1月後、クレイ殿下が3日後に我が家に来たいという報せが届いた。お父様にそれを伝えると、訳知り顔で了承されてしまう。
(王太子殿下が我が家にくるのよ……?! 何でそんな……、え? え?)
私は頭もよく回らないまま、その日何を着て出迎えたらいいのか、なんて事に頭を悩ませてしまい、結局出迎えの支度はお母様が整えてくれた。何だか恥ずかしい。
家族にも動揺が伝わっていることもだが、久しぶりに会う殿下にどんな顔をしていいのか分からない。そもそもアンドリュー殿下の好みになろうとは頑張ったけれど、クレイ殿下の好みはどんな女性なんだろう。
私はそれを知らない。いつも容姿は褒めてくださるし、会話も楽しくて……思い出だけでも胸が詰まる。
銀髪に赤い目の私に一番似合うドレスをと思って、少し暗色の落ち着いた赤のドレスか、アイスブルーに銀を散らしたドレスかを悩んだ。お母様の勧めで、貴女は若いのだからと、アイスブルーのドレスにした。
そうして当日、約束の時間に殿下の馬車がやってくるのをエントランスで出迎えると、殿下は両手で抱えるような薔薇の花束を持って馬車から降り、すぐさま私の前に跪いた。
「リーン様。どうか、私と婚約してください」
もう一刻も先延ばしにしたく無いとでもいうように、両手で捧げられた花束。
こんなに男性から大事にされた事はあったろうか。
こんな風に、これからも大事にしてくれると、信じられる。
「もちろん、喜んで」
私は涙ぐみながら、花束を受け取った。
立ち上がった殿下を見上げて泣き笑いの顔で喜ぶと、彼もまた笑って結いあげた髪を撫でてくれた。
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