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15 国の金に手をつけていたようです
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「しました……グレンウェル公爵令嬢と婚約の話がありましたが、それだと……」
「えぇ、クレイ殿下の地位が磐石になりすぎて、貴族間の反発が強まりますよね……グレンウェル公爵は、国の財務管理の責任者ですから」
グレンウェル公爵はかなり力を持っている。その令嬢とクレイ殿下が婚約して結婚すれば、クレイ殿下を排除しようという第二王子派……アンドリュー殿下を支持して、できるならそのまま王太子に押し上げ甘い汁を吸いたい貴族は、凶行に走る可能性があった。
ただ、アンドリュー殿下と私……というか、ネルコム侯爵家と、さらには従兄弟のグレイ公爵家もアンドリュー殿下との繋がりができたら話は別だ。
それを理由にアンドリュー殿下を押し上げる力が強くなる可能性もあるが、我が家もグレイ公爵家も中立派だ。それらを抑えて、一番平和な形に纏まるはずだった。
「……実は、かなり前から隣国がキナ臭かったのだけれど……表向きは友好国だよ……それで国内情勢が落ち着かないとは不味いからと、私は未婚、アンドリューには後ろ盾として中立派が着くように君とアンドリューの婚約に至った」
「まぁ……、確かに婚約していれば中立派が第二王子派を抑え込めますね。それでバランスが取れる……、グレンウェル公爵は開戦がお望みということに、なるのでしょうか」
私は恐ろしい可能性を口にして血の気が引いた。戦争などしないに越したことはない。隣国も、なるべくなら王室がハッキリ二分化した所を攻め込みたいだろう。
だからお父様は隣国に、などと言って、過分すぎる対応で陛下からクレイ殿下まで頭を下げたのだろう。
お父様も怒ってるからと言って、王室に対して強く出過ぎだ。とはいえ、あれはパフォーマンス……、アンドリュー殿下はどこまで知らないのだろうと、心配になる。
「先程、アンドリューとグレンウェル公爵が話した内容が盗聴で記録された。——グレンウェル公爵が帳簿を誤魔化しアンドリューに金を積んで婚約破棄をさせようとしていた。私を強くするのではなく、相対的にアンドリューを追い詰めて国内に混乱を招く為に」
ここまでの話が怒涛すぎて、私は一度思考を整理することにした。
クレイ殿下の地位がグレンウェル公爵令嬢との婚約で盤石になった場合、アンドリュー殿下の派閥の貴族はクレイ殿下の命を狙う可能性がある。失脚はあり得なくなるので、命をだ。
それを王室はわかっていたので、婚約は成立しなかった。みすみす命の危機に晒す必要はない。同時に、アンドリュー殿下派の貴族を抑える為に、ネルコム侯爵家……私との婚約によって、中立派のネルコム侯爵家と、宗家のグレイ公爵家がアンドリュー殿下につく。アンドリュー殿下派の貴族は下手な動きができない。
しかし、私とアンドリュー殿下が……しかも、アンドリュー殿下の有責で婚約破棄となった場合、一気にクレイ殿下の地位が盤石になる。アンドリュー殿下の廃嫡は決まっているから、もう王太子になる事は無いけれど、クレイ殿下の命が危うい状況になるという所までは一緒……当然、王室は混乱する。
そして、ずっとキナ臭い隣国……ネルコム侯爵家を取り込むだけでも国家予算は相当豊かになる、それを横目でみていた訳だから……開戦したい。が、王室が安定しているメルト王国は弱らなければ勝ち目は薄い。
「クレイ殿下……、この横領がアンドリュー殿下の仕業でなく、グレンウェル公爵の罪ならば……、国の混乱は少なく、済みますね……?」
「王族以外の処刑は公にする必要は無いからね、……勘付かれはするだろうけれど、すぐに新しい財務管理の責任者を立てれば、平民にとっては直接の納税の相手が変わるだけだ」
アンドリュー殿下、貴方はグレンウェル公爵から出てくるお金がどこのものか知らなかった。知らなかったでは済まないけれど、その、言葉は悪いけど……貴方が馬鹿でよかったです。
「私の浅い考えですが、その盗聴記録を元に、即座にグレンウェル公爵を罰した方がよろしいかと……そして、中立派のグレイ公爵を後任に推します」
「私も、たぶん父も同じ考えだ。……アンドリューは命拾いをしたな、罰として着けていた魔道具の中の盗聴器……アミュレットは身代わりの護符だから見える所に付けておけば下手な暗殺は行えない。それで口論になったのだろう……」
私は落ち着く為に深呼吸をして、これ以上は私の立ち入ってはいけない話だと気持ちを落ち着けてから、今から騒がしくなるだろう王城を後にした。
「クレイ殿下……お気をつけて」
帰りの馬車の中、祈るようにそう呟いた。
「えぇ、クレイ殿下の地位が磐石になりすぎて、貴族間の反発が強まりますよね……グレンウェル公爵は、国の財務管理の責任者ですから」
グレンウェル公爵はかなり力を持っている。その令嬢とクレイ殿下が婚約して結婚すれば、クレイ殿下を排除しようという第二王子派……アンドリュー殿下を支持して、できるならそのまま王太子に押し上げ甘い汁を吸いたい貴族は、凶行に走る可能性があった。
ただ、アンドリュー殿下と私……というか、ネルコム侯爵家と、さらには従兄弟のグレイ公爵家もアンドリュー殿下との繋がりができたら話は別だ。
それを理由にアンドリュー殿下を押し上げる力が強くなる可能性もあるが、我が家もグレイ公爵家も中立派だ。それらを抑えて、一番平和な形に纏まるはずだった。
「……実は、かなり前から隣国がキナ臭かったのだけれど……表向きは友好国だよ……それで国内情勢が落ち着かないとは不味いからと、私は未婚、アンドリューには後ろ盾として中立派が着くように君とアンドリューの婚約に至った」
「まぁ……、確かに婚約していれば中立派が第二王子派を抑え込めますね。それでバランスが取れる……、グレンウェル公爵は開戦がお望みということに、なるのでしょうか」
私は恐ろしい可能性を口にして血の気が引いた。戦争などしないに越したことはない。隣国も、なるべくなら王室がハッキリ二分化した所を攻め込みたいだろう。
だからお父様は隣国に、などと言って、過分すぎる対応で陛下からクレイ殿下まで頭を下げたのだろう。
お父様も怒ってるからと言って、王室に対して強く出過ぎだ。とはいえ、あれはパフォーマンス……、アンドリュー殿下はどこまで知らないのだろうと、心配になる。
「先程、アンドリューとグレンウェル公爵が話した内容が盗聴で記録された。——グレンウェル公爵が帳簿を誤魔化しアンドリューに金を積んで婚約破棄をさせようとしていた。私を強くするのではなく、相対的にアンドリューを追い詰めて国内に混乱を招く為に」
ここまでの話が怒涛すぎて、私は一度思考を整理することにした。
クレイ殿下の地位がグレンウェル公爵令嬢との婚約で盤石になった場合、アンドリュー殿下の派閥の貴族はクレイ殿下の命を狙う可能性がある。失脚はあり得なくなるので、命をだ。
それを王室はわかっていたので、婚約は成立しなかった。みすみす命の危機に晒す必要はない。同時に、アンドリュー殿下派の貴族を抑える為に、ネルコム侯爵家……私との婚約によって、中立派のネルコム侯爵家と、宗家のグレイ公爵家がアンドリュー殿下につく。アンドリュー殿下派の貴族は下手な動きができない。
しかし、私とアンドリュー殿下が……しかも、アンドリュー殿下の有責で婚約破棄となった場合、一気にクレイ殿下の地位が盤石になる。アンドリュー殿下の廃嫡は決まっているから、もう王太子になる事は無いけれど、クレイ殿下の命が危うい状況になるという所までは一緒……当然、王室は混乱する。
そして、ずっとキナ臭い隣国……ネルコム侯爵家を取り込むだけでも国家予算は相当豊かになる、それを横目でみていた訳だから……開戦したい。が、王室が安定しているメルト王国は弱らなければ勝ち目は薄い。
「クレイ殿下……、この横領がアンドリュー殿下の仕業でなく、グレンウェル公爵の罪ならば……、国の混乱は少なく、済みますね……?」
「王族以外の処刑は公にする必要は無いからね、……勘付かれはするだろうけれど、すぐに新しい財務管理の責任者を立てれば、平民にとっては直接の納税の相手が変わるだけだ」
アンドリュー殿下、貴方はグレンウェル公爵から出てくるお金がどこのものか知らなかった。知らなかったでは済まないけれど、その、言葉は悪いけど……貴方が馬鹿でよかったです。
「私の浅い考えですが、その盗聴記録を元に、即座にグレンウェル公爵を罰した方がよろしいかと……そして、中立派のグレイ公爵を後任に推します」
「私も、たぶん父も同じ考えだ。……アンドリューは命拾いをしたな、罰として着けていた魔道具の中の盗聴器……アミュレットは身代わりの護符だから見える所に付けておけば下手な暗殺は行えない。それで口論になったのだろう……」
私は落ち着く為に深呼吸をして、これ以上は私の立ち入ってはいけない話だと気持ちを落ち着けてから、今から騒がしくなるだろう王城を後にした。
「クレイ殿下……お気をつけて」
帰りの馬車の中、祈るようにそう呟いた。
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