11 / 21
11 王弟宰相閣下がお怒りです
しおりを挟む
魔術師団に差し入れを持って行った後、先んじて約束を取り付けていた宰相閣下の元を訪ねた。
「失礼します」
「どうぞ。……あぁ、リーン様。この度は……甥がご迷惑を」
「いえ、話を聞いてもらえなかった私が悪いのです、お気になさらないでください」
「まずはお掛けになってください。少し、お話をしましょう」
応接用のソファを勧められて座る。いよいよ国の大事について聞けるのか、と思ったら、話が斜め上の所から始まった。
「まずは、王室侮辱罪、契約不履行による反故の罪、それから度重なる浮気行為による貴女への侮辱罪、暴言と粗暴な態度による暴行罪、当てられた予算を賭博に使っていたのは……まだ殿下自身の予算内なのと今後2年は手をつけられないので不問としますが、さて、どれから……」
「お待ちください、宰相閣下。いえ、王弟殿下……あの、一応、甥御様の話ですよね?」
犯罪者の話をしている訳ではないはずだが、これはこの後『どれから執行いたしますか?』と続くのは間違いない。
王室侮辱罪については私の裁量にないはずだし、私は婚約が解消できたので少しずつだが元気を取り戻している。
それよりも、今王宮でアンドリュー殿下を傀儡にしてまで誰かが邪魔したい何かの方が気になるのだけれど……、それこそ私から話を切り出していい話ではなくて困ってしまった。
このままだと王弟である宰相閣下に無駄に時間を取らせたことになってしまう。
「もしや、私に無駄に時間を取らせた、などとお思いですかな?」
国王陛下とは15歳離れた腹違いの若い王弟殿下は、クレイ殿下のお兄様だと言われても違和感がないくらいだ。
プラチナの髪を後ろに撫で付け、モノクルをかけた姿は理知的な文官という雰囲気でとても安心できる。その分、その鋭さが怖い時もあるけれど……私には物腰優しく接してくれる。
「貴女は素晴らしい淑女です。身内の、アレをあてがってしまったのは本当に申し訳なかった。貴女にはきっと婚約の申し込みが殺到しているのでは?」
「えぇ、実は……たくさん、釣書をいただいてしまいまして」
「だが、まだご気分でない?」
本当に鋭い。という事は、分かっていてまだ私に話すべきではない、もしくは、宰相閣下から話すことではないという事なのかもしれない。
今日は見合いの話の雑談を少しだけして、お時間を取らせてしまった事を詫びて、アンドリュー殿下の罪については経過観察という事をお願いして帰ることにしよう。
「そうなんです。私、政略結婚だと思っていたので、一臣下として殿下に耳を傾けていただける位にはなりたいと頑張っていたので……その、なんというか、今はあまり殿方と親しくなりたいという気持ちがわかなくて……」
「何、貴女はまだ若い。甥のせいで3年を無駄に過ごさせてしまいましたが、美しさには磨きがかかりました。焦る必要はありません」
私はその言葉にくすっと笑って、宰相閣下の方に水を向けた。
「そういう宰相閣下こそ、奥方はお決めにならないんですの? とても素敵ですもの、きっと交際を希望されてる女性が多いのでは?」
「いや、困りましたな……、私は何分仕事が恋人ですので。……ですから、リーン様。甥に何か罰を与えたくなったら、いつでもいらしてください。これが私の仕事ですし、アレはそれだけの事をしでかしているのです」
急に真顔になってアンドリュー殿下の話に戻されてしまっだ。
私は……裁きたいという気持ちはあまりない。落胆、が近いのかもしれない。思い出すと傷付く言葉や態度は多々あるけれど、今はそれを裁いたところで、という気持ちが強い。
私は曖昧に笑ってお礼を告げると、宰相閣下の部屋を辞した。
それにしても、みんな揃ってすごい怒りようだわ……。私が怒る暇が無いくらい。その方が、今は疲れた心が波立たなくていいけれど。
「失礼します」
「どうぞ。……あぁ、リーン様。この度は……甥がご迷惑を」
「いえ、話を聞いてもらえなかった私が悪いのです、お気になさらないでください」
「まずはお掛けになってください。少し、お話をしましょう」
応接用のソファを勧められて座る。いよいよ国の大事について聞けるのか、と思ったら、話が斜め上の所から始まった。
「まずは、王室侮辱罪、契約不履行による反故の罪、それから度重なる浮気行為による貴女への侮辱罪、暴言と粗暴な態度による暴行罪、当てられた予算を賭博に使っていたのは……まだ殿下自身の予算内なのと今後2年は手をつけられないので不問としますが、さて、どれから……」
「お待ちください、宰相閣下。いえ、王弟殿下……あの、一応、甥御様の話ですよね?」
犯罪者の話をしている訳ではないはずだが、これはこの後『どれから執行いたしますか?』と続くのは間違いない。
王室侮辱罪については私の裁量にないはずだし、私は婚約が解消できたので少しずつだが元気を取り戻している。
それよりも、今王宮でアンドリュー殿下を傀儡にしてまで誰かが邪魔したい何かの方が気になるのだけれど……、それこそ私から話を切り出していい話ではなくて困ってしまった。
このままだと王弟である宰相閣下に無駄に時間を取らせたことになってしまう。
「もしや、私に無駄に時間を取らせた、などとお思いですかな?」
国王陛下とは15歳離れた腹違いの若い王弟殿下は、クレイ殿下のお兄様だと言われても違和感がないくらいだ。
プラチナの髪を後ろに撫で付け、モノクルをかけた姿は理知的な文官という雰囲気でとても安心できる。その分、その鋭さが怖い時もあるけれど……私には物腰優しく接してくれる。
「貴女は素晴らしい淑女です。身内の、アレをあてがってしまったのは本当に申し訳なかった。貴女にはきっと婚約の申し込みが殺到しているのでは?」
「えぇ、実は……たくさん、釣書をいただいてしまいまして」
「だが、まだご気分でない?」
本当に鋭い。という事は、分かっていてまだ私に話すべきではない、もしくは、宰相閣下から話すことではないという事なのかもしれない。
今日は見合いの話の雑談を少しだけして、お時間を取らせてしまった事を詫びて、アンドリュー殿下の罪については経過観察という事をお願いして帰ることにしよう。
「そうなんです。私、政略結婚だと思っていたので、一臣下として殿下に耳を傾けていただける位にはなりたいと頑張っていたので……その、なんというか、今はあまり殿方と親しくなりたいという気持ちがわかなくて……」
「何、貴女はまだ若い。甥のせいで3年を無駄に過ごさせてしまいましたが、美しさには磨きがかかりました。焦る必要はありません」
私はその言葉にくすっと笑って、宰相閣下の方に水を向けた。
「そういう宰相閣下こそ、奥方はお決めにならないんですの? とても素敵ですもの、きっと交際を希望されてる女性が多いのでは?」
「いや、困りましたな……、私は何分仕事が恋人ですので。……ですから、リーン様。甥に何か罰を与えたくなったら、いつでもいらしてください。これが私の仕事ですし、アレはそれだけの事をしでかしているのです」
急に真顔になってアンドリュー殿下の話に戻されてしまっだ。
私は……裁きたいという気持ちはあまりない。落胆、が近いのかもしれない。思い出すと傷付く言葉や態度は多々あるけれど、今はそれを裁いたところで、という気持ちが強い。
私は曖昧に笑ってお礼を告げると、宰相閣下の部屋を辞した。
それにしても、みんな揃ってすごい怒りようだわ……。私が怒る暇が無いくらい。その方が、今は疲れた心が波立たなくていいけれど。
50
お気に入りに追加
5,688
あなたにおすすめの小説

【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す
干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」
応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。
もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。
わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。

【完結/短編】いつか分かってもらえる、などと、思わないでくださいね?
雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
宮廷の夜会で婚約者候補から外されたアルフェニア。不勉強で怠惰な第三王子のジークフリードの冷たい言葉にも彼女は微動だにせず、冷静に反論を展開する。
「お姉様ばかりずるいわ!」と言って私の物を奪っていく妹と「お姉さんなんだから我慢しなさい!」が口癖の両親がお祖父様の逆鱗に触れ破滅しました
まほりろ
恋愛
【完結済み】
妹はいつも「お姉様ばかりずるいわ!」と言って私の物を奪っていく。
誕生日プレゼントも、生誕祭のプレゼントも、お祖父様が外国に行ったときのお土産も、学園で首席合格しときに貰った万年筆も……全て妹に奪われた。
両親は妹ばかり可愛がり「お姉さんなんだから我慢しなさい!」「お前には妹への思いやりがないのか!」と言って私を叱る。
「もうすぐお姉様の十六歳の誕生日ね。成人のお祝いだから、みんな今までよりも高価な物をプレゼントして下さるはずよね? 私、新しい髪飾りとブローチとイヤリングとネックレスが欲しかったの!」
誕生日の一カ月前からこれでは、当日が思いやられます。
「ビアンカはお姉さんなんだから当然妹ののミアにプレゼントを譲るよな?」
「お姉さんなんだから、可愛い妹のミアのお願いを聞いてあげるわよね?」
両親は妹が私の物を奪っていくことを黙認している、いえ黙認どころか肯定していました。
私は妹に絶対に奪われないプレゼントを思いついた、贈った人も贈られた人も幸せになれる物。その上、妹と両親に一泡吹かせられる物、こんな素敵な贈り物他にはないわ!
そうして迎えた誕生日当日、妹は私が頂いたプレゼントを見て地団駄を踏んで悔しがるのでした。
全8話、約14500文字、完結済み。
※妹と両親はヒロインの敵です、祖父と幼馴染はヒロインの味方です。
※妹ざまぁ・両親ざまぁ要素有り、ハッピーエンド。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
他サイトにも投稿してます。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/07/17、18時、HOTランキング1位、総合ランキング1位、恋愛ランキング1位に入りました。応援して下さった皆様ありがとうございます!

[完結]貴方なんか、要りません
シマ
恋愛
私、ロゼッタ・チャールストン15歳には婚約者がいる。
バカで女にだらしなくて、ギャンブル好きのクズだ。公爵家当主に土下座する勢いで頼まれた婚約だったから断われなかった。
だから、条件を付けて学園を卒業するまでに、全てクリアする事を約束した筈なのに……
一つもクリア出来ない貴方なんか要りません。絶対に婚約破棄します。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる