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11 王弟宰相閣下がお怒りです
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魔術師団に差し入れを持って行った後、先んじて約束を取り付けていた宰相閣下の元を訪ねた。
「失礼します」
「どうぞ。……あぁ、リーン様。この度は……甥がご迷惑を」
「いえ、話を聞いてもらえなかった私が悪いのです、お気になさらないでください」
「まずはお掛けになってください。少し、お話をしましょう」
応接用のソファを勧められて座る。いよいよ国の大事について聞けるのか、と思ったら、話が斜め上の所から始まった。
「まずは、王室侮辱罪、契約不履行による反故の罪、それから度重なる浮気行為による貴女への侮辱罪、暴言と粗暴な態度による暴行罪、当てられた予算を賭博に使っていたのは……まだ殿下自身の予算内なのと今後2年は手をつけられないので不問としますが、さて、どれから……」
「お待ちください、宰相閣下。いえ、王弟殿下……あの、一応、甥御様の話ですよね?」
犯罪者の話をしている訳ではないはずだが、これはこの後『どれから執行いたしますか?』と続くのは間違いない。
王室侮辱罪については私の裁量にないはずだし、私は婚約が解消できたので少しずつだが元気を取り戻している。
それよりも、今王宮でアンドリュー殿下を傀儡にしてまで誰かが邪魔したい何かの方が気になるのだけれど……、それこそ私から話を切り出していい話ではなくて困ってしまった。
このままだと王弟である宰相閣下に無駄に時間を取らせたことになってしまう。
「もしや、私に無駄に時間を取らせた、などとお思いですかな?」
国王陛下とは15歳離れた腹違いの若い王弟殿下は、クレイ殿下のお兄様だと言われても違和感がないくらいだ。
プラチナの髪を後ろに撫で付け、モノクルをかけた姿は理知的な文官という雰囲気でとても安心できる。その分、その鋭さが怖い時もあるけれど……私には物腰優しく接してくれる。
「貴女は素晴らしい淑女です。身内の、アレをあてがってしまったのは本当に申し訳なかった。貴女にはきっと婚約の申し込みが殺到しているのでは?」
「えぇ、実は……たくさん、釣書をいただいてしまいまして」
「だが、まだご気分でない?」
本当に鋭い。という事は、分かっていてまだ私に話すべきではない、もしくは、宰相閣下から話すことではないという事なのかもしれない。
今日は見合いの話の雑談を少しだけして、お時間を取らせてしまった事を詫びて、アンドリュー殿下の罪については経過観察という事をお願いして帰ることにしよう。
「そうなんです。私、政略結婚だと思っていたので、一臣下として殿下に耳を傾けていただける位にはなりたいと頑張っていたので……その、なんというか、今はあまり殿方と親しくなりたいという気持ちがわかなくて……」
「何、貴女はまだ若い。甥のせいで3年を無駄に過ごさせてしまいましたが、美しさには磨きがかかりました。焦る必要はありません」
私はその言葉にくすっと笑って、宰相閣下の方に水を向けた。
「そういう宰相閣下こそ、奥方はお決めにならないんですの? とても素敵ですもの、きっと交際を希望されてる女性が多いのでは?」
「いや、困りましたな……、私は何分仕事が恋人ですので。……ですから、リーン様。甥に何か罰を与えたくなったら、いつでもいらしてください。これが私の仕事ですし、アレはそれだけの事をしでかしているのです」
急に真顔になってアンドリュー殿下の話に戻されてしまっだ。
私は……裁きたいという気持ちはあまりない。落胆、が近いのかもしれない。思い出すと傷付く言葉や態度は多々あるけれど、今はそれを裁いたところで、という気持ちが強い。
私は曖昧に笑ってお礼を告げると、宰相閣下の部屋を辞した。
それにしても、みんな揃ってすごい怒りようだわ……。私が怒る暇が無いくらい。その方が、今は疲れた心が波立たなくていいけれど。
「失礼します」
「どうぞ。……あぁ、リーン様。この度は……甥がご迷惑を」
「いえ、話を聞いてもらえなかった私が悪いのです、お気になさらないでください」
「まずはお掛けになってください。少し、お話をしましょう」
応接用のソファを勧められて座る。いよいよ国の大事について聞けるのか、と思ったら、話が斜め上の所から始まった。
「まずは、王室侮辱罪、契約不履行による反故の罪、それから度重なる浮気行為による貴女への侮辱罪、暴言と粗暴な態度による暴行罪、当てられた予算を賭博に使っていたのは……まだ殿下自身の予算内なのと今後2年は手をつけられないので不問としますが、さて、どれから……」
「お待ちください、宰相閣下。いえ、王弟殿下……あの、一応、甥御様の話ですよね?」
犯罪者の話をしている訳ではないはずだが、これはこの後『どれから執行いたしますか?』と続くのは間違いない。
王室侮辱罪については私の裁量にないはずだし、私は婚約が解消できたので少しずつだが元気を取り戻している。
それよりも、今王宮でアンドリュー殿下を傀儡にしてまで誰かが邪魔したい何かの方が気になるのだけれど……、それこそ私から話を切り出していい話ではなくて困ってしまった。
このままだと王弟である宰相閣下に無駄に時間を取らせたことになってしまう。
「もしや、私に無駄に時間を取らせた、などとお思いですかな?」
国王陛下とは15歳離れた腹違いの若い王弟殿下は、クレイ殿下のお兄様だと言われても違和感がないくらいだ。
プラチナの髪を後ろに撫で付け、モノクルをかけた姿は理知的な文官という雰囲気でとても安心できる。その分、その鋭さが怖い時もあるけれど……私には物腰優しく接してくれる。
「貴女は素晴らしい淑女です。身内の、アレをあてがってしまったのは本当に申し訳なかった。貴女にはきっと婚約の申し込みが殺到しているのでは?」
「えぇ、実は……たくさん、釣書をいただいてしまいまして」
「だが、まだご気分でない?」
本当に鋭い。という事は、分かっていてまだ私に話すべきではない、もしくは、宰相閣下から話すことではないという事なのかもしれない。
今日は見合いの話の雑談を少しだけして、お時間を取らせてしまった事を詫びて、アンドリュー殿下の罪については経過観察という事をお願いして帰ることにしよう。
「そうなんです。私、政略結婚だと思っていたので、一臣下として殿下に耳を傾けていただける位にはなりたいと頑張っていたので……その、なんというか、今はあまり殿方と親しくなりたいという気持ちがわかなくて……」
「何、貴女はまだ若い。甥のせいで3年を無駄に過ごさせてしまいましたが、美しさには磨きがかかりました。焦る必要はありません」
私はその言葉にくすっと笑って、宰相閣下の方に水を向けた。
「そういう宰相閣下こそ、奥方はお決めにならないんですの? とても素敵ですもの、きっと交際を希望されてる女性が多いのでは?」
「いや、困りましたな……、私は何分仕事が恋人ですので。……ですから、リーン様。甥に何か罰を与えたくなったら、いつでもいらしてください。これが私の仕事ですし、アレはそれだけの事をしでかしているのです」
急に真顔になってアンドリュー殿下の話に戻されてしまっだ。
私は……裁きたいという気持ちはあまりない。落胆、が近いのかもしれない。思い出すと傷付く言葉や態度は多々あるけれど、今はそれを裁いたところで、という気持ちが強い。
私は曖昧に笑ってお礼を告げると、宰相閣下の部屋を辞した。
それにしても、みんな揃ってすごい怒りようだわ……。私が怒る暇が無いくらい。その方が、今は疲れた心が波立たなくていいけれど。
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