9 / 21
9 魔術師団長がお怒りです
しおりを挟む
翌日、家に魔術師団でお世話になった魔術師団長のナルガ・ユガルク卿が訪ねていらした。
私は今は何とも言えない気分でいて、そんなに来客をお迎えできる気持ちでは無かったのだけど、私だって仕事中に勝手にお邪魔したのだ。出迎えないのは失礼にあたる、と思い、すぐにサロンにお茶の用意をさせて身支度を整え、急いで向かった。
「お待たせしました、ユガルク卿」
「リーン様……、この度の話、全てお伺いしました」
お話が早いというか……、あぁ、と思い当たる。パスカルお兄様と同い年で、王立学園では御学友で今も仲がいい(とは、はっきりは言われてないが月に1度は晩餐に招かれるらしい)のだった。
「パスカルお兄様からですか?」
「はい。……その前の聞き取り調査からおかしいとは思っていたのです。ですが……貴女が一所懸命に努力される姿に、そんなまさか、と思う甘い自分がいました。気付かずに、申し訳ありません」
「そんな……! ユガルク卿の謝る事ではございません」
深々と頭を下げられても困る。何もこの方には責任がない。むしろ、3年の間無駄に邪魔をしてしまったことになる。
「少々あの方は……、やり方が悪すぎました。この平民出の私ですら、許せないと思う程に」
ユガルク卿は、騎士爵の称号を持っている平民出の魔術師団長だ。見た目は20代後半だが、パスカルお兄様が30代半ばなのを考えると、何かしらの魔術が働いているのだろう。
「という訳ですので、騎士団長の許可を貰ってアンドリュー殿下にはいくつか魔道具の装備を義務付けさせました。ご本人の知らない効果も含めて」
どういう訳ででしょうか? と、聞いていい雰囲気では無いのでやめておいた。
おかしい。確かにアンドリュー殿下は浮気性……というか、本能に忠実な方だ。私に対してはその本能がどうにも向かなかった、それは私も努力してみて、結果ダメだったのだ。
思慮と分別が足りないし、視野が狭いし、『私ごときが』数年勉強して見えてきた物が見えていないのは明らかにおかしいのだけど……まず私は話を聞いてもらう、という段階にすら届かなかった。
忠言など申し上げたところで機嫌を損ねるだけで何の身にもならない。下手をしたら私に手をあげて、もっと酷い事になっていた可能性がある。
私は一令嬢だが、我が家は国にとって重要なポストにあることは分かる。
だが、陛下たちが公の場で無いにしても頭を下げ、筆頭公爵が外に話を漏らす(口が軽くてはそんな地位ではいられない)ような事態に加えて、完全に実力で騎士爵を貰った方が個人的……よね? な、制裁に出る程の大事になるとは思っていなかった。
ここまで頭の中を一瞬で考えが巡り、私はなるべく必要な情報だけを聞こうと質問を捻り出した。
「えぇと……どのような魔道具でしょう?」
「はい。一つ目は常に身体を疲労状態にする魔道具です。これは騎士の高圧訓練に使う物ですが、殿下は剣を嗜まれていたので女遊びが出来ないように体力を絞ります。また、魔法やアイテムの回復効果が出にくい魔道具も付けました。これもまた自己治癒力を高めるために使われる魔道具ですが、すぐ回復しては『訓練』になりませんので。もう一つ、これは殿下自身には内緒ですが、アミュレットを肌身離さず着けてもらって居ます。身代わりのお守りですね、そこに盗聴機能がついています。どうも、殿下だけでは……、ここまで愚かな事を成しえないというのがパスカルと私の見解です」
昨日、確かに「公爵の」とパスカルお兄様は言っていた。
アンドリュー殿下は、傀儡にされていた可能性がある……? 私はまだ国の大事については知る身ではないけれど、顔を曇らせた。
「それについては、追ってまた説明があるでしょう。貴女は1番の被害者だ、3年間よくがんばりましたね。いつでも、…….回復魔法の練習でなくとも……我々は貴女の来訪をお待ちしていますよ」
温かい言葉に少しだけ強張った体が解ける。
しかし、常に疲労状態に怪我の治りも遅いだなんて……下級騎士見習い、1年も続くのかな?
……とはいえ、ちょっとだけ、いい気味だ、なんて思ってしまったけれど。
周りの方のご厚意が温かいおかげかな。とても大事にされていると感じる。こんなにいい人ばかり王宮にいるのに、アンドリュー殿下はなぜ、と思わなくもない。
その後は何気ないお話をいくつか交わして、魔術師団の方々は甘味を好まれるので、お土産に焼き菓子をたくさん持って帰ってもらった。
私は今は何とも言えない気分でいて、そんなに来客をお迎えできる気持ちでは無かったのだけど、私だって仕事中に勝手にお邪魔したのだ。出迎えないのは失礼にあたる、と思い、すぐにサロンにお茶の用意をさせて身支度を整え、急いで向かった。
「お待たせしました、ユガルク卿」
「リーン様……、この度の話、全てお伺いしました」
お話が早いというか……、あぁ、と思い当たる。パスカルお兄様と同い年で、王立学園では御学友で今も仲がいい(とは、はっきりは言われてないが月に1度は晩餐に招かれるらしい)のだった。
「パスカルお兄様からですか?」
「はい。……その前の聞き取り調査からおかしいとは思っていたのです。ですが……貴女が一所懸命に努力される姿に、そんなまさか、と思う甘い自分がいました。気付かずに、申し訳ありません」
「そんな……! ユガルク卿の謝る事ではございません」
深々と頭を下げられても困る。何もこの方には責任がない。むしろ、3年の間無駄に邪魔をしてしまったことになる。
「少々あの方は……、やり方が悪すぎました。この平民出の私ですら、許せないと思う程に」
ユガルク卿は、騎士爵の称号を持っている平民出の魔術師団長だ。見た目は20代後半だが、パスカルお兄様が30代半ばなのを考えると、何かしらの魔術が働いているのだろう。
「という訳ですので、騎士団長の許可を貰ってアンドリュー殿下にはいくつか魔道具の装備を義務付けさせました。ご本人の知らない効果も含めて」
どういう訳ででしょうか? と、聞いていい雰囲気では無いのでやめておいた。
おかしい。確かにアンドリュー殿下は浮気性……というか、本能に忠実な方だ。私に対してはその本能がどうにも向かなかった、それは私も努力してみて、結果ダメだったのだ。
思慮と分別が足りないし、視野が狭いし、『私ごときが』数年勉強して見えてきた物が見えていないのは明らかにおかしいのだけど……まず私は話を聞いてもらう、という段階にすら届かなかった。
忠言など申し上げたところで機嫌を損ねるだけで何の身にもならない。下手をしたら私に手をあげて、もっと酷い事になっていた可能性がある。
私は一令嬢だが、我が家は国にとって重要なポストにあることは分かる。
だが、陛下たちが公の場で無いにしても頭を下げ、筆頭公爵が外に話を漏らす(口が軽くてはそんな地位ではいられない)ような事態に加えて、完全に実力で騎士爵を貰った方が個人的……よね? な、制裁に出る程の大事になるとは思っていなかった。
ここまで頭の中を一瞬で考えが巡り、私はなるべく必要な情報だけを聞こうと質問を捻り出した。
「えぇと……どのような魔道具でしょう?」
「はい。一つ目は常に身体を疲労状態にする魔道具です。これは騎士の高圧訓練に使う物ですが、殿下は剣を嗜まれていたので女遊びが出来ないように体力を絞ります。また、魔法やアイテムの回復効果が出にくい魔道具も付けました。これもまた自己治癒力を高めるために使われる魔道具ですが、すぐ回復しては『訓練』になりませんので。もう一つ、これは殿下自身には内緒ですが、アミュレットを肌身離さず着けてもらって居ます。身代わりのお守りですね、そこに盗聴機能がついています。どうも、殿下だけでは……、ここまで愚かな事を成しえないというのがパスカルと私の見解です」
昨日、確かに「公爵の」とパスカルお兄様は言っていた。
アンドリュー殿下は、傀儡にされていた可能性がある……? 私はまだ国の大事については知る身ではないけれど、顔を曇らせた。
「それについては、追ってまた説明があるでしょう。貴女は1番の被害者だ、3年間よくがんばりましたね。いつでも、…….回復魔法の練習でなくとも……我々は貴女の来訪をお待ちしていますよ」
温かい言葉に少しだけ強張った体が解ける。
しかし、常に疲労状態に怪我の治りも遅いだなんて……下級騎士見習い、1年も続くのかな?
……とはいえ、ちょっとだけ、いい気味だ、なんて思ってしまったけれど。
周りの方のご厚意が温かいおかげかな。とても大事にされていると感じる。こんなにいい人ばかり王宮にいるのに、アンドリュー殿下はなぜ、と思わなくもない。
その後は何気ないお話をいくつか交わして、魔術師団の方々は甘味を好まれるので、お土産に焼き菓子をたくさん持って帰ってもらった。
50
お気に入りに追加
5,688
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す
干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」
応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。
もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。
わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染との真実の愛は、そんなにいいものでしたか?
新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアとの婚約関係を築いていたロッド侯爵は、自信の幼馴染であるレミラとの距離を急速に近づけていき、そしてついに関係を持つに至った。そして侯爵はそれを真実の愛だと言い張り、アリシアの事を追放してしまう…。それで幸せになると確信していた侯爵だったものの、その後に待っていたのは全く正反対の現実だった…。
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染のために婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
新野乃花(大舟)
恋愛
クライク侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたエレーナの事を受け入れていた。しかしクライクはその後、自身の幼馴染であるシェリアの事ばかりを偏愛し、エレーナの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにクライクはエレーナのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったクライクは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】お前とは結婚しない!そう言ったあなた。私はいいのですよ。むしろ感謝いたしますわ。
まりぃべる
恋愛
「お前とは結婚しない!オレにはお前みたいな奴は相応しくないからな!」
そう私の婚約者であった、この国の第一王子が言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる