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9 魔術師団長がお怒りです

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 翌日、家に魔術師団でお世話になった魔術師団長のナルガ・ユガルク卿が訪ねていらした。

 私は今は何とも言えない気分でいて、そんなに来客をお迎えできる気持ちでは無かったのだけど、私だって仕事中に勝手にお邪魔したのだ。出迎えないのは失礼にあたる、と思い、すぐにサロンにお茶の用意をさせて身支度を整え、急いで向かった。

「お待たせしました、ユガルク卿」

「リーン様……、この度の話、全てお伺いしました」

 お話が早いというか……、あぁ、と思い当たる。パスカルお兄様と同い年で、王立学園では御学友で今も仲がいい(とは、はっきりは言われてないが月に1度は晩餐に招かれるらしい)のだった。

「パスカルお兄様からですか?」

「はい。……その前の聞き取り調査からおかしいとは思っていたのです。ですが……貴女が一所懸命に努力される姿に、そんなまさか、と思う甘い自分がいました。気付かずに、申し訳ありません」

「そんな……! ユガルク卿の謝る事ではございません」

 深々と頭を下げられても困る。何もこの方には責任がない。むしろ、3年の間無駄に邪魔をしてしまったことになる。

「少々あの方は……、やり方が悪すぎました。この平民出の私ですら、許せないと思う程に」

 ユガルク卿は、騎士爵の称号を持っている平民出の魔術師団長だ。見た目は20代後半だが、パスカルお兄様が30代半ばなのを考えると、何かしらの魔術が働いているのだろう。

「という訳ですので、騎士団長の許可を貰ってアンドリュー殿下にはいくつか魔道具の装備を義務付けさせました。ご本人の知らない効果も含めて」

 どういう訳ででしょうか? と、聞いていい雰囲気では無いのでやめておいた。

 おかしい。確かにアンドリュー殿下は浮気性……というか、本能に忠実な方だ。私に対してはその本能がどうにも向かなかった、それは私も努力してみて、結果ダメだったのだ。

 思慮と分別が足りないし、視野が狭いし、『私ごときが』数年勉強して見えてきた物が見えていないのは明らかにおかしいのだけど……まず私は話を聞いてもらう、という段階にすら届かなかった。

 忠言など申し上げたところで機嫌を損ねるだけで何の身にもならない。下手をしたら私に手をあげて、もっと酷い事になっていた可能性がある。

 私は一令嬢だが、我が家は国にとって重要なポストにあることは分かる。

 だが、陛下たちが公の場で無いにしても頭を下げ、筆頭公爵が外に話を漏らす(口が軽くてはそんな地位ではいられない)ような事態に加えて、完全に実力で騎士爵を貰った方が個人的……よね? な、制裁に出る程の大事になるとは思っていなかった。

 ここまで頭の中を一瞬で考えが巡り、私はなるべく必要な情報だけを聞こうと質問を捻り出した。

「えぇと……どのような魔道具でしょう?」

「はい。一つ目は常に身体を疲労状態にする魔道具です。これは騎士の高圧訓練に使う物ですが、殿下は剣を嗜まれていたので女遊びが出来ないように体力を絞ります。また、魔法やアイテムの回復効果が出にくい魔道具も付けました。これもまた自己治癒力を高めるために使われる魔道具ですが、すぐ回復しては『訓練』になりませんので。もう一つ、これは殿下自身には内緒ですが、アミュレットを肌身離さず着けてもらって居ます。身代わりのお守りですね、そこに盗聴機能がついています。どうも、殿下だけでは……、ここまで愚かな事を成しえないというのがパスカルと私の見解です」

 昨日、確かに「公爵の」とパスカルお兄様は言っていた。

 アンドリュー殿下は、傀儡にされていた可能性がある……? 私はまだ国の大事については知る身ではないけれど、顔を曇らせた。

「それについては、追ってまた説明があるでしょう。貴女は1番の被害者だ、3年間よくがんばりましたね。いつでも、…….回復魔法の練習でなくとも……我々は貴女の来訪をお待ちしていますよ」

 温かい言葉に少しだけ強張った体が解ける。

 しかし、常に疲労状態に怪我の治りも遅いだなんて……下級騎士見習い、1年も続くのかな?

 ……とはいえ、ちょっとだけ、いい気味だ、なんて思ってしまったけれど。

 周りの方のご厚意が温かいおかげかな。とても大事にされていると感じる。こんなにいい人ばかり王宮にいるのに、アンドリュー殿下はなぜ、と思わなくもない。

 その後は何気ないお話をいくつか交わして、魔術師団の方々は甘味を好まれるので、お土産に焼き菓子をたくさん持って帰ってもらった。
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