7 / 21
7 お父様がお怒りです
しおりを挟む
お父様の言葉にこの場の誰より私が驚いた。
何も国を離れる事はない。婚約はこうして解消されたのだし、アンドリュー殿下は今……動揺しているだけだろうし。そのせいで下着姿になっているのだけど。
「ちょうど我が領地は隣国と隣接しております。私も偉大なる陛下の臣民の一人であればこそ、輸出を抑えて国内への卸を優先してきました。宝石と絹の山を抱えて亡命を願えば済む話」
「いや、それは待たれよネルコム侯爵。何卒愚息の暴言を許されたい、この通りだ」
陛下、王妃様、王太子殿下が立ち上がって頭を下げた。私はとても困ってしまった、この方々に頭を下げてもらう理由なんて何もない。
「お、お父様……」
「陛下、皆さまどうか頭をおあげください。陛下方のお気持ちは分かっています。再三……そこの下着姿の下級騎士見習いに忠告……いえ、警告をしてくださった事も。私も少し頭に血が登りました」
御三方は頭を上げて着席し直す。
ちらっとアンドリュー殿下を見ると、その光景が信じられないようだった。
我が家の財政は国内消費が多いから『国庫の5分の1』の税で済んでいるだけで、直に輸出入を行えばそれどころじゃない納税額と、それ以上の儲けがある。
婚約者である私のこともだけれど、ネルコム侯爵家についてもこの殿下は何も知らなかったようだ。
お父様は……もしかして、それを見越してパフォーマンスを打ったのだろうか? でも、国王陛下に頭を下げさせるのはやりすぎだ。
「本当に申し訳ない。何卒この馬鹿に更生の機会を与えてほしい。本日より王城ではなく兵舎の寮にて暮らすことも申しつけておこう、未だに言われぬと理解できておらぬようだからな」
お父様とお母様の蔑むような目がアンドリュー殿下に向く。
ちょっと突飛な話だけれど、王族の処刑ともなれば、その罪状を国民に詳らかに明らかにしなければならない。
もし何か大きな事業が動くのだとしたら、それは得策では無い。民には王室は王室であり、一般人の感覚とは違うのだ。一緒くたに無能とされては、私によくしてくださっている陛下たちの能力まで見下されてしまう。謀反を狙う貴族も出てくるかもしれない。
今はおとなしく従って下級騎士見習いにアンドリュー殿下が収まってくれないと、アンドリュー殿下自身も王室にも良くない影響が出る。
あまり目を向けたくはないけど、アンドリュー殿下に目をやる。恥辱と怒りで顔を真っ赤にして拳を握って震えている。
私はこの人のために3年努力した。振り向いて欲しかった。広い目をもって、政略結婚を受け入れて欲しくて、……それ以上に暴言や態度を少しでも軟化させて欲しくて、頑張ったのだけど……。
周りの皆さまはこんなに優しく私を『励ましたり』『応援してくれたり』『慰めて』くれたけど、アンドリュー殿下はこの方々の優しさが伝わらないようだ。
ここで私が口を開いてもいい事は無い。
だって、アンドリュー殿下は私を睨みつけているんだもの。私のせいだと思ってるんだもの。
ごめんなさい、貴方の好みの女にはなれなかった、そこは私の責任です。でも、……ちょっと政治の勉強をした私が理解できた様々な事が目に入らないのは、私みたいな『女ごとき』よりも能力が下に見られてしまうので……控えた方がいいと思う。
「……では、ここに婚約破棄及びアンドリューの処遇を決定する。慰謝料と賠償金については、ネルコム侯爵、後程仔細の書類を送る」
「畏まりました。——そうそう、陛下。これは娘も知らず、私の耳に入ってきた事がいくつかありまして。アンドリュー殿下はどこから出ている金を使ったか知りませんが、下町の賭場でずいぶん派手に遊んでいたようです。娼館でも。一度、金庫の中身を確認された方がよろしいかと。では、失礼致します」
いこうか、と言われて私はクレイ王太子殿下と目が合った。寂しそうな目で見られてしまい、少しドギマギとしたが、一礼して王城を後にした。
何も国を離れる事はない。婚約はこうして解消されたのだし、アンドリュー殿下は今……動揺しているだけだろうし。そのせいで下着姿になっているのだけど。
「ちょうど我が領地は隣国と隣接しております。私も偉大なる陛下の臣民の一人であればこそ、輸出を抑えて国内への卸を優先してきました。宝石と絹の山を抱えて亡命を願えば済む話」
「いや、それは待たれよネルコム侯爵。何卒愚息の暴言を許されたい、この通りだ」
陛下、王妃様、王太子殿下が立ち上がって頭を下げた。私はとても困ってしまった、この方々に頭を下げてもらう理由なんて何もない。
「お、お父様……」
「陛下、皆さまどうか頭をおあげください。陛下方のお気持ちは分かっています。再三……そこの下着姿の下級騎士見習いに忠告……いえ、警告をしてくださった事も。私も少し頭に血が登りました」
御三方は頭を上げて着席し直す。
ちらっとアンドリュー殿下を見ると、その光景が信じられないようだった。
我が家の財政は国内消費が多いから『国庫の5分の1』の税で済んでいるだけで、直に輸出入を行えばそれどころじゃない納税額と、それ以上の儲けがある。
婚約者である私のこともだけれど、ネルコム侯爵家についてもこの殿下は何も知らなかったようだ。
お父様は……もしかして、それを見越してパフォーマンスを打ったのだろうか? でも、国王陛下に頭を下げさせるのはやりすぎだ。
「本当に申し訳ない。何卒この馬鹿に更生の機会を与えてほしい。本日より王城ではなく兵舎の寮にて暮らすことも申しつけておこう、未だに言われぬと理解できておらぬようだからな」
お父様とお母様の蔑むような目がアンドリュー殿下に向く。
ちょっと突飛な話だけれど、王族の処刑ともなれば、その罪状を国民に詳らかに明らかにしなければならない。
もし何か大きな事業が動くのだとしたら、それは得策では無い。民には王室は王室であり、一般人の感覚とは違うのだ。一緒くたに無能とされては、私によくしてくださっている陛下たちの能力まで見下されてしまう。謀反を狙う貴族も出てくるかもしれない。
今はおとなしく従って下級騎士見習いにアンドリュー殿下が収まってくれないと、アンドリュー殿下自身も王室にも良くない影響が出る。
あまり目を向けたくはないけど、アンドリュー殿下に目をやる。恥辱と怒りで顔を真っ赤にして拳を握って震えている。
私はこの人のために3年努力した。振り向いて欲しかった。広い目をもって、政略結婚を受け入れて欲しくて、……それ以上に暴言や態度を少しでも軟化させて欲しくて、頑張ったのだけど……。
周りの皆さまはこんなに優しく私を『励ましたり』『応援してくれたり』『慰めて』くれたけど、アンドリュー殿下はこの方々の優しさが伝わらないようだ。
ここで私が口を開いてもいい事は無い。
だって、アンドリュー殿下は私を睨みつけているんだもの。私のせいだと思ってるんだもの。
ごめんなさい、貴方の好みの女にはなれなかった、そこは私の責任です。でも、……ちょっと政治の勉強をした私が理解できた様々な事が目に入らないのは、私みたいな『女ごとき』よりも能力が下に見られてしまうので……控えた方がいいと思う。
「……では、ここに婚約破棄及びアンドリューの処遇を決定する。慰謝料と賠償金については、ネルコム侯爵、後程仔細の書類を送る」
「畏まりました。——そうそう、陛下。これは娘も知らず、私の耳に入ってきた事がいくつかありまして。アンドリュー殿下はどこから出ている金を使ったか知りませんが、下町の賭場でずいぶん派手に遊んでいたようです。娼館でも。一度、金庫の中身を確認された方がよろしいかと。では、失礼致します」
いこうか、と言われて私はクレイ王太子殿下と目が合った。寂しそうな目で見られてしまい、少しドギマギとしたが、一礼して王城を後にした。
50
お気に入りに追加
5,688
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す
干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」
応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。
もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。
わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染との真実の愛は、そんなにいいものでしたか?
新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアとの婚約関係を築いていたロッド侯爵は、自信の幼馴染であるレミラとの距離を急速に近づけていき、そしてついに関係を持つに至った。そして侯爵はそれを真実の愛だと言い張り、アリシアの事を追放してしまう…。それで幸せになると確信していた侯爵だったものの、その後に待っていたのは全く正反対の現実だった…。
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染のために婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
新野乃花(大舟)
恋愛
クライク侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたエレーナの事を受け入れていた。しかしクライクはその後、自身の幼馴染であるシェリアの事ばかりを偏愛し、エレーナの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにクライクはエレーナのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったクライクは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】お前とは結婚しない!そう言ったあなた。私はいいのですよ。むしろ感謝いたしますわ。
まりぃべる
恋愛
「お前とは結婚しない!オレにはお前みたいな奴は相応しくないからな!」
そう私の婚約者であった、この国の第一王子が言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる