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5 王太子殿下がお怒りです
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「まだ立場を理解できていないのか? 書類は確かに全て渡した。1枚目だけを読み下の書面に目を通さずサインをした。つまり、王室有責の婚約破棄であり、お前は廃嫡されて身分としては『下級騎士見習い』だ、自分でサインしたのだからな。このような交渉の場で、第二王子という立場よりそれは優先される」
「……ッ!」
確かに、廃嫡は継承権を失う事だけど、継承権を失った王子に下級騎士見習いという身分を先んじて国王陛下は与えた。
どちらが優先されるのかは場によるのだろうけど、こうして王家と侯爵家の契約に関する話し合いの中で、すでに『下級騎士見習い』となったアンドリュー殿下には、声をかけられない限り発言権はない……のかも?
第二王子というのは変わらないけれど、継承権を持たない王子、としての身分は下級騎士見習いが優先されるとなると……あぁ、家を継がない貴族の次男とか、そういう形なのかな。
王室の結婚は政略結婚。立派な公務で、その話し合いの場で家を離れて騎士見習いになった人が自由に発言できたら、命令系統が混乱してしまう。
少なくとも、陛下に発言を許してもらわないとできないだろう。だから、『父上』と呼び掛けようとしたのをクレイ王太子殿下は止めたのか。
なんてぼんやり考えていた。
私にとって都合のいいような展開が続いている。クレイ王太子殿下の声は冷たく厳しい。きっと、着席も許されていない、という事を言いたいからだろうけれど……。
「発言を許そう」
陛下の声まで冷たくなっている。
私がアンドリュー殿下好みの女になれなかったから婚約解消をお願いしたのに、まさかの婚約破棄という強い言葉に、実は内心ビックリしている。
我が家は確かに『国庫の5分の1』は支えているくらいは税を支払っているけれど、それは昔からのことだから、私が婚約してそのまま結婚して繋がりを強めたいということは……何か、大きな事でも始まるのかなと思っていた。
だから家臣である我が家は国のためにも繋がりを強く保つ必要がある、と……考えていたのだけど、アンドリュー殿下はもしかしてそれにも思い至らずに私からの我が家有責の婚約解消を待っていたの? それなら、やっぱり下級騎士からやった方がいいかもしれない。
「……許可をありがとうございます。私の不貞が問題ならば、この女にも不貞の疑いがあってしかるべきかと。騎士団と魔術師団は貴族の令息が主に所属する場所、たびたびそこに顔を出していたとか……」
「聞くに耐えない。お前は馬鹿なのか? 彼女が『一人で』そんな場所に行くはずが無いだろう。必ず差し入れを持って行っていた、『侍女に持たせて』だ。それともその侍女も混ざっての乱痴気騒ぎとでもいうつもりか? 侮辱罪まで適用されたいと見える」
クレイ殿下とお会いする時もそうだけれど、私は王宮を『一人では』歩き回らない。特にこの3年は……、好みになろうと頑張ったので、定例会の時には少し恥ずかしいようなドレスも着ていた。
とてもじゃないが、怖くて男性と二人きりになるのは無理だ。
「し、しかし……! 阿婆擦れのような召し物を着て、派手な化粧をしていました! 男漁りに違いありません」
それが貴方の好みだったからでしょう? 何を言い出すのかと思えば……、クレイ王太子殿下も陛下も呆れてしまっている。
「あらあら、まぁ……、阿婆擦れのような召し物、ですか?」
パチン、と王妃様が扇子を閉じた。目が笑っていないのに、微笑んでいる。
アンドリュー殿下……、もうこれ以上はやめた方がいいですよ。私に当たるだけなら家臣として多少聞き流せますが、今の貴方はここの誰よりも発言権がないのですから……。
「……ッ!」
確かに、廃嫡は継承権を失う事だけど、継承権を失った王子に下級騎士見習いという身分を先んじて国王陛下は与えた。
どちらが優先されるのかは場によるのだろうけど、こうして王家と侯爵家の契約に関する話し合いの中で、すでに『下級騎士見習い』となったアンドリュー殿下には、声をかけられない限り発言権はない……のかも?
第二王子というのは変わらないけれど、継承権を持たない王子、としての身分は下級騎士見習いが優先されるとなると……あぁ、家を継がない貴族の次男とか、そういう形なのかな。
王室の結婚は政略結婚。立派な公務で、その話し合いの場で家を離れて騎士見習いになった人が自由に発言できたら、命令系統が混乱してしまう。
少なくとも、陛下に発言を許してもらわないとできないだろう。だから、『父上』と呼び掛けようとしたのをクレイ王太子殿下は止めたのか。
なんてぼんやり考えていた。
私にとって都合のいいような展開が続いている。クレイ王太子殿下の声は冷たく厳しい。きっと、着席も許されていない、という事を言いたいからだろうけれど……。
「発言を許そう」
陛下の声まで冷たくなっている。
私がアンドリュー殿下好みの女になれなかったから婚約解消をお願いしたのに、まさかの婚約破棄という強い言葉に、実は内心ビックリしている。
我が家は確かに『国庫の5分の1』は支えているくらいは税を支払っているけれど、それは昔からのことだから、私が婚約してそのまま結婚して繋がりを強めたいということは……何か、大きな事でも始まるのかなと思っていた。
だから家臣である我が家は国のためにも繋がりを強く保つ必要がある、と……考えていたのだけど、アンドリュー殿下はもしかしてそれにも思い至らずに私からの我が家有責の婚約解消を待っていたの? それなら、やっぱり下級騎士からやった方がいいかもしれない。
「……許可をありがとうございます。私の不貞が問題ならば、この女にも不貞の疑いがあってしかるべきかと。騎士団と魔術師団は貴族の令息が主に所属する場所、たびたびそこに顔を出していたとか……」
「聞くに耐えない。お前は馬鹿なのか? 彼女が『一人で』そんな場所に行くはずが無いだろう。必ず差し入れを持って行っていた、『侍女に持たせて』だ。それともその侍女も混ざっての乱痴気騒ぎとでもいうつもりか? 侮辱罪まで適用されたいと見える」
クレイ殿下とお会いする時もそうだけれど、私は王宮を『一人では』歩き回らない。特にこの3年は……、好みになろうと頑張ったので、定例会の時には少し恥ずかしいようなドレスも着ていた。
とてもじゃないが、怖くて男性と二人きりになるのは無理だ。
「し、しかし……! 阿婆擦れのような召し物を着て、派手な化粧をしていました! 男漁りに違いありません」
それが貴方の好みだったからでしょう? 何を言い出すのかと思えば……、クレイ王太子殿下も陛下も呆れてしまっている。
「あらあら、まぁ……、阿婆擦れのような召し物、ですか?」
パチン、と王妃様が扇子を閉じた。目が笑っていないのに、微笑んでいる。
アンドリュー殿下……、もうこれ以上はやめた方がいいですよ。私に当たるだけなら家臣として多少聞き流せますが、今の貴方はここの誰よりも発言権がないのですから……。
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