上 下
4 / 21

4 国王陛下がお怒りです

しおりを挟む
「父上……?」

 アンドリュー殿下が怪訝な声をあげる。私も、何故いきなり書面が破かれたのか分からない。

 不安な顔で国王陛下を見ると、表情を一変させていた。

「これは転写式の用紙になっている。すまなかったな、リーン……、この婚約は王室有責の婚約破棄となる」

 確かに、私もアンドリュー殿下も二枚目以降の紙は読んでいなかった。

 私は余りにショックが強すぎて、アンドリュー殿下はもともと表面をなぞるようなお方だから、目を通していない。

 しっかりとサインが転写された紙の束を改めて渡される。私は驚いた余り淡々とそれを声に出していた。

「……婚約時の契約に違反し、時刻の遵守、及び、婚約者への不当な扱い、暴言、罵倒は品性を疑って然るべき内容であった。詳細は次の用紙に証言と共に書き連ねてある。また、『婚前の浮気は王室の特性上認められる側室を持つ行為』に含まれず、再三の警告を無視した事から廃嫡とし万一の場合にも王位継承権は発生しないとする。今後、1年間の下級騎士見習い、その後1年間の魔術師団預かりを経て、才覚無しと判断された場合は、無能として勘当する。その際持っている身分、当てられていた予算全ては没収となる。……えぇと……、そうなのですか?」

 自分でもどこから何を聞いていいのか分からず、国王陛下を伺いながら首を傾げた。

 目の端でアンドリュー殿下が俯き震えている。

「かせ!」

「きゃっ……?!」

 音を立てて立ち上がり、私からその婚約解消の書類をひったくり、次々に紙を見て表情を険しくしていく。

 私の読み上げた内容以外にも、何十枚にも渡る紙の束には婚約してからのアンドリュー殿下の契約不履行、私への不当な扱い、品行下劣に関する内容と警告の日時が仔細に記載されているらしい。

 アンドリュー殿下の顔から血の気が一気に引き、青を通り越して土気色になった顔色で書類を取り落とした。

「破り捨てても構わんが、お前の廃嫡は変わらぬ。書類の控えも当然ある。お主には15の時から言い聞かせてきた、そこから2年はまだ人目を一応は憚る可愛いものだったが……、リーンに対する罵詈雑言、罵倒、不適切な対応、全て許されると思うなよ、愚息めが!」

 陛下の一喝に、アンドリュー殿下が思わず足を引いて逃げ越しになる。

 座っている陛下の気迫に怯むくらいなら、まだ静かに警告を受けている間に態度を改めればよかったのに……、それか、私との婚約を解消したいと申し出てくれればよかったのに。

 私の無駄な3年間は返ってこない。

 この男が王子だから、ご兄弟が素晴らしいから、いつかは目が覚めてくれると、好みになろうと頑張ったけれど……。

 なんだか、力が抜けてしまった。私も怒っていた……悲しんでいたはずなのに、陛下の怒りに当てられて、その気持ちも冷めた。

 他の人が怒っている時に自分の気持ちは落ち着くのは、なんとなく経験がある。

 アンドリュー殿下は決して頭が悪いわけではない。今も何か考えているはずだ。次に何を言うのだろうと、私の死んだ魚の目が少し生き返った。漁れたての魚くらいには。

「父う……」

「黙れ」

 それを許さなかったのは、クレイ王太子殿下だった。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

大好きな彼女と幸せになってください

四季
恋愛
王女ルシエラには婚約者がいる。その名はオリバー、王子である。身分としては問題ない二人。だが、二人の関係は、望ましいとは到底言えそうにないもので……。

こんなに馬鹿な王子って本当に居るんですね。 ~馬鹿な王子は、聖女の私と婚約破棄するようです~

狼狼3
恋愛
次期王様として、ちやほやされながら育ってきた婚約者であるロラン王子。そんなロラン王子は、聖女であり婚約者である私を「顔がタイプじゃないから」と言って、私との婚約を破棄する。 もう、こんな婚約者知らない。 私は、今まで一応は婚約者だった馬鹿王子を陰から支えていたが、支えるのを辞めた。

美しい貴族の令嬢である婚約者を捨てた愚かな王子の末路は……。

四季
恋愛
美しい貴族の令嬢である婚約者を捨てた愚かな王子の末路は……とんでもないものでした。

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す

干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」 応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。 もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。 わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?

水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」 子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。 彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。 しかし彼女には、『とある噂』があった。 いい噂ではなく、悪い噂である。 そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。 彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。 これで責任は果たしました。 だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます

音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。 調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。 裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」 なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。 後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。

処理中です...