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3 婚約破棄を申し入れました
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目が覚めた時には自宅の自室で、結局私を抱きとめてくださった方が誰なのかは分からないまま、私はぼんやりと天蓋を見つめていた。
知ってはいた。女遊びの激しい方だと。私は、政略結婚で、王子に嫁ぐのだから……側室を持たれても、いいと思っていた。
でも、……無理だ。気持ちが悪かった。他人とまぐわっている男性を私が同じようにベッドの上で愛せるか? と自問自答するだけで吐き気がした。
両親に、無理でした、と言わなければ。何もかも説明して……、私が王室の仕組みに馴染めなかったからという事で、婚約を解消してもらおう。
あぁ、せっかく……皆さんよくしてくださったのに。婚約を解消するのだから、もう会いに行けばしないだろうけれど。
私はまだ気持ちが悪くて、枕元の水差しから水を一杯だけ飲んで、もう一度布団の中で丸くなった。
手指が、爪先が、温かな布団の中でも冷えて仕方なかった。
翌朝私が起きていくと、心配していたのかお父様とお母様が近付いてきた。私を支えるようにしてソファに座らせ、私の口から婚約の解消をお願いしたいことと、その理由を口にした。
「王室のお方ですから、側室を持たれるのは構わないと思っておりました。しかし、直に……その現場を目にしてしまい、私には……殿下の妻を務められないと、ハッキリ自覚しました。お父様、私の有責での解消となってしまいますが……、親不孝な娘をお許しください」
私は話しているうちに涙が出てきてしまった。
15歳……つまり、初めて『指南役』の方を知ってから、アンドリュー殿下は私に冷たくなった。
定例会には必ず遅れて現れて、ぬるいお茶を一息に飲み干し、一言言葉を交わして終わる。そのために、私は着飾ったり……最後の3年間は悪あがきをしてみたが、あれには……どうしても馴染めないと分かってしまった。
「お前はよくやった。辛い婚約を押し付けてしまってすまなかった……、すぐにでも解消できるよう話し合いの場を設けて貰うよう交渉する。……欠席するか?」
私はその言葉には首を横に振った。さすがに、私もアンドリュー殿下も成人したのだ。当人が居ないのはダメだろう。
そしてお父様は手早く国王陛下に交渉し、婚約解消の会談の場を設けた。
そこには、陛下に王妃様、クレイ王太子殿下と、アンドリュー殿下。
こちらは私と、お父様とお母様。立会人は宰相閣下が務めてくれた。
粛々と書類が取り交わされ、私がお父様に申し上げた『こちら有責の理由』の書類にサインをした。目の前に座っていたアンドリュー殿下に書類を渡した時、小さな声で彼は「やっとか」と呟いてニヤリと笑った。
それを見て、分かった。彼はずっと婚約破棄したかったのだ。自分有責ではなく、私が根をあげるのを待っていた。
3年の努力なんて、最初から無駄だった。鼻歌でも歌い出しそうな面持ちで彼はサインをする。
あの遅刻も、冷たい態度も、お茶一杯を飲み干して吐き出された罵倒も、全部このため。
馬鹿みたいだ。私の目は今、死んでいるのだろう。そもそもが間違えていた。
私はこの方に何も期待してはいけなかった。
私はこの方に振り向かれようとしてはいけなかった。
もう涙も出ない。
最後に書類の束を受け取った陛下は、一番上のサインをした書類を引き抜くと、そのままその場で破り捨てた。
……私の婚約解消、一体どうなるの?
知ってはいた。女遊びの激しい方だと。私は、政略結婚で、王子に嫁ぐのだから……側室を持たれても、いいと思っていた。
でも、……無理だ。気持ちが悪かった。他人とまぐわっている男性を私が同じようにベッドの上で愛せるか? と自問自答するだけで吐き気がした。
両親に、無理でした、と言わなければ。何もかも説明して……、私が王室の仕組みに馴染めなかったからという事で、婚約を解消してもらおう。
あぁ、せっかく……皆さんよくしてくださったのに。婚約を解消するのだから、もう会いに行けばしないだろうけれど。
私はまだ気持ちが悪くて、枕元の水差しから水を一杯だけ飲んで、もう一度布団の中で丸くなった。
手指が、爪先が、温かな布団の中でも冷えて仕方なかった。
翌朝私が起きていくと、心配していたのかお父様とお母様が近付いてきた。私を支えるようにしてソファに座らせ、私の口から婚約の解消をお願いしたいことと、その理由を口にした。
「王室のお方ですから、側室を持たれるのは構わないと思っておりました。しかし、直に……その現場を目にしてしまい、私には……殿下の妻を務められないと、ハッキリ自覚しました。お父様、私の有責での解消となってしまいますが……、親不孝な娘をお許しください」
私は話しているうちに涙が出てきてしまった。
15歳……つまり、初めて『指南役』の方を知ってから、アンドリュー殿下は私に冷たくなった。
定例会には必ず遅れて現れて、ぬるいお茶を一息に飲み干し、一言言葉を交わして終わる。そのために、私は着飾ったり……最後の3年間は悪あがきをしてみたが、あれには……どうしても馴染めないと分かってしまった。
「お前はよくやった。辛い婚約を押し付けてしまってすまなかった……、すぐにでも解消できるよう話し合いの場を設けて貰うよう交渉する。……欠席するか?」
私はその言葉には首を横に振った。さすがに、私もアンドリュー殿下も成人したのだ。当人が居ないのはダメだろう。
そしてお父様は手早く国王陛下に交渉し、婚約解消の会談の場を設けた。
そこには、陛下に王妃様、クレイ王太子殿下と、アンドリュー殿下。
こちらは私と、お父様とお母様。立会人は宰相閣下が務めてくれた。
粛々と書類が取り交わされ、私がお父様に申し上げた『こちら有責の理由』の書類にサインをした。目の前に座っていたアンドリュー殿下に書類を渡した時、小さな声で彼は「やっとか」と呟いてニヤリと笑った。
それを見て、分かった。彼はずっと婚約破棄したかったのだ。自分有責ではなく、私が根をあげるのを待っていた。
3年の努力なんて、最初から無駄だった。鼻歌でも歌い出しそうな面持ちで彼はサインをする。
あの遅刻も、冷たい態度も、お茶一杯を飲み干して吐き出された罵倒も、全部このため。
馬鹿みたいだ。私の目は今、死んでいるのだろう。そもそもが間違えていた。
私はこの方に何も期待してはいけなかった。
私はこの方に振り向かれようとしてはいけなかった。
もう涙も出ない。
最後に書類の束を受け取った陛下は、一番上のサインをした書類を引き抜くと、そのままその場で破り捨てた。
……私の婚約解消、一体どうなるの?
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