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2 婚約者の浮気性は直りませんでした
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最後の定例のお茶会に、諦めた私は自分好みの清楚でシンプルなドレスに、それに合わせて素顔を活かすような化粧をして、綺麗に髪を結いあげて向かった。
変わろうと努力を重ねるたびにひどくなっていった罵倒の言葉を思えば、ただ迷惑そうにお茶を飲まれていた時の方がマシだった。
努力の結果、親しくなった陛下と王妃様に早めに来てご挨拶をし、魔術師団と騎士団にも差し入れを持っていき、今日の定例会の結果次第では会えなくなるのかもしれないと思ったら少し涙が滲んだが、堪えて笑顔で挨拶をして回った。
王太子殿下……クレイ殿下とも、図書室でお会いした。私の普段とは違う定例会の格好を褒めてくださり、とても綺麗だと『励まして』くださった。
アンドリュー殿下よりも薄い金髪に同じ紫の瞳、勤勉な方で、理知的な顔立ちは整っていて美形だなと思う。
比べてアンドリュー殿下はかっこいいというか、少し野性味を感じさせる所があるが、そこがまた女性にモテる理由なのだろう。
私には、今はもうそのかっこよさは理解できないし、私がいるのに、という気持ちもあるのでときめけないのだが、頑張ろうと思ったのはやっぱり第一印象と、兄であるクレイ殿下の性質を思ったからだ。
クレイ殿下のように、本当の意味で分け隔てなく誰にでも接してくれる人になられるかもしれないと……、まだ少し本気で、期待している。馬鹿だな、と同時に思うのだけれど。
定例会の時間が近付いてきたので、クレイ殿下とのお喋りを切り上げて、微笑んで一礼して御前を失礼した。
両親に婚約の解消は願ったけれど、今日ダメならば、と私は泣きながらも少しだけ未練を抱いていた。
侍女に案内されて慣れた王城を歩く。アンドリュー殿下の部屋に近付くと、扉の前には2人の使用人が立っていて、慌てて私を足止めしてきた。
「申し訳ございません、別のサロンにお茶を用意させますので、暫くお待ちいただけないでしょうか? ネルコム侯爵令嬢」
「すぐに殿下は向かわれますので、何卒お願い致します……!」
意味が分からなかった。
定例会はいつもアンドリュー殿下の部屋と決めてあるし、当然ながら婚約の書類にもその旨は記載されている。契約なのだから、それを破るのは、さすがの私も嫌だった。
そして、嫌な予感もしていた。まさかとは思う、思うが、それでも私に触れて止める権利はここにいる使用人にも侍女にも無い。
震える手でドアに手を掛け、そっと開ける。
脱ぎ捨てられたハイヒールとストッキングは、立派な天蓋付きのベッドまで点々と転がっていて、最後にはアンドリュー殿下好みの派手なドレスがベッドに引っかかっており、そのベッドが淫らな音と一緒に軋んでいる。
さすがに……さすがに無いだろうと思っていたのに。
まさか私との定例会の日、その時間に、契約の場所で他の女性とまぐわっている姿を見せられるなんて。
「イヤーーーー!!」
私は一気に溢れた涙と共に、堪えきれなかった叫びを上げて、そのまま気絶した。
誰かが、私の体を抱き止めてくれた事だけは覚えているが、その後の記憶はなかった。
変わろうと努力を重ねるたびにひどくなっていった罵倒の言葉を思えば、ただ迷惑そうにお茶を飲まれていた時の方がマシだった。
努力の結果、親しくなった陛下と王妃様に早めに来てご挨拶をし、魔術師団と騎士団にも差し入れを持っていき、今日の定例会の結果次第では会えなくなるのかもしれないと思ったら少し涙が滲んだが、堪えて笑顔で挨拶をして回った。
王太子殿下……クレイ殿下とも、図書室でお会いした。私の普段とは違う定例会の格好を褒めてくださり、とても綺麗だと『励まして』くださった。
アンドリュー殿下よりも薄い金髪に同じ紫の瞳、勤勉な方で、理知的な顔立ちは整っていて美形だなと思う。
比べてアンドリュー殿下はかっこいいというか、少し野性味を感じさせる所があるが、そこがまた女性にモテる理由なのだろう。
私には、今はもうそのかっこよさは理解できないし、私がいるのに、という気持ちもあるのでときめけないのだが、頑張ろうと思ったのはやっぱり第一印象と、兄であるクレイ殿下の性質を思ったからだ。
クレイ殿下のように、本当の意味で分け隔てなく誰にでも接してくれる人になられるかもしれないと……、まだ少し本気で、期待している。馬鹿だな、と同時に思うのだけれど。
定例会の時間が近付いてきたので、クレイ殿下とのお喋りを切り上げて、微笑んで一礼して御前を失礼した。
両親に婚約の解消は願ったけれど、今日ダメならば、と私は泣きながらも少しだけ未練を抱いていた。
侍女に案内されて慣れた王城を歩く。アンドリュー殿下の部屋に近付くと、扉の前には2人の使用人が立っていて、慌てて私を足止めしてきた。
「申し訳ございません、別のサロンにお茶を用意させますので、暫くお待ちいただけないでしょうか? ネルコム侯爵令嬢」
「すぐに殿下は向かわれますので、何卒お願い致します……!」
意味が分からなかった。
定例会はいつもアンドリュー殿下の部屋と決めてあるし、当然ながら婚約の書類にもその旨は記載されている。契約なのだから、それを破るのは、さすがの私も嫌だった。
そして、嫌な予感もしていた。まさかとは思う、思うが、それでも私に触れて止める権利はここにいる使用人にも侍女にも無い。
震える手でドアに手を掛け、そっと開ける。
脱ぎ捨てられたハイヒールとストッキングは、立派な天蓋付きのベッドまで点々と転がっていて、最後にはアンドリュー殿下好みの派手なドレスがベッドに引っかかっており、そのベッドが淫らな音と一緒に軋んでいる。
さすがに……さすがに無いだろうと思っていたのに。
まさか私との定例会の日、その時間に、契約の場所で他の女性とまぐわっている姿を見せられるなんて。
「イヤーーーー!!」
私は一気に溢れた涙と共に、堪えきれなかった叫びを上げて、そのまま気絶した。
誰かが、私の体を抱き止めてくれた事だけは覚えているが、その後の記憶はなかった。
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