22 / 22
22 愛の告白は夕暮れの生徒会室で
しおりを挟む
「ユーリカ嬢……」
「バルティ様……どうなさいました?」
「貴女こそ。……いえ、きっと同じ理由だと思いますが」
窓辺から校内の中庭を見下ろす。夕陽だけが明かりのこの部屋で、私たちはたくさんの時間を共有してきた。
ここだけじゃない、今では校門から、校舎のあちこちまで、バルティ様との思い出でいっぱいだ。
離れ離れになるのが寂しい。窓ガラスに添えていた手をぎゅっと握って涙を堪える。
「……今日で、約束していた契約は終わりです」
ビクっと、剥き出しの肩が揺れてしまう。言われたくなかった。居心地のいいこの方のそばで、ずっとずっと過ごしたかった。
でも、私たちの契約は終わるのだ。そばにいる資格を無くしてしまう。
真実の愛なんてクソッタレだ、なんて思っていた私が、今はそれをこの方に……バルティ様に言われたくて仕方がない。
「……泣かないでください、ユーリカ嬢。さぁ、ここに座って」
ハンカチを差し出してくれたのを受け取り、ひいてくれた椅子に座る。
副会長として仕事をしていた椅子だ。この椅子ともお別れだ。全てが始まった椅子は、今は生徒会長の机に背を向け、バルティ様の方へ向いている。
涙目の私はハンカチで目端の涙をそっと拭う。そして、バルティ様が私の目の前に跪いた。
勝手に手を取ることはしない。私に向けて手を差し出し、重ねられるのを待っている。
薄く微笑んだ顔は嫌味な所など少しもなく、初めて……王宮のお茶会で初めて出会った時のように、まっすぐ、臆さず、私を見つめてくれる。
恐る恐る手を重ねた。白い絹の長手袋は、夕陽に煌めきながらオレンジ色に染まっている。
「ユーリカ嬢、いえ、ユーリカ。私は貴女を愛しています。どうか、この気持ちを受け止めてください」
手を取る以上の事はしない。真っ直ぐ青い瞳を煌めかせて、私を見てくる。同じくらい真っ直ぐな言葉に、私は胸を詰まらせた。
一緒の気持ちだった。嬉しい。でも、いつから? 私はバルティ様とこうして交流を重ね、花束を貰うまであの日の男の子と重ねることすらできなかったのに。
「ずっと……最初のお茶会から、会うたびに貴女に目が釘付けでした。学園で成績を競うときも、生徒会で仕事をしたときも……契約などと言って貴女の時間を独占しようとした。守りたかった。……上手に守れなかったけれど、次からは間違えません。貴女を守ります、ユーリカ」
「バルティ様……」
「私の愛と誓いを受け止めてもらえますか?」
私は借りたハンカチで涙を拭うと、嬉し泣きを堪えて笑った。これからは、彼に可愛いと言ってもらえるような……凛々しい私ではなく、可愛い私になれるように努力したい。
「もちろんです。私も、貴方を愛しています」
バルティ様の唇が私の手の甲に落ちる。
「一生離してあげませんよ。……ユーリカ、貴女はとても美しく可憐です」
「ふふ、……バルティ様は、いつも真っ直ぐですね」
子供の時から変わらない。
でも、同じくらいだった背丈も肩幅も今ではずっとバルティ様の方が大きい。
私は椅子に座ったまま、目を細めて頰を撫で、こちらに覆い被さる彼を見つめていた。
顔が近づいてくる。夕陽が沈む間際の一際眩しい光の中で私は目を伏せ、彼の唇が自分の唇に重なるのを、受け入れた。
……ずいぶん長く待たせてしまったようだから、この位はね。
苦楽を共にした生徒会室で、初めてのキスをして、私とバルティ様は手を重ねて、階下から微かに聴こえてくる音楽に身を委ねてゆっくりと踊った。
……のちに、夕暮れの生徒会室で告白をすると永遠に幸せに暮らせる、なんて噂が流れたらしいけれど、さて、それは……自分たち次第かな。
「バルティ様……どうなさいました?」
「貴女こそ。……いえ、きっと同じ理由だと思いますが」
窓辺から校内の中庭を見下ろす。夕陽だけが明かりのこの部屋で、私たちはたくさんの時間を共有してきた。
ここだけじゃない、今では校門から、校舎のあちこちまで、バルティ様との思い出でいっぱいだ。
離れ離れになるのが寂しい。窓ガラスに添えていた手をぎゅっと握って涙を堪える。
「……今日で、約束していた契約は終わりです」
ビクっと、剥き出しの肩が揺れてしまう。言われたくなかった。居心地のいいこの方のそばで、ずっとずっと過ごしたかった。
でも、私たちの契約は終わるのだ。そばにいる資格を無くしてしまう。
真実の愛なんてクソッタレだ、なんて思っていた私が、今はそれをこの方に……バルティ様に言われたくて仕方がない。
「……泣かないでください、ユーリカ嬢。さぁ、ここに座って」
ハンカチを差し出してくれたのを受け取り、ひいてくれた椅子に座る。
副会長として仕事をしていた椅子だ。この椅子ともお別れだ。全てが始まった椅子は、今は生徒会長の机に背を向け、バルティ様の方へ向いている。
涙目の私はハンカチで目端の涙をそっと拭う。そして、バルティ様が私の目の前に跪いた。
勝手に手を取ることはしない。私に向けて手を差し出し、重ねられるのを待っている。
薄く微笑んだ顔は嫌味な所など少しもなく、初めて……王宮のお茶会で初めて出会った時のように、まっすぐ、臆さず、私を見つめてくれる。
恐る恐る手を重ねた。白い絹の長手袋は、夕陽に煌めきながらオレンジ色に染まっている。
「ユーリカ嬢、いえ、ユーリカ。私は貴女を愛しています。どうか、この気持ちを受け止めてください」
手を取る以上の事はしない。真っ直ぐ青い瞳を煌めかせて、私を見てくる。同じくらい真っ直ぐな言葉に、私は胸を詰まらせた。
一緒の気持ちだった。嬉しい。でも、いつから? 私はバルティ様とこうして交流を重ね、花束を貰うまであの日の男の子と重ねることすらできなかったのに。
「ずっと……最初のお茶会から、会うたびに貴女に目が釘付けでした。学園で成績を競うときも、生徒会で仕事をしたときも……契約などと言って貴女の時間を独占しようとした。守りたかった。……上手に守れなかったけれど、次からは間違えません。貴女を守ります、ユーリカ」
「バルティ様……」
「私の愛と誓いを受け止めてもらえますか?」
私は借りたハンカチで涙を拭うと、嬉し泣きを堪えて笑った。これからは、彼に可愛いと言ってもらえるような……凛々しい私ではなく、可愛い私になれるように努力したい。
「もちろんです。私も、貴方を愛しています」
バルティ様の唇が私の手の甲に落ちる。
「一生離してあげませんよ。……ユーリカ、貴女はとても美しく可憐です」
「ふふ、……バルティ様は、いつも真っ直ぐですね」
子供の時から変わらない。
でも、同じくらいだった背丈も肩幅も今ではずっとバルティ様の方が大きい。
私は椅子に座ったまま、目を細めて頰を撫で、こちらに覆い被さる彼を見つめていた。
顔が近づいてくる。夕陽が沈む間際の一際眩しい光の中で私は目を伏せ、彼の唇が自分の唇に重なるのを、受け入れた。
……ずいぶん長く待たせてしまったようだから、この位はね。
苦楽を共にした生徒会室で、初めてのキスをして、私とバルティ様は手を重ねて、階下から微かに聴こえてくる音楽に身を委ねてゆっくりと踊った。
……のちに、夕暮れの生徒会室で告白をすると永遠に幸せに暮らせる、なんて噂が流れたらしいけれど、さて、それは……自分たち次第かな。
2
お気に入りに追加
1,234
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
私の婚約者が浮気をする理由
風見ゆうみ
恋愛
ララベル・キーギス公爵令嬢はキーギス家の長女で、次期女公爵になる事が決まっていた。
ララベルは、幼い頃から、ミーデンバーグ公爵家の後継ぎとして決まっているフィアンに思いを寄せていたが、キーギス家を継ぐつもりのララベルにとって、叶わぬ恋の相手の為、彼を諦めようと努力していた。
そうしている内に、彼女には辺境伯の次男である、ニール・メフェナムという婚約者ができた。
ある日、彼が他の女性とカフェで談笑しているところを見たララベルは、その場で彼に問いただしたが「浮気は男の本能なんだ。心は君の元にある」と言われてしまう。
彼との婚約は王命であり、婚約を解消をするには相手の承諾がいるが、ニールは婚約解消を受け入れない。
日が経つにつれ、ニールの浮気は度を越していき…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物、その他諸々現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観です。
※話が合わない場合はとじていただきますよう、お願い致します。
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
わがまま妹、自爆する
四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。
そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?
絶対に離縁しません!
緑谷めい
恋愛
伯爵夫人マリー(20歳)は、自邸の一室で夫ファビアン(25歳)、そして夫の愛人ロジーヌ(30歳)と対峙していた。
「マリー、すまない。私と離縁してくれ」
「はぁ?」
夫からの唐突な求めに、マリーは驚いた。
夫に愛人がいることは知っていたが、相手のロジーヌが30歳の未亡人だと分かっていたので「アンタ、遊びなはれ。ワインも飲みなはれ」と余裕をぶっこいていたマリー。まさか自分が離縁を迫られることになるとは……。
※ 元鞘モノです。苦手な方は回避してください。全7話完結予定。
旦那様の秘密 ~人も羨む溺愛結婚、の筈がその実態は白い結婚!?なのにやっぱり甘々って意味不明です~
夏笆(なつは)
恋愛
溺愛と言われ、自分もそう感じながらハロルドと結婚したシャロンだが、その婚姻式の夜『今日は、疲れただろう。ゆっくり休むといい』と言われ、それ以降も夫婦で寝室を共にしたことは無い。
それでも、休日は一緒に過ごすし、朝も夜も食事は共に摂る。しかも、熱量のある瞳でハロルドはシャロンを見つめている。
浮気をするにしても、そのような時間があると思えず、むしろ誰よりも愛されているのでは、と感じる時間が多く、悩んだシャロンは、ハロルドに直接問うてみることに決めた。
そして知った、ハロルドの秘密とは・・・。
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
このようなことを意見するのは不快に感じられるかもしれませんが
14話 ディーノの最後の方の大言壮厳ですが大言壮語の間違いではないでしょうか。
ありがとうございます!
修正しました!
完結おめでとうございます!
ありがとうございます!
甘酸っぱくて、それだけでもなくて、大人の階段を登る段階の青春に乾杯♪的な感覚で読んじゃいました(*´ω`*)