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17 全校生徒集会
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全校生徒の集会が開かれることになった。
副会長だというのに、今回私は当日の朝までそれを知らされることはなく、ましていつもなら裏方で忙しくするはずが、今や針の筵と化したクラスメイトたちと共に大講堂の席につかなければならない。なんのイジメだこれ。
私の両隣の席は人一人分ずつ開けられている。まったくもって不愉快だし、貴族になろうという人のこれがする事か、とも思う。……あと一年もせずに大人になれば、これはイジメなどでは済まないのだから、とも思っているけど。
もし貴族の中でこのように身分が高い辺境伯を除け者にし、まして嘘の情報に踊らされるようでは、国として立ち行かなくなる。学生だから今はいいだろう。だけど私が何を言っても『私が殿下に横恋慕して振られた上に殿下の従兄弟に慰められていた』などという悪辣な噂は消えはしない。
(……女に生まれたことが悲しくなるようなことばかりだわ……、私が男なら、そもそも殿下も気の迷いを起こさなかっただろうに)
しかし、将来的に考えて殿下の心が開かれないのは良いことではない。結局、これもまた臣下の役目だったと思うしかない。……女に生まれていたから、バルティ様も優しくしてくれるんだし。
(……、バルティ様は私が男でも、似たような状況に陥ったら優しくしてくれてたわね)
ふ、と一人で笑ってしまう。ヒソヒソ、という話し声が聞こえるが、私はこのぼっち状態と不名誉を回復するのに動くには……ちょっと色々とありすぎた。
そのうちに講堂の壇上にバルティ様とファリア嬢、そしてディーノ殿下が登壇された。
全校生徒が静まり返り、噂の渦中の3人を見る。私もだ、俯いてはいられない。
今回の殿下の顛末を公にするわけにはいかない。かと言って、私に対する不名誉を晴らさないのは生徒会長としても殿下としても失格だ。少なくとも、私はその烙印を押す。
「皆さん、お集まりくださりありがとうございます。——言葉にするのもバカバカしいのですが、現在この学園では根も葉もない噂が原因で一人の女性が名誉を傷付けられています。……いい加減になさい!」
静まり返った講堂に、バルティ様の怒号が響く。いつも薄ら笑いで、嫌味半分に正論で殴る、そんな彼が本気で怒った顔をしている。
「あなた方は将来、こちらにいるディーノ殿下とファリア嬢に仕える貴族になります。なのに、そのディーノ殿下を噂のタネにし、貴族間で勝手な噂を広げ、憶測で辺境伯の令嬢を侮辱し距離を置く。馬鹿ですか? それが敵国からの偽の情報だった時、この国を守る先頭に立つ辺境伯家の方を背中から刺すおつもりで? あなた方がしているのはそういうことです。まして、想像もできませんか? 国のトップとなる方のゴシップを貴族が広める……それが不敬罪にあたる、と」
学園の中では身分は関係ない。ということになっている。
しかし、私たちはいずれ卒業する。殿下の蒔いた種とはいえ、殿下が私に告白をしたことは公にはされていない。
その上で、現在陛下の唯一の跡取りである王太子をゴシップのネタにし、国の守りの要である辺境伯の娘を弾き出す。
愚策、愚劣、愚行極まりない。正論で殴るバルティ様の本領発揮だ。
私はそっと周囲を見渡した。三年生という事もあり、講堂では一番後ろの席に座っているからよく見える。
震えている女生徒が何人かいる。彼女らが噂を流したのだろう。もう自分たちでは止められないところまで、こうして全校生徒の前で誰かが止めてくれるまで。
生徒会にいれば自然と各クラスや部活動の人間と知り合い、名簿も見る事になる。俯いて震えているのは、公爵夫人になることに憧れる、家格の釣り合わない身分の女生徒ばかりだ。
別にそこまで身分差に厳しい国ではない。努力すれば、誰がバルティ様に見染められてもおかしくない。ただ、頭に『血が滲むような』とつくのだけれど。
「さて、私も鬼ではありません。何も誰かに謝罪しろとも言いませんし、ここで名乗り出てくる必要はありません。ただ、最初に噂を流した心当たりがある方は生徒会室へいらしてください。……見当はついているので、私が迎えに行ってもいいのですがね?」
バルティ様の薄ら笑いはゾッとするほど怒りを湛えている。眼鏡の奥の瞳が、怒りの炎で青く燃えている。
「さて、では私からは以上です。ディーノ殿下、どうぞ」
絶妙な間を置いて、バルティ様はディーノ殿下とファリア嬢を促した。
そして、お二人は揃って頭を下げる。
講堂の中が騒つく。私も驚いてしまった。まさか、公にする気だろうか?
それだけはやめて?! 私の不名誉はどうでもいいですから(なんせ事実の方が圧倒的にヤバいので)それだけはやめて?!
副会長だというのに、今回私は当日の朝までそれを知らされることはなく、ましていつもなら裏方で忙しくするはずが、今や針の筵と化したクラスメイトたちと共に大講堂の席につかなければならない。なんのイジメだこれ。
私の両隣の席は人一人分ずつ開けられている。まったくもって不愉快だし、貴族になろうという人のこれがする事か、とも思う。……あと一年もせずに大人になれば、これはイジメなどでは済まないのだから、とも思っているけど。
もし貴族の中でこのように身分が高い辺境伯を除け者にし、まして嘘の情報に踊らされるようでは、国として立ち行かなくなる。学生だから今はいいだろう。だけど私が何を言っても『私が殿下に横恋慕して振られた上に殿下の従兄弟に慰められていた』などという悪辣な噂は消えはしない。
(……女に生まれたことが悲しくなるようなことばかりだわ……、私が男なら、そもそも殿下も気の迷いを起こさなかっただろうに)
しかし、将来的に考えて殿下の心が開かれないのは良いことではない。結局、これもまた臣下の役目だったと思うしかない。……女に生まれていたから、バルティ様も優しくしてくれるんだし。
(……、バルティ様は私が男でも、似たような状況に陥ったら優しくしてくれてたわね)
ふ、と一人で笑ってしまう。ヒソヒソ、という話し声が聞こえるが、私はこのぼっち状態と不名誉を回復するのに動くには……ちょっと色々とありすぎた。
そのうちに講堂の壇上にバルティ様とファリア嬢、そしてディーノ殿下が登壇された。
全校生徒が静まり返り、噂の渦中の3人を見る。私もだ、俯いてはいられない。
今回の殿下の顛末を公にするわけにはいかない。かと言って、私に対する不名誉を晴らさないのは生徒会長としても殿下としても失格だ。少なくとも、私はその烙印を押す。
「皆さん、お集まりくださりありがとうございます。——言葉にするのもバカバカしいのですが、現在この学園では根も葉もない噂が原因で一人の女性が名誉を傷付けられています。……いい加減になさい!」
静まり返った講堂に、バルティ様の怒号が響く。いつも薄ら笑いで、嫌味半分に正論で殴る、そんな彼が本気で怒った顔をしている。
「あなた方は将来、こちらにいるディーノ殿下とファリア嬢に仕える貴族になります。なのに、そのディーノ殿下を噂のタネにし、貴族間で勝手な噂を広げ、憶測で辺境伯の令嬢を侮辱し距離を置く。馬鹿ですか? それが敵国からの偽の情報だった時、この国を守る先頭に立つ辺境伯家の方を背中から刺すおつもりで? あなた方がしているのはそういうことです。まして、想像もできませんか? 国のトップとなる方のゴシップを貴族が広める……それが不敬罪にあたる、と」
学園の中では身分は関係ない。ということになっている。
しかし、私たちはいずれ卒業する。殿下の蒔いた種とはいえ、殿下が私に告白をしたことは公にはされていない。
その上で、現在陛下の唯一の跡取りである王太子をゴシップのネタにし、国の守りの要である辺境伯の娘を弾き出す。
愚策、愚劣、愚行極まりない。正論で殴るバルティ様の本領発揮だ。
私はそっと周囲を見渡した。三年生という事もあり、講堂では一番後ろの席に座っているからよく見える。
震えている女生徒が何人かいる。彼女らが噂を流したのだろう。もう自分たちでは止められないところまで、こうして全校生徒の前で誰かが止めてくれるまで。
生徒会にいれば自然と各クラスや部活動の人間と知り合い、名簿も見る事になる。俯いて震えているのは、公爵夫人になることに憧れる、家格の釣り合わない身分の女生徒ばかりだ。
別にそこまで身分差に厳しい国ではない。努力すれば、誰がバルティ様に見染められてもおかしくない。ただ、頭に『血が滲むような』とつくのだけれど。
「さて、私も鬼ではありません。何も誰かに謝罪しろとも言いませんし、ここで名乗り出てくる必要はありません。ただ、最初に噂を流した心当たりがある方は生徒会室へいらしてください。……見当はついているので、私が迎えに行ってもいいのですがね?」
バルティ様の薄ら笑いはゾッとするほど怒りを湛えている。眼鏡の奥の瞳が、怒りの炎で青く燃えている。
「さて、では私からは以上です。ディーノ殿下、どうぞ」
絶妙な間を置いて、バルティ様はディーノ殿下とファリア嬢を促した。
そして、お二人は揃って頭を下げる。
講堂の中が騒つく。私も驚いてしまった。まさか、公にする気だろうか?
それだけはやめて?! 私の不名誉はどうでもいいですから(なんせ事実の方が圧倒的にヤバいので)それだけはやめて?!
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