13 / 17
本編
13 告白
しおりを挟む
「大事なお話がありますの、フィリップ王子」
今は晩餐の時。周りに使用人や侍従が居る中で、王子を呼び捨てにはできない。
私がそういう事を言われずとも理解する所を、フィリップ王子は評価してくれていた。彼は王子……国王と王妃に私が万全の体調で挨拶を済ませれば皇太子になる。
ただ見目がいいだけの女は選ばないのだ。位が高いだけで擦り寄ってくるような、教養があるだけで礼儀がないような、見目がいいだけで知識が無いような、そんな女性は選ばない。選べない、と言った方がいいのだろうか。
彼は王子で何でも持っている風でいながら、実際は色んなものに縛られていた。自分で選べる物はそう多くない。私達は似た物同士だと、一緒に過ごすうちに思った。私の思い上がりかもしれないけれど……。
私もきっと外から見たらそうだったのだろうなと思う。パーティーに出るためのドレスや宝飾品は惜しみなく与えられたけれど、家での自由時間なんてほんの少し。外では次期公爵夫人として恥ずかしくない振る舞いをし、政略結婚の相手としてモーガン様を尊重した。彼は……あの日まで私にとって尊敬に値する人だった。
そして今、心より尊敬できる人の伴侶として私は目の前の方と食事をとっている。尊敬だけじゃない、……私はこの方に恋をしている。
モーガン様は優しかった。初恋、だったと思う。いつしか、政略結婚である事の方が重くなって消えて無くなってしまっていたけれど。
フィリップ王子は違った。私を見て、評価しながら、温かな心遣いを忘れず、愛情を持って私に接してくれている。
私をあの廃人寸前の所から救ってくれたこの方に恋をするのに、そう時間はいらなかった。
だから話そうと思う。お母様の遺書を添えて。証拠としては充分な効力があるだろう、故人の遺書を偽造するのは重罪だ。
そして、強姦も重罪だ。特に貴族にとって、それは恥ずべき行いであるとされている。
そんな重罪を犯した男の息子の妻とならないで済んだと思うと、どこかホッとした気持ちがあった事は否めない。お母様の話を聞いたあの日から、葬儀以来、公爵の顔を見ずに過ごせた事は幸いだった。
「……リア。ジュリア? 大事な話って?」
「申し訳ありません、ぼうっとしておりました。えぇと……ここでは、少し」
「分かった。この後君の部屋でお茶にしよう。——支度しておいてくれ」
執事が流れるように一礼をして下がっていった。
晩餐の間、私はこの方に全てを打ち明けて委ねていいものか、悩みに悩んだ。やはり、とどこか半分血の繋がった妹の事を考えてしまう。けれど、あの時の形相と叫び。そして私とモーガン様の婚約を破棄させた事。
目の前の男性を見る。
お父様にも感じた事のない安心感で、私は、彼に委ねる事を決めた。
そして晩餐を終えたのち、私の部屋にはお茶の支度が済んでいた。デザートがわりの茶菓子が少しに、湯気のたっている紅茶。
そして人払いを済ませると、私は日記帳を机から持ってきてフィリップ王子に見せた。遺書もだ。
フィリップ王子は難しい顔で考え込みながら、日記をめくり、遺書を読み、これを少しの間預からせて欲しいと言った。
「絶対に悪いようにはしないから、信じて、ジュリア」
「はい、お願いします、フィリップ」
私は、今まで一人で抱えてきた物を、彼に委ねた。
今は晩餐の時。周りに使用人や侍従が居る中で、王子を呼び捨てにはできない。
私がそういう事を言われずとも理解する所を、フィリップ王子は評価してくれていた。彼は王子……国王と王妃に私が万全の体調で挨拶を済ませれば皇太子になる。
ただ見目がいいだけの女は選ばないのだ。位が高いだけで擦り寄ってくるような、教養があるだけで礼儀がないような、見目がいいだけで知識が無いような、そんな女性は選ばない。選べない、と言った方がいいのだろうか。
彼は王子で何でも持っている風でいながら、実際は色んなものに縛られていた。自分で選べる物はそう多くない。私達は似た物同士だと、一緒に過ごすうちに思った。私の思い上がりかもしれないけれど……。
私もきっと外から見たらそうだったのだろうなと思う。パーティーに出るためのドレスや宝飾品は惜しみなく与えられたけれど、家での自由時間なんてほんの少し。外では次期公爵夫人として恥ずかしくない振る舞いをし、政略結婚の相手としてモーガン様を尊重した。彼は……あの日まで私にとって尊敬に値する人だった。
そして今、心より尊敬できる人の伴侶として私は目の前の方と食事をとっている。尊敬だけじゃない、……私はこの方に恋をしている。
モーガン様は優しかった。初恋、だったと思う。いつしか、政略結婚である事の方が重くなって消えて無くなってしまっていたけれど。
フィリップ王子は違った。私を見て、評価しながら、温かな心遣いを忘れず、愛情を持って私に接してくれている。
私をあの廃人寸前の所から救ってくれたこの方に恋をするのに、そう時間はいらなかった。
だから話そうと思う。お母様の遺書を添えて。証拠としては充分な効力があるだろう、故人の遺書を偽造するのは重罪だ。
そして、強姦も重罪だ。特に貴族にとって、それは恥ずべき行いであるとされている。
そんな重罪を犯した男の息子の妻とならないで済んだと思うと、どこかホッとした気持ちがあった事は否めない。お母様の話を聞いたあの日から、葬儀以来、公爵の顔を見ずに過ごせた事は幸いだった。
「……リア。ジュリア? 大事な話って?」
「申し訳ありません、ぼうっとしておりました。えぇと……ここでは、少し」
「分かった。この後君の部屋でお茶にしよう。——支度しておいてくれ」
執事が流れるように一礼をして下がっていった。
晩餐の間、私はこの方に全てを打ち明けて委ねていいものか、悩みに悩んだ。やはり、とどこか半分血の繋がった妹の事を考えてしまう。けれど、あの時の形相と叫び。そして私とモーガン様の婚約を破棄させた事。
目の前の男性を見る。
お父様にも感じた事のない安心感で、私は、彼に委ねる事を決めた。
そして晩餐を終えたのち、私の部屋にはお茶の支度が済んでいた。デザートがわりの茶菓子が少しに、湯気のたっている紅茶。
そして人払いを済ませると、私は日記帳を机から持ってきてフィリップ王子に見せた。遺書もだ。
フィリップ王子は難しい顔で考え込みながら、日記をめくり、遺書を読み、これを少しの間預からせて欲しいと言った。
「絶対に悪いようにはしないから、信じて、ジュリア」
「はい、お願いします、フィリップ」
私は、今まで一人で抱えてきた物を、彼に委ねた。
94
お気に入りに追加
5,819
あなたにおすすめの小説
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
【完結】順序を守り過ぎる婚約者から、婚約破棄されました。〜幼馴染と先に婚約してたって……五歳のおままごとで誓った婚約も有効なんですか?〜
よどら文鳥
恋愛
「本当に申し訳ないんだが、私はやはり順序は守らなければいけないと思うんだ。婚約破棄してほしい」
いきなり婚約破棄を告げられました。
実は婚約者の幼馴染と昔、私よりも先に婚約をしていたそうです。
ただ、小さい頃に国外へ行ってしまったらしく、婚約も無くなってしまったのだとか。
しかし、最近になって幼馴染さんは婚約の約束を守るために(?)王都へ帰ってきたそうです。
私との婚約は政略的なもので、愛も特に芽生えませんでした。悔しさもなければ後悔もありません。
婚約者をこれで嫌いになったというわけではありませんから、今後の活躍と幸せを期待するとしましょうか。
しかし、後に先に婚約した内容を聞く機会があって、驚いてしまいました。
どうやら私の元婚約者は、五歳のときにおままごとで結婚を誓った約束を、しっかりと守ろうとしているようです。
両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?
水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」
「え……」
子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。
しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。
昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。
「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」
いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。
むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。
そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。
妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。
私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。
一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。
妹と再婚約?殿下ありがとうございます!
八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。
第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。
「彼女のことは私に任せろ」
殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします!
令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。
婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。
久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」
煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。
その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。
だったら良いでしょう。
私が綺麗に断罪して魅せますわ!
令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。
完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます
音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。
調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。
裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」
なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。
後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる