上 下
11 / 17
本編

11 王宮での暮らし

しおりを挟む
「ジュリア様、本日よりお付きの侍女となりますサラです。こちらは、リナと申します。よろしくお願いいたします」

「サラ、リナ、どうぞよろしく。暫く面倒をかけるわね」

 王宮の私に用意された部屋は広々として、落ち着きのある薄緑を基調とした壁紙や寝具に、黒く塗装された統一された家具、ソファだけは華やかな金枠に赤い天鵞絨張の物が置かれていた。

 衣装も持ってきたが、私に用意された部屋には衣装部屋もあり、ドレス等も用意されていて、持ってきたものを入れたらいっぱいになってしまったのには少し笑ってしまった。

 やっと荷物の整理が終わって落ち着いてお茶を飲んでいる所に、フィリップ王子が訪ねてきた。そのままで、と手で示されて隣に彼が腰掛ける。

「やぁ、ジュリア。新しい部屋は気に入ったかな?」

「細やかなお心遣いに感謝します。とても気に入りました」

「よかった。晩餐は私と二人で摂ろう。それから、明日から少しずつ晴れた日には散歩もしようね。まずは健康になってもらわなくちゃ」

「……フィリップ王子」

 私が少し恥ずかしそうに名前を呼ぶと、クス、と笑って王子は私の頭を撫でる。

 モーガン様にもこんなふうにされた事の無い私は、顔が赤くなるのを感じる。モーガン様は紳士で、政略結婚なのだから私に触れる事はしなかった。マリアとは腕を組んで散歩をしていたのに。

「実はまぁ、私は君とこうなりたいとずっと思っていたから渡りに船だったのだけれどね。……ジュリア、君は何か、一人で抱えきれない物を抱えているね?」

「……!」

 そこまで見透かされているとは思わなかった。

 落ち着いた紫紺の瞳は私の紫の瞳をじっと見つめる。

「まだ、いい。だけど、君が抱えていられなくなった時、私は君の信頼を得るつもりだから……信頼してもいいと思えた時、私に話してくれるね?」

「…………はい、フィリップ王子」

「フィリップ、と。二人きりの時はそう呼んでおくれ、ジュリア」

 そうやって私の肩を抱き寄せ頭を胸元に抱き寄せてくれる。

 こうして誰かの腕に抱かれたのは、お母様が元気だった時以来だ。まして殿方になど……モーガン様がこんな事をするはずもなくて。

 私はこの暖かさに、思わずまた泣いてしまった。

 フィリップ王子は私が泣き止むまで、優しく頭を撫でてくれていた。

 その日から私はフィリップ王子と晩餐をとり、忙しい合間を縫って彼が訪ねてきてくれれば王宮の庭を散歩し、何気ない会話を交わし、だんだんと元の健康な身体を……そして心を取り戻していった。

 張りのある健康的な筋肉のついた身体、日に当たって血の気を取り戻した肌、王宮で磨かれていく自分の変化には、私自身戸惑いを隠せなかった。仕事をしない間も勉強は続けた。王子の嫁となれば、未来の王妃である。怠ける事は自分が許せなかった。

 私がフィリップ王子に全てを打ち明けよう、そう決めたのは、そんな生活が1ヶ月も続いた頃だった。彼が私のためにしてくれる事に、私も答えたい。

 彼が私の心を溶かしてくれた。……だから一人で抱えずに、全てを打ち明けよう。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

【完結】順序を守り過ぎる婚約者から、婚約破棄されました。〜幼馴染と先に婚約してたって……五歳のおままごとで誓った婚約も有効なんですか?〜

よどら文鳥
恋愛
「本当に申し訳ないんだが、私はやはり順序は守らなければいけないと思うんだ。婚約破棄してほしい」  いきなり婚約破棄を告げられました。  実は婚約者の幼馴染と昔、私よりも先に婚約をしていたそうです。  ただ、小さい頃に国外へ行ってしまったらしく、婚約も無くなってしまったのだとか。  しかし、最近になって幼馴染さんは婚約の約束を守るために(?)王都へ帰ってきたそうです。  私との婚約は政略的なもので、愛も特に芽生えませんでした。悔しさもなければ後悔もありません。  婚約者をこれで嫌いになったというわけではありませんから、今後の活躍と幸せを期待するとしましょうか。  しかし、後に先に婚約した内容を聞く機会があって、驚いてしまいました。  どうやら私の元婚約者は、五歳のときにおままごとで結婚を誓った約束を、しっかりと守ろうとしているようです。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?

水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」 「え……」  子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。  しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。  昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。 「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」  いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。  むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。  そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。  妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。  私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。  一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。

妹と再婚約?殿下ありがとうございます!

八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。 第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。 「彼女のことは私に任せろ」 殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします! 令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。

【完結】婚約相手は私を愛してくれてはいますが病弱の幼馴染を大事にするので、私も婚約者のことを改めて考えてみることにします

よどら文鳥
恋愛
 私とバズドド様は政略結婚へ向けての婚約関係でありながら、恋愛結婚だとも思っています。それほどに愛し合っているのです。  このことは私たちが通う学園でも有名な話ではありますが、私に応援と同情をいただいてしまいます。この婚約を良く思ってはいないのでしょう。  ですが、バズドド様の幼馴染が遠くの地から王都へ帰ってきてからというもの、私たちの恋仲関係も変化してきました。  ある日、馬車内での出来事をきっかけに、私は本当にバズドド様のことを愛しているのか真剣に考えることになります。  その結果、私の考え方が大きく変わることになりました。

処理中です...