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12 魔物の死体は食糧です
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「ホーンラビット、ウェアウルフ、ダイヤウルフ、ワイルドベア、それからリバーリザードとファイアリザードはこっちへ! 女将さんたち、お願いしますね! マンドラゴラ、トレントの実、あとはそうですね、マタンゴはこっちです! トレントの枝は乾かしてください、肉を剥いだ後の毛皮は火の焚き付けに!」
目が覚めた私が何をしているかというと、水柱が上がった時に押し上げられてまた水面に戻った馬車の中でぐっすり眠った後、一番被害が大きい場所へと向かった。つまり、国の外縁だ。
中でも人が多く住んでいた集落の近くは、人が寄り集まり、冒険者が魔物を倒していた。これを逃す手はない。
瘴気で気が弱っていた女性陣も、今は第一線で働く台所戦士となってもらっている。
つまり、私は、魔物を捌いて炊き出しを行う支度をしているところだ。
「とにかく男性はかまどを組んで、ありったけの鍋に水を沸かしてください! 毛皮を剥ぐにもシチューを作るにもお湯は必要ですから! あと、手が空いてる人は串を削ってください、材料はそこのトレントの枝です!」
私一人ではせいぜい数十人分のご飯を作るので手一杯だが、私が指示した通りに動いてくれる、台所仕事が得意な女性陣が居れば何百人という人のお腹を満たす炊き出しができる。シチューならば、多めに作ってこまめに火入れをすれば3日はもつだろう。
とにかく、今この国には食べる物が無い。――と、思われている。実際は魔物の肉というのは、孤児院なんかの下層級では食べられていたものだ。冒険者も食べる。携行食だけでは、とても冒険などできない。
瘴気はそもそも、これだけ濃く満ちずに、時折瘴気だまりができるようなもので、魔物の姿をとった瞬間、それは瘴気ではなく魔物という『生き物』になり、生き物ということは、毒が無ければ食べられる。
私が孤児院で食べた事がある魔物は一通りそろっていた。ケンタウロスだとか、ミノタウロスだとかは抵抗があるので、冒険者さんで平気な人が調理してくれている。
ゴブリンなどは論外だ。あれはちょっと……無理だと思う。どんなにお腹が減っていても。
ありったけの干し薬草で魔物の肉の臭み抜きをするようにして、その間に煮えた水に塩とマンドラゴラ、マタンゴを削っていれる。トレントの実の中身はミルクのようになっていて、最後に入れた方がいい。油脂が多いので分離してしまう。
ホーンラビットやウルフ系、ワイルドベアは煮て食べるのが一番だが、リザード系は水を吐いたり炎を吐いたりするだけのトカゲだ。その器官を取り去って内臓を取り、綺麗に洗って外皮を剥いで、肉の塊にして作ってもらった串にさす。マタンゴを角切りにしたものを一緒に焼いてもいいだろう。
リザード系は肉の臭みがないので薬草は使わない。そして、直火で炙って油が弾ける頃には食べごろだ。孤児院でもごちそうの部類だった。
私はこうして炊き出しの指示を出し、それぞれの魔物の可食部と調理法を教えては、スレイプニルの馬車に乗って次へ次へと旅をした。スレイプニルも美味しそう……と、馬車に乗っている時にちらりと考えたら、何かを察したのか暴れられかけたので二度と考えないようにした。
「魔物……多いんですね。もしかして、魔法使いも……?」
「はい、グランドルム王国はもともと貴石の産出が多い国と隣接しています。この国でも貴石は取れますし、その影響か魔物もいれば、魔法を使える人間も多いです」
「聖人や聖女は……一体?」
この国にはいるはずなのに、と思って尋ねると、ガウェイン様は顔を曇らせた。
「聖人や聖女は……次代が現れると、力を失います。この国にも金剛の聖女もおりましたし、本来貴方は『聖域』で私と同じように育つはずだったのに……。紅玉の聖人や蒼玉の聖女もおりましたが、それでも3年もたせるので精いっぱいでした。彼らは子がいないので……瘴気が濃くなる時、次代に力が移るのです」
ガウェイン様の言葉を飲み込むにつれて、私は嫌な予感が拭いきれなくなっていった。
紅玉や蒼玉といえば、貴石の中でも相当に高価なものだ。
「その……もしかして、ローリニア国王は何か……その、して、いたのでしょうか?」
「……はい。貴女を使って、ローリニア国に満ちる瘴気を浄化ではなく、我が国へと反転させていました」
目が覚めた私が何をしているかというと、水柱が上がった時に押し上げられてまた水面に戻った馬車の中でぐっすり眠った後、一番被害が大きい場所へと向かった。つまり、国の外縁だ。
中でも人が多く住んでいた集落の近くは、人が寄り集まり、冒険者が魔物を倒していた。これを逃す手はない。
瘴気で気が弱っていた女性陣も、今は第一線で働く台所戦士となってもらっている。
つまり、私は、魔物を捌いて炊き出しを行う支度をしているところだ。
「とにかく男性はかまどを組んで、ありったけの鍋に水を沸かしてください! 毛皮を剥ぐにもシチューを作るにもお湯は必要ですから! あと、手が空いてる人は串を削ってください、材料はそこのトレントの枝です!」
私一人ではせいぜい数十人分のご飯を作るので手一杯だが、私が指示した通りに動いてくれる、台所仕事が得意な女性陣が居れば何百人という人のお腹を満たす炊き出しができる。シチューならば、多めに作ってこまめに火入れをすれば3日はもつだろう。
とにかく、今この国には食べる物が無い。――と、思われている。実際は魔物の肉というのは、孤児院なんかの下層級では食べられていたものだ。冒険者も食べる。携行食だけでは、とても冒険などできない。
瘴気はそもそも、これだけ濃く満ちずに、時折瘴気だまりができるようなもので、魔物の姿をとった瞬間、それは瘴気ではなく魔物という『生き物』になり、生き物ということは、毒が無ければ食べられる。
私が孤児院で食べた事がある魔物は一通りそろっていた。ケンタウロスだとか、ミノタウロスだとかは抵抗があるので、冒険者さんで平気な人が調理してくれている。
ゴブリンなどは論外だ。あれはちょっと……無理だと思う。どんなにお腹が減っていても。
ありったけの干し薬草で魔物の肉の臭み抜きをするようにして、その間に煮えた水に塩とマンドラゴラ、マタンゴを削っていれる。トレントの実の中身はミルクのようになっていて、最後に入れた方がいい。油脂が多いので分離してしまう。
ホーンラビットやウルフ系、ワイルドベアは煮て食べるのが一番だが、リザード系は水を吐いたり炎を吐いたりするだけのトカゲだ。その器官を取り去って内臓を取り、綺麗に洗って外皮を剥いで、肉の塊にして作ってもらった串にさす。マタンゴを角切りにしたものを一緒に焼いてもいいだろう。
リザード系は肉の臭みがないので薬草は使わない。そして、直火で炙って油が弾ける頃には食べごろだ。孤児院でもごちそうの部類だった。
私はこうして炊き出しの指示を出し、それぞれの魔物の可食部と調理法を教えては、スレイプニルの馬車に乗って次へ次へと旅をした。スレイプニルも美味しそう……と、馬車に乗っている時にちらりと考えたら、何かを察したのか暴れられかけたので二度と考えないようにした。
「魔物……多いんですね。もしかして、魔法使いも……?」
「はい、グランドルム王国はもともと貴石の産出が多い国と隣接しています。この国でも貴石は取れますし、その影響か魔物もいれば、魔法を使える人間も多いです」
「聖人や聖女は……一体?」
この国にはいるはずなのに、と思って尋ねると、ガウェイン様は顔を曇らせた。
「聖人や聖女は……次代が現れると、力を失います。この国にも金剛の聖女もおりましたし、本来貴方は『聖域』で私と同じように育つはずだったのに……。紅玉の聖人や蒼玉の聖女もおりましたが、それでも3年もたせるので精いっぱいでした。彼らは子がいないので……瘴気が濃くなる時、次代に力が移るのです」
ガウェイン様の言葉を飲み込むにつれて、私は嫌な予感が拭いきれなくなっていった。
紅玉や蒼玉といえば、貴石の中でも相当に高価なものだ。
「その……もしかして、ローリニア国王は何か……その、して、いたのでしょうか?」
「……はい。貴女を使って、ローリニア国に満ちる瘴気を浄化ではなく、我が国へと反転させていました」
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