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20 今日も私は王太子に溺愛されています
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「お疲れ様、ナターシャ。女性の外交は大変だな。少し割合を見直した方がよいのではないか?」
そう言って今日のご褒美に紅茶とフィナンシェをテーブルに並べてくださるのは、わたしの夫であり王太子であるアルフォンス様です。
私の外交が大変なのは認めますが、女性はおしゃべりが好きなのでしかたありません。その代わり、アルフォンス様には書類が毎朝どっさり届くはずですが、いつの間にお菓子を焼いてらっしゃるんでしょうね?
お風呂上がりの寝巻きのゆったりとしたドレスで、アルフォンス様と寝る前の時間をゆったりと過ごすのが日常になりました。
このまま同じベッドで眠るので……いえ、まぁ、その際何があるかはご想像に……いや、想像はしないでください。略です、略。
「アルフォンス様の書類の量に比べれば、ご婦人方のお話に耳を傾けているだけで様々な情報が入ってくるのでそう大変な事でもございません。……今日も美味しいです」
「それはよかった。明日はケーキでも作ろう」
どうやって時間を捻出していらっしゃるのか気になりますね。サボっているというわけでもないでしょうし。
「パーシバルがな……、よくやってくれている。だいぶ私の仕事は楽になってきた」
「もともと、学業成績は良いお方でしたからね。視野が広がって政治方面に目覚められたのなら何よりです」
わたしの隣に座ったアルフォンス様が、わたしの肩を抱き寄せます。広い胸に体を預けて飲む紅茶は、本当に安心できます。
「今日もきれいだ、私の光」
「もう、いつも思うんですが何ですかその光って。わたしは光っていませんよ」
「いいや、まばゆいよ。心配になってしまうな、誰にとられるかとはらはらする。この美しい金糸を結い上げて、前を見据える緑の瞳、それが毎日盛装して歩いているんだ。誰かに襲われたり口説かれたりしていないかな?」
言いながらアルフォンス様はわたしの洗って梳った髪に唇を落とし、頬に手を添えて上向かせると、緑の瞳を見つめながらわたしの唇に自身の唇を重ねられます。
薄く開いていた目が、その心地よさに閉じていくと、後はもう彼のなすがままです。もう少しお茶とお菓子を堪能したかったのですが、こうなると彼はとまりません。
余りに長い時間の片想いがそうさせるのか、わたしの腰に腕を回して抱き寄せ、膝の上に抱き上げてしまいます。
鍛えられた首に腕を回して体を預けると、今わたしはこの方にすべてを委ねていると実感できます。
わたしも彼の瞳を覗き込みます。彼の瞳は秋の青空です。夏ほど光に眩く薄くなく、冬ほど頼りない青ではなく、春ほど穏やかで優しいわけではない。
わたしたちの結婚した秋の空。それは、冬に備えながらも夏の残り火で大地を豊かにする青。
これを口に出すと、3倍ほどの量でわたしの瞳を褒めてくるので、褒められたい時以外はただわたしだけの宝物として眺めるようにしています。
目と目が合えば、また彼はわたしの唇に吸い付きます。そのまま、口の中に落とすように、低い掠れた声で愛してる、と言われては、抵抗する気も起きません。せいぜい可愛く抱きついて、ベッドにいきましょう、とねだるだけです。
今日もわたしは王太子に溺愛されています。
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